平成192007)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

19−共研−2018

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

4

研究課題名

マルコフ連鎖モンテカルロ法による力学系の解析

フリガナ

代表者氏名

ヤナギタ タツオ

柳田 達雄

ローマ字

atsuo Yanagita

所属機関

北海道大学

所属部局

電子科学研究所

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

70千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)は,物理学ではカノニカル分布のサンプリングに,統計学では事後分布からのサンプリングに,それぞれ広く用いられているが,確率分布で定式化できる任意の現象について適用できる手法であり,今後もその用途は拡大していくと思われる.なかでも,初期値や確率的状態変化のパターンを変数としてサンプルすることで,与えられたシステムを特徴づけるような「珍しい現象」(rare event)を実現することが「第3の用途」として注目されている.
 本共同研究では決定論的力学系の初期値をサンプリングし直接的数値計算では得ることが難しい「珍しい現象」を求める.ここで,珍しい現象とは,不安定な極限集合に収斂する軌道である.さらに,サンプリングを初期値空間とパラメータ空間の直積空間へ拡張することにより,大域分岐構造の解明に向けての応用を試みる.これらはシステムの数理的な理解に役立ち,また,システムが正しく同定されているという条件のもとでは,少ない確率でおこる異常な出来事を予測するのにも役立つ可能性がある.
 先行研究としては,主として確率的な系について経路そのものをサンプリングする手法(transition path sampling),及び,逐次モンテカルロ法を利用するものがある.特に後者は2006年の冬になって有力な論文が出版されて注目されているが,パラレル・テンパリング法と初期値サンプリングを組み合わせたわれわれの手法は,問題によっては,逐次モンテカルロ法よりも優れた性能を示すのではないかと予想している.また,直積空間でのサンプリングはおそらく前例がなく,前人未踏の課題への挑戦となる.

 マルコフ連鎖を用いたモンテカルロ法(動的モンテカルロ法)により力学系の初期値探索を行い「珍しい現象」のサンプリングを行った.具体的には
1. 不安定周期軌道の探索:ローレンツ方程式のもつ多数の不安定周期軌道をサンプリングにより探索する.T時間後に初期値に戻るときに最小値をとるエネルギー関数を構成し,(x,y,z,T)空間でのサンプリングにより不安定周期軌道を求めた.初期値鋭敏性をもつカオス力学系であるにもかかわらず比較的長周期の軌道がサンプルできた.
2. 探索を初期値空間とパラメータ空間の直積空間へ拡張し安定・不安定周期解の大域分岐構造を解析した.ロジステック写像の周期m軌道解の分岐図,およびローレンツ方程式の周期軌道の分岐構造を求めることに成功した.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

伊庭幸人 :「力学系における『珍しい現象』のモンテカルロ・サンプリング」,研究会報告 モンテカルロ法の新展開3 物性研究85─3 (2005年12月号)

柳田達雄, 伊庭幸人 : 「拡張アンサンブルモンテカルロによる力学系の特別な初期値探索」, 日本物理学会 2006年秋季大会 , 千葉大学 (2006-09)

伊庭幸人, 柳田達雄 : 「拡張アンサンブル法によるカオスサドルのサンプリング 」, 日本物理学会 2006年秋季大会 , 千葉大学 (2006-09)

柳田達雄,伊庭幸人: 「Exploring Chaotic Dynamical Systems by Extended Ensemble」, 第一回「カオスとその応用」ワークショップ 特集「 一次元写像とその周辺」 , 理化学研究所 (2008-02)

柳田達雄,伊庭幸人 : 「拡張アンサンブル法による力学系の分岐解析」, 日本物理学会 第63回年次大会 , 近畿大学 (2008-03)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

伊庭 幸人

統計数理研究所