平成242012)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

24−共研−4303

分野分類

統計数理研究所内分野分類

g

主要研究分野分類

5

研究課題名

津波や高潮の水域外力の頻度解析における歴史データの取扱い法

重点テーマ

統計数理による減災・復興

フリガナ

代表者氏名

キタノ トシカズ

北野 利一

ローマ字

Kitano Toshikazu

所属機関

名古屋工業大学

所属部局

社会工学専攻

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

77千円

研究参加者数

4 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

近年における観測期間が限定されていることから,歴史資料の活用が注目されつつある.特に,2011年に東日本に来襲した大津波と同等の津波が,1100年以上も前の869年の貞観地震の時にも発生していたことが指摘され,沿岸構造物の設計に,過去の歴史的記録を有効に活用することが議論されている.しかしながら,歴史資料には,3つの曖昧さから,観測機器に基づく近年データと区別される.それらは,1)資料の期間の始まりと終わりの曖昧さ,2)極大値の漏れ(不連続な記録ゆえの極大値の生起総数の曖昧さ),3)極大値の規模の曖昧さ(記録者の主観的な記述による)がある.1)と2)は互いに関連するものである.

今回の研究では,3)極大値の規模の曖昧さに注目して,まずは,A)近年観測データに歴史資料を付与することが可能かどうか,次に,それが可能な場合に,B)歴史データを付与することにより,得られる再現レベルの精度の向上がどの程度のものであるのか,について検討を行った.

A)について,同一母集団から抽出された2つの標本か否か?といった一般的な2標本問題のように,近年の観測機器で得られたデータと歴史データの2つの標本に対して,単純に扱うことはできない.なぜなら,歴史データは,極値統計モデルにしたがう確率変動に加え,観測誤差も伴うためである.観測誤差がなければ(すなわち,1組のデータセットを対象とするなら),点過程モデルの尤度を用いて,尤度比検定を適用してもよいかもしれない.しかしながら,本研究では,観測誤差を数値シミュレーションで与えて,歴史データの数多くの可能性を検討しようとするため,シミュレーション毎に得られるデータセットに対して,それぞれの最尤推定量を求める際に必要となる最適化の計算処理をを避けたい.そのような処理は,必ずしも安定して,数値解が得られるとは限らないからである.そこで,対数尤度の微分量であるスコアを用いて,スコア検定を応用することにょり,歴史データの数多くの可能性を検討する手法を開発した.

B)について,与えられたデータに曖昧さを含めば,情報が低下することになる.経験度は,情報を表す量であるので,歴史データの値が曖昧であるために,その分,経験度の値が低下することは容易に理解できる.そこで,その低下量を巧く求めることが課題となる.スコアの大きさを求める際の重みに情報行列が用いられることに注目し,スコアの大きさの自乗の期待値を理論的に求めることにより,歴史データによる追加される情報の割引率 eta(eta = 0 は情報低下なし,eta = 1 は情報半減,eta = infty は追加情報の獲得無し,ということを意味する量)を算出できる手法を構築した.

以上の方法で,オランダ沿岸部の近年100年間の観測記録に,1500年以降の350年間に生じた10回分の歴史高潮を追加することが可能であり,追加すると,eta = 2.2と算出された.この場合,歴史データは曖昧さのために約3分の1未満の情報の価値となることがわかった.

今後の課題:歴史データにおける曖昧さの残りの2つの取扱い法を検討する必要がある.

なお,上記に現れる「経験度」とは,北野ら(2008)で提案された概念であり,これを用いた,より一般的な最近の研究については,本年度の共同利用登録実施報告書(極値理論の土木工学への応用 〜 「経験度」の導入)において整理しており,重複を避けた.それゆえ,そちらも参照いただけると幸甚である.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

本研究の内容は,以下の4つの発表・講演を行い,1つの論文にまとめた.

極値統計解析において近年観測データに付与される歴史資料の値打ちは?,第19回信頼性設計技術WS+第32回最適設計研究会 合同研究発表会,2012年8月30日-9月1日(横浜テクノタワーホテルファミール).

高波の極値頻度解析における歴史資料の取扱い,第59回海岸工学講演会,2012年11月14-16日(広島国際会議場).

歴史潮位データを含めた極値モデルの検討,平成24年度 土木学会中部支部研究発表会,2013年3月8日(愛知工業大学).

北野利一,想定力をつけるための過去の経験の活かし方,沿岸域の防災・減災に関するシンポジウム,名古屋工業大学・高度防災工学センター&(独)港湾空港技術研究所 共催,2013年2月6日開催.

高波の極値頻度解析における歴史資料の取扱い,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.68, No.2, pp.I_96-I_100.


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

志村 隆彰

統計数理研究所

高橋 倫也

神戸大学