平成21（2009）年度　一般研究２実施報告書

課題番号	21−共研−2041		分野分類			統計数理研究所内分野分類			e
						主要研究分野分類			8
研究課題名	残留性有機化学物質データの組織化と発生源解析
フリガナ 代表者氏名	ハシモト シュンジ 橋本　俊次				ローマ字		Hashimoto, Shunji
所属機関	独立行政法人国立環境研究所
所属部局	化学環境研究領域
職　　名	主任研究員
配分経費	研究費	0千円		旅　費		0千円		研究参加者数		54　人

研究目的と成果（経過）の概要

ダイオキシン類をはじめとする残留性化学物質は、高い毒性と長期にわたる残留蓄積性から、ヒトや環境への有害影響が危惧されている。このため、国及び地方公共団体は、ダイオキシン類対策特別措置法、PCB廃棄物適正処理推進特別措置法などに基づいた排出量削減対策を実施している。
本研究では、これまで水田土壌や大気等におけるダイオキシン類の挙動把握や魚類への影響を調べるとともにサンプリング法やデータ解析手法の最適化及び効率化を進め、ダイオキシン類の主要な発生源の及ぼす地域的特性について明らかにしてきた。一方で、残留性化学物質の一つであるPCBは10種の同族体、209種の異性体からなり、データの収集にはダイオキシン類（異性体：222種）と同様に分析に高度な技術と多大な時間、膨大なコストが必要とされるため、環境中の挙動や発生源寄与などについて、充分な科学的知見が得られていない。また、環境中や特定の反応過程における組成パターンの変化や未把握発生源の影響についても必ずしも明らかとなっていなかった。そこで本研究は、国内各地域における大気、水、土壌、底質等各環境媒体とそれらに影響を及ぼす主要な発生源のダイオキシン類及びPCBの異性体・同族体プロフィール収集等を目的とした。また、併せてダイオキシン類、PCB発生源解明のためのChemical Mass Balance (CMB)法の整備を進め、更にデータ解析によって推定される発生源寄与率やダイオキシン類等の挙動に基づいた適切な発生源対策の構築を目的とした。
（本年度の成果）
　本年度は、PCBの異性体・同族体組成情報に基づいた固定排出源の影響（寄与率）の推定や、異性体情報を正しく得るための分析上の問題点を明らかにした。また、PFOSや塩素化PAHなど、新規の物質の分析法やその組成情報あるいは生物学的反応情報を利用した統計学的解析の応用の可能性についても検討した。
＜統計学的解析のための化学分析上の問題点の把握＞
　土壌・河川・底質中のダイオキシン類分析において、試料に含まれる腐植質が異性体組成や回収率低下に与える影響を、実験により確認した。腐植質の存在により、回収率の低下や若干の組成変化が生じる可能性があることが示された。
＜化学分析値以外の情報の活用＞
フッ素化合物であるPFOS類の生物影響の評価法(メダカの孵化に及ぼす影響など)の検討をとおして、寄与率推定などの統計解析データとして、物質濃度以外の情報の利用の可能性について検討した。
＜統計的手法を用いた発生源解析等＞
処理施設周辺におけるPCB濃度のモニタリング及び関数関係解析CMB法による汚染源寄与率の計算を行った。解析の結果、周辺大気への処理施設の影響は認められなかった。しかし、風上−風下の測定値の対比による検討が今後は重要であると考えられた。
＜その他の物質への応用＞
　多数の異性体をもつ有害環境汚染物質の中で、特に近年注目を集めつつあるハロゲン化PAHについて、最新の分析法と環境中濃度についてレビューし、発生源解析の適用について検討を開始した。

当該研究に関する情報源（論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等）

・Yamamoto, T. et al., Laboratory investigation of PCDD/DFs and dioxin-like compounds formation during chlor-alkari process, Organohalogen Compounds, 71, 863-868, 2009.
・山本央, 東野和雄, 大浦健, 雨谷敬史, 嶽盛公昭, 高菅卓三, 橋本俊次, 柏木宣久, 佐々木裕子：食塩電解過程に由来するダイオキシン類及び類縁化合物．第18回環境化学討論会，つくば，2009
・大浦健, 山本央, 東野和雄, 雨谷敬史, 四ノ宮美保, 佐々木裕子：塩素化多環芳香族炭化水素の土壌汚染と発生源に関する研究．第18回環境化学討論会，つくば，2009
・東野ら，都内建物におけるPCB汚染源調査について，東京都環境科学研究所年報，10-17，2009
・山本ら，食塩電解過程に由来するダイオキシン類及びその類縁化合物，東京都環境科学研究所年報，33-40，2009
・吉澤　正，山縣　晋，清水　明，半野勝正，宇野健一，ダイオキシン類水質環境基準値を超過した水深の浅い湖沼の水質特性，水環境学会誌，32(8)，435-440，2010
・半野勝正，横田弘文，メダカＤＮＡマイクロアレイによる環境影響評価システムの研究−ヒメダカ胚中へのダイオキシン類の浸漬及びマイクロアレイによる発現変動遺伝子の抽出−，千葉県環境研究センター年報第８号， 199-206，2010
・清水 明，栗原正憲，吉澤 正，宇野健一，千葉県港湾部における有機フッ素化合物の実態，千葉県環境研究センター年報第８号，193-198，2010
・栗原正憲，吉澤 正，清水 明，宇野健一， 海水中PFCsの前処理，測定条件の検討，千葉県環境研究センター年報第８号，185-192，2010
・酒井美月，清家伸康，小林淳，梶原秀夫，高橋敬雄，水田土壌および底質におけるPCBsの残留特性と長期環境挙動，土木学会全国大会，福岡，2009
・姉崎克典、山口勝透、永洞真一郎，秋期におけるダイオキシン類及びPCBの日間変動，第18回環境化学討論会，つくば，2009
・T. Ohura, T. Amagai, X. Shen, S. Li, P. Zhang, L. Zhu: Comparative study on indoor air quality in Japan and China: characteristics of residential indoor and outdoor VOCs. Atmos. Environ., 43, 6352-6359, 2009.
・Y. Horii, T. Ohura, N. Yamashita, K. Kannan: Chlorinated polycyclic aromatic hydrocarbons in sediments from industrial areas in Japan and the United States .Arch. Environ. Contam. Toxicol., 57, 651-660, 2009
・T. Ohura, K. Sawada, T. Amagai, M. Shinomiya: Discovery of novel halogenated polycyclic aromatic hydrocarbons in urban particulate matters: Occurrence, photostability, and AhR activity. Environ. Sci. Technol., 43, 2269-2275, 2009
・Y. Horii, J. S. Khim, E. B. Higley, J. P. Giesy, T. Ohura, K. Kannan: Relative potencies of individual chlorinated and brominated polycyclic aromatic hydrocarbons for induction of aryl hydrocarbon receptor-mediated responses. Environ. Sci. Technol., 43, 2159-2165, 2009
・J. Ma, Y. Horii, J. Cheng, W. Wang, Q. Wu, T. Ohura, K. Kannan: Chlorinated and parent polycyclic aromatic hydrocarbons in environmental samples from an electronic waste recycling facility and a chemical industrial complex in China. Environ. Sci. Technol., 43, 643-649, 2009
・H. Sakakibara, T. Ohura, M. Morita, S. Hirabayashi, R. Kuruto-Niwa, T. Amagai, K. Shimoi: Aryl hydrocarbon receptor-mediated gene expression by chlorinated polycyclic aromatic hydrocarbons and cross-talk with estrogen receptors. Interdiscip. Stud. Environ. Chem., 2, 197-202, 2009
・T. Ohura, H. Sakakibara: "Chlorinated polycyclic aromatic hydrocarbons: A new class of environmental toxin", In Polycyclic Aromatic Hydrocarbons: Pollution, Health Effects and Chemistry (Pierre A. Haines & Milton D. Hendrickson, Eds.), NOVA Science Publishers, NY, 107-112, 2009.
・T. Ohura: "Local assessment of VOCs and PAHs in the air: Samplings, distributions, and risks", In Environment and Regional Air Pollution (D. Gallo & R. Mancini, Eds.), NOVA Science Publishers, NY, 379-388, 2009.
・T. Ohura: "Chemical characterization of ambient particle: PAHs and chlorinated PAHs", In Airborne Particulates (M. Cheng & W. Liu, Eds.), NOVA Science Publishers, NY, 157-170, 2009.
・家田曜世，落合伸夫，宮脇俊文，堀井勇一，細野繁雄，大浦健：GCxGC-高分解能TOF-MSによる環境試料中塩素化・臭素化PAHsの分析．日本環境分析化学会　第58年会，東京，2009
・Ieda, T., Ochiai, N., Miyawaki, T., Horii, Y., Hosono, S., Ohura, T.: Analysis of chlorinated and brominated polycyclic aromatic hydrocarbons (Cl-/Br-PAHs) in environmental samples by GCxGC-high resolution TOF-MS. 33rd ISCCE & 6th GCxGC symposium, Portland, USA, May 17-21, 2009.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

残留性化学物質データの組織化と発生源解析、平成２２年１月２６−２７日、統計数理研究所、
２３名

研究参加者一覧
氏名	所属機関
姉崎　克典	北海道環境科学研究センター
安藤　晴夫	（財）東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
茨木　剛	新潟県保健環境科学研究所
今井　美江	東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
岩切　良次	環境省
岩澤　理奈	宮城県保健環境センター
岩村　幸美	北九州市立大学
大浦　健	静岡県立大学
大高　広明	（独）製品評価技術基盤機構
大塚　英幸	北海道環境科学研究センター
大塚　宜寿	埼玉県環境科学国際センター
大野　勝之	新潟県保健環境科学研究所
大原　俊彦	広島県立総合技術研究所　保健環境センター
岡本　拓	広島県立総合技術研究所　保健環境センター
小澤　秀明	長野県衛生公害研究所
小原　浩史	福岡市環境局保健環境研究所
柏木　宣久	統計数理研究所
門上　希和夫	北九州市立大学
酒井　美月	長野工業高等専門学校
桜井　健郎	独立行政法人国立環境研究所
佐々木　裕子	国立環境研究所
清水　明	千葉県環境研究センター
陣矢　大助	北九州市立大学
菅谷　和寿	茨城県霞ヶ浦環境科学センター
杉原　誠	新潟県保健環境科学研究所
鈴木　美智子	新潟県保健環境科学研究所
清家　伸康	独立行政法人農業環境技術研究所
高島　輝男	岐阜県保健環境研究所
高橋　明宏	東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
種岡　裕	新潟県保健環境科学研究所
土屋　江理子	新潟県保健環境科学研究所
飛石　和大	福岡県保健環境研究所
友部　正志	茨城県霞ヶ浦環境科学センター
永洞　真一郎
中牟田　啓子	福岡市環境局保健環境研究所
中村 朋之	宮城県保健環境センター
西野　貴裕	（財）東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
半野　勝正	千葉県環境研究センター
日浦　盛夫	広島県立総合技術研究所　保健環境センター
東野　和雄	（財）東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
菱沼 早樹子	宮城県保健環境センター
細野　繁雄	埼玉県環境科学国際センター
堀井　勇一	埼玉県環境科学国際センター
宮脇　崇	福岡県保健環境研究所
村瀬　秀也	財団法人岐阜県公衆衛生検査センター
村山　等	新潟県保健環境科学研究所
安田　裕	岐阜県保健環境研究所
山口　勝透	北海道環境科学研究センター
山崎　正夫	東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
山本　央	（財）東京都環境整備公社　東京都環境科学研究所
山本　徹	千葉県環境研究センター
吉澤　正	千葉県環境研究センター
吉田　徳行	宮城県保健環境センター