平成162004)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

16−共研−2027

専門分類

6

研究課題名

地震活動予測ための事前分布の基礎的調査

フリガナ

代表者氏名

カンジョウ ケンジ

神定 健二

ローマ字

Kanjo Kenji

所属機関

気象庁

所属部局

地震火山部地震津波監視課精密地震観測室

職  名

主任研究官

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

8 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

地震の解析や予測においても最小2乗法や統計的予測がしばしば利用されている。条件のよいデータが
数多く得られている場合は,決定論的な手法または通常の最小2乗法で求めた結果がそのまま用いられる。
しかし,データが少ない場合や精度が劣る場合には、得られた結果の精度が悪く、不自然な結果となりや
すい。そのようなときでも,事前に得られた知見を用いると,計算や解析の結果が安定し,推定や予測の
信頼性が向上することが多くある。そこで,大地震の確率予測などについて,事前分布を求め予測に活用
することを検討する。
 地震調査研究推進本部地震調査委員会では、各地の活断層及び海域等における危険度評価を進め,その結果を
今後30年間に大地震が発生する確率などとして公表している。過去の地震発生時期が数回以上知られている場
合には、発生間隔のデータからモデル[BPT(Brownian Passage Time)分布]のパラメータ値を推定して、将来期間
の発生確率を計算している。しかし、パラメータの推定誤差が結果に及ぼす効果を考慮しておらず、宮城県沖地
震では今後30年間の発生確率が99%と異常に高い値となっている。標本の平均・分散をそのまま母集団の値と見
なして予測計算を行うことは、統計学的に問題である。ここでは、事前分布を導入して、ベイズの定理による確
率計算を試みるともに,地震調査委員会の結果と比較検討する。
 今回の共同研究では,地震調査委員会の報告書及び長谷川・他(2005)等によって繰り返し地震として収集調査
された地震系列から、地震数が4個以上ある18系列を採用した。南海道地震と東南海道地震は連動性が非常に
高いので、両方で同時期に発生した2つの地震は1つのイベントとして扱った。長谷川・他が収集した地震系列
は、規模や発生間隔が比較的そろっているものを捜しだした結果であり、作為的抽出である。
 発生間隔の分布は、BPT分布を解析的に扱うことができなかったので、取り扱いが容易な更新過程対数正規分
布モデルを採用した。過去にn+1個の地震発生が知られていて、時間間隔の対数[Xi=1n(Ti)]が正規分布
N(μ,σ2)に従うものとする。繰り返し地震の平均発生間隔は、数年程度から数万年程度まで幅広く分布するの
で、事前分布π(μ,σ2)はμに関して一様であるとするのが自然である。σ2に関しては、べき関数の
π(σ2)=(σ2)-mが試みられたことがあるが、これは事前分布として変則である。今回は、σ2の自然共役事
前分布である逆ガンマ分布ΓR(φ,ζ)を採用した。理論的考察の結果、φV/ζが自由度(n-1,2φ)のF-分布
に従うことを確かめた。ここでVは標本不偏分散を表す確率変数である。
 地震系列(18個)の標本不偏分散Viを用いて、事前分布の平均(μv=ζ/(φ-1))と形状パラメータφと
を独立変数として、最尤法でパラメータを推定したところ、μv=0.056程度、φ=8程度となった。しかし、
対数尤度分布を見ると、山が小さくて誤差が大きい。各系列のデータ数が少なく、標本不偏分散Viの変動性が
大きいために、パラメータの推定精度が劣る。
 データが無作為抽出ではなく、Viの小さいものが選ばれやすいので、本来のμvは最尤推定値0.056より大
きいはずである。以下の議論ではμv=0.07を使用する。事前分布の変動係数は(φ-2)1/2であるが、長谷川・
他の求めたものはViが小さい方へ相当偏っており、変動係数を大きくしている。その一方でViの大きなものが
漏れることで変動係数を小さくしている。さらに、最尤推定値φ=8の不偏性も定かでない。とりあえず、φは
8前後と想定する。
事前分布として逆ガンマ分布(μv=0.07)を採用し、宮城県沖地震(データ数n=5、標本平均x=3.598、
標本分散s2=0.03103)について2005年1月1日から30年間の発生確率を計算すると、φ=6,8,10のいず
れでも発生確率は0.94となる。べき関数の場合は、m=0,0.5,1のそれぞれの確率が0.82、0.90、0.94とな
り、mが大きくなるにつれて確率も大きくなる。いずれの場合も地震調査委員会の値0.99より有意に小さい。
南海トラフの地震(データ数n=5、標本平均x=4.742、標本分散s2=0.03425)では、逆ガンマ分布で
φ=6,8,10の場合の発生確率が0.17、0.18、0.18となる。べき関数の場合は、m=0,0.5,1の確率が0.19、
0.18、0.15となり、地震調査委員会が発表している南海地震0.5程度、東南海地震0.6程度を大きく下回る。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

岡田正実
 負の2項モデルによる余震確率予測の試行とその成績,地球惑星科学関連学科合同大会,2004年5月。
岡田正実
 事前分布を用いた地震長期発生確率の計算,地球惑星科学関連学科合同大会,2005年5月。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岡田 正実

気象庁

尾形 良彦

統計数理研究所

公賀 智行

気象庁

小久保 一哉

気象庁

小山 卓三

気象庁

舘畑 秀衛

気象庁

古館 友通

気象庁