平成242012)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

24−共研−16

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

2

研究課題名

複雑ネットワークのゲーム理論的モデリングとその解析

フリガナ

代表者氏名

イマイ テツオ

今井 哲郎

ローマ字

Imai Tetsuo

所属機関

理化学研究所

所属部局

計算科学研究機構

職  名

特別研究員

 

 

研究目的と成果の概要

 情報通信や社会学,生物学など多様な分野において,その要素間の関係のトポロジ構造が複雑ネットワークと呼ばれる特性を持っていることが分かってきており,インターネットにおけるAS(Autonomous System)間トポロジも,その一つとみられている.AS間トポロジは,高い判断能力を持った多数の管理者によって分散的かつ利己的に構築されたものであるが,これまでの複雑ネットワーク生成の理論では,このような分散的・利己的なトポロジ形成が十分に表現しきれていなかった.このようなトポロジ形成のモデル化の方法の一つとして,ゲーム理論の分野でネットワーク形成ゲームというモデルが研究されている.我々は,複雑ネットワークを分散的・利己的なマルチエージェントによる合理的行動の帰結として表現可能であると考えており,その形成の仕組みの説明とその制御の方法論を構築するためのアプローチとして,ネットワーク形成ゲームの枠組みが有用であると考えている.
 現在のインターネットにおけるASの数は,2004年の時点ですでに2万弱あり,現在も増加し続けている.我々が提案したASトポロジ形成のモデルの妥当性を検証し,モデルをさらに精緻なものに発展させていくためには,現在のASの数に匹敵する規模のシミュレーションを行うことが必要である.しかしながら,我々が提案したモデルは収束する解を得るためのコンピュータシミュレーションにおける計算量が大きく,大規模並列計算環境におけるシミュレーションが必要である.我々は昨年度までに,統計数理研究所の大規模並列計算環境を用いて1000ノード規模のシミュレーションを現実的な時間で行うことができることを確認しているが,現実のASトポロジの再現にはもう一桁規模を大きくする必要があった.また本モデルが構成する状態空間は,非常に巨大な離散構造であり,また非常に多数のアトラクタと,それに対応する非常に多様なサイズの引き込み領域に分割されうるが,これらの構造の特性は十分には明らかでなく,本モデルが生成するトポロジの予測に対する障害となっていた.
 今年度,我々が共同利用登録をする目的は以下の2つであった.
 1. より大規模なシミュレーションを実行すること
 2. 本モデルが構築する状態空間の特性の分析を実行すること
 我々は今年度の活動において,1000ノード規模のシミュレーションを実行してパラメータサーチを行い,本モデルが生成するトポロジと現実のASトポロジとの比較をネットワーク特徴量を比較することで実行した(目的1).また本モデルが構成する状態空間の分析と,構造推定のためのモンテカルロ法の有効性について評価を行った(目的2).現在のところ,後者の状態空間の分割の様子についての結果について,国際会議への投稿準備に取り組んでおり,近日中に投稿する予定である.