平成41992)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

4−共研−57

専門分類

7

研究課題名

アーケゾアの系統的位置と真核生物の起源

フリガナ

代表者氏名

ナカムラ ヨシヒロ

中村 嘉宏

ローマ字

所属機関

昭和大学

所属部局

組換えDNA実験室

職  名

助手

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

6 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

ミトコンドリアを持たない真核生物「アーケゾア」のいくつかに関する小亜粒子リボソームRNAの塩基配列データをもとに、これらの生物はミトコンドリアが共生する以前の真核生物の祖先型に近い、との系統樹が推定されているがその信頼性には未だ問題点が残されている。本研究では、アーケゾアの系統的位置を蛋白質系統樹に基づきより詳細かつ慎重に検討し真核生物の起源に関する知見を得ることを目的とする。


進化の過程で保存的な蛋白質のアミノ酸配列データに基づき、ミトコンドリアをもたない真核生物の系統学的位置づけを明らかにすることを目的として実験(データ収集)、データ解析の両面から研究を行なった。
まず、実験面では、ミトコンドリアを持たない真核生物であるGiardia lambliaのElongation factor 1α遺伝子、および、Entamoeba histolyticaのElongation factor 2遺伝子、のそれぞれを単離し、塩基配列の決定後、推定アミノ酸配列データを得た。
次に、これらのデータを含めて、ミトコンドリアをもたない真核生物に関するデータが報告されている各種保存的蛋白質(Elongation factor 1α, 2, DNA-dependent RNA polymerase III, Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)に対し、アミノ酸置換に関するさまざまな確率モデルに基づく最尤法を適用して系統関係を推定するとともに、モデル間の比較を行なった。その結果、従来広く認められていた Small subunit ribosomal RNA (SrRNA)に基づく解析結果とは矛盾するいくつかの知見を得た。
SrRNAに基づく従来の解析には、モデルの仮定が明確でない、系統樹の確からしさが評価されていない、など、統計的に基礎づけられたものではないという問題点がある。そのため、統計的な方法に基づく今回の解析結果は、真核生物の初期進化過程に関する新たな問題を提起することとなった。
また、保存的蛋白質のアミノ酸組成値の生物種間での偏りが、ゲノム塩基組成値の大きな偏りに比べて、極めて小さいことが明らかとなり、系統樹推定に際して、ゲノム塩基組成の偏りの影響を受け易いSrRNAの系統樹よりも、保存的蛋白質に基づく系統樹の方が信頼性が高いと考えられた。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Hashimoto, T,. Adachi, J., Hasegawa, M,. Phylogenetic place of Giardia lamblia, a protozoan that lacks mitochondria, Endocytobiosis & cell Res., 9, 59-69, 1992.
Hasegawaw, M., Hashimoto, T., Adachi, J., Origin and evolution of eukaryotes as inferred from protein sequence data. In: “The Origin and Evolution of the Cell" (eds. H. Hartman and K. Matsuno), pp.107-130, World Sci. Publ., Singapore, 1992.
橋本哲男,足立 淳,長谷川政美,トミコンドリアをもたない真核生物の系統的位置,日本遺伝学会大会,1992年10月.
長谷川政美,橋本哲男,足立 淳,真核生物の初期進化,日本分子生物学会年会,1992年12月.
白倉哲郎,橋本哲男,山本綾子,長谷川政美,後藤延一,Elongation factorのアミノ酸配列データからみた赤痢アメーバの系統的位置,日本細菌学会総会,1993年3月.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

アーケゾアに属する生物のうち、Entamoeba histolytica, Entamoeba gingivalis, Gulgea plecoglossi, Giardia lambliaなどについて、ペプチド鎖成長因子EF−1αもしくは EF−2をコードしている遺伝子を混合オリゴヌクレオチドプライマーを用いるRT-PCR法によって単離し、塩基配列を決定する。それらの配列より推定されるアミノ酸配列データをもとに、長谷川らによって開発された「蛋白質分子系統樹の最尤推定法」により真核生物全体の系統樹を推定しアーケゾアの系統的位置関係を明らかにする。データの整理、加工、保存および最尤法に関わる数値計算を円滑におこなうために、統計数理研究所との共同研究を必要とする。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

後藤 延一

昭和大学

中村 文規

昭和大学

橋本 哲男

統計数理研究所

長谷川 政美

統計数理研究所

矢野 隆昭

昭和大学