平成242012)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

24−共研−4301

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

2

研究課題名

ソーシャルネットワークを利用した帰宅難民の支援の可能性

重点テーマ

統計数理による減災・復興

フリガナ

代表者氏名

カタガミ ダイスケ

片上 大輔

ローマ字

Katagami Daisuke

所属機関

東京工芸大学

所属部局

工学部コンピュータ応用学科

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

 2011年3.11の東日本大震災において,首都圏では交通網が完全に麻痺し,大量の帰宅難民が発生した.このとき,首都圏の電話網は固定電話網,携帯電話網を問わずほぼ不通となった.一方,インターネットワーク網はほぼ変わらず使用が可能であり,職場や学校から帰宅途中の人々の間では,携帯やスマートフォンなどで,災害情報や交通情報の利用も行われたが,断片的な情報の利用や,情報自体がうまく取得できないなどの理由などにより,ある人は歩いて帰宅を始め,ある人は泊まるところを探し,ある人は電車やバスが動くのを待ち続けた.これにより,首都圏の交通網には帰宅困難者であふれかえり,身動きがとれなくなった.首都圏の大災害において,新たな弱点が露呈したといえる.
 一方,近年インターネット上では,ソーシャルメディア,特にFacebookやmixi,Google+などはもちろんのこと,広義にはtwitterなどのミニブログなども含む,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)と呼ばれるサービスにより情報の有効な活用が積極的に行われている.2008年のアメリカ大統領選挙では,オバマ氏はTwitterやFacebookを最大限に活用したことで若年層の支持を得て当選に至ったと言われている.米国では,インターネット利用者の65%,韓国においては,総人口の3分の1がこのSNSに参加している.日本においても,総務省の調べによると,SNS会員数は2005年の時に111万人,2006年の時に716万人,2009年1月の段階で7134万人と,急速に認知度が高まっていることが伺える.今回の災害時においても,電話が全く通じない中で,SNSを利用し安否確認や情報の取得などで,有効な活用がされた報告が数多くあった.

 そこで,本研究では,SNSを利用し,帰宅難民を効果的に支援することを提案する.ここでは,SNSの有効利用により新たな減災の可能性について検討し,実証実験によって得られたデータを統計分析により検証することを目的とする.

 SNS上では,すでに多くの人が,現実社会で知り合いかそうでないかに関わらず,人間関係のネットワークを構築し,様々な情報をやりとりしている.通常時は,日常の身の回りの出来事に関する情報交換が主となるが,災害時にこれらの既存かつ独自のネットワークを利用すれば,安否確認や,局所的な災害情報,交通情報の取得をピンポイントで取得する事が,可能になってきている.実際,3.11において首都圏の帰宅難民になるのを回避できた人々は,Facebook,twitterなどを含むSNSを利用し,SNS上でやりとりされる交通情報,災害情報を効果的に取得していた人が多かった.実際Twitterでは,3.11の際に,爆発的に情報交換がなされ,5回にわたって5,000TPS(Tweets Per Second)を越えたことが知られている[風間2012].

 ここで,帰宅難民とは,災害時に麻痺した交通網・情報連絡網によって,帰宅中に身動きがとれなくなり帰宅困難になってしまった人々の事を指すこととする.帰宅難民の支援には,さまざまなものが考えられるが,本研究では,以下の3つの支援を想定した.

1.交通網麻痺により帰宅できない人への効果的な情報提供により帰宅難民の数を減らす.
交通網麻痺によって帰宅できない人が,帰宅を開始するまでに,十分な情報があれば,職場・学校に泊まるなど選択肢を増やし,帰宅難民者の数自体を減らすことができる.実際に東日本大震災のときにおいても,SNSを利用し,効果的に情報交換が出来た人は,早々に帰宅をあきらめ,帰宅難民になることを避けられた人が多く存在する.

2.帰宅難民の帰宅を情報提供により支援する.
帰宅難民になったことがわかった場合においても,効果的な情報収集ができれば,まだ動いているいくつかのバス路線や,道路網の情報などを把握することができ,無理に交通網が動くのを待つことにより,全く身動きができなくなる状態に陥ることを避けることができる.

3.帰宅難民の要求に応じた情報取得を支援する.
帰宅難民には,泊まっても良い,絶対に帰宅しなければならない,などそれぞれ違った事情を抱えており,各人の要求は大きく異なる.これに応じた情報取得を支援することが重要である.

 上記はすべて,帰宅難民に対し効果的な情報収集を支援することを想定しているが,現時点において,どのような方法で効果的な情報提供ができるかについての統一的な知見はほとんどない.この効果的な情報取得支援の具体的な方法に関して,3.11の状況をふまえて,分析・調査を進めることが本研究の第一段階として重要である.


 上記の目標をふまえ,本研究では,帰宅難民への効果的な支援を目的として,申請時の計画を元に以下の2つの大きな研究テーマとして研究を進めた.





1.震災時ツイート利用分析
 本テーマでは大量にあるTwitter情報のデータを可視化するための提案を行った.災害時において必要なものは状況把握と冷静な判断力である.そのため,大量にあるデータをわかりやすく提供することと,そのデータを見た者が自分の今後の行動の判断材料の一つになるようにすることが目的である.
本テーマでは2011年3月5日から24日の20日分,ツイート数約4億1千万,ユーザ数は約3千2百万人の震災時ツイートデータを用いた.データは「通しID」,「TweetID」,「アカウント名」,「本文」,「使用ツール」,「投稿時間」,「リプライ先ID」,「リプライ先のアカウント名」からなっている.震災時ツイートデータを利用して,路線別ツイート抽出システムを作成した.ユーザが検索したい路線名を入れるとその路線名から始まるツイートと件数を抽出した.また抽出したデータはcsv形式で保存することができる.保存したデータは以降,路線ツイートデータとする.
路線ツイートデータで情報を素早く正確に取得することができるか調査を行った.被験者には3月11日の路線情報についてのツイートから作成した全5問の問題を解答してもらった.問題作成の際に路線別ツイートデータを5分毎にカウントしたグラフを作成した.被験者は「生ログデータ」「路線別ツイートデータ」「路線別ツイートデータ+路線別ツイートデータを5分毎にカウントしたグラフ」のいずれか一つを見ながら問題の解答を行い,1問ずつ解答時間を計測した.
実験の結果,路線別ツイート抽出システムを構築し,路線別ツイートデータとグラフを見ることで震災時に迅速に正しい情報を得られることを被験者実験により検証した.

2.震災時におけるTwitterのネガティブ情報による帰宅困難者を削減するための研究
 3.11では,交通機関の一部が停止,復旧しても大勢の人が帰宅困難者になった.東京都が行った震災時に都内にいた外出者に対するアンケートでは,複数回答で(3つまで)「特に理由がない」と回答している人が合計で57%と高い.そこで本テーマでは,帰宅困難者を抑制するためにTwitterのネガティブ情報による帰宅困難者を抑制するための研究を行った.
 本テーマでは,ネガティブ情報を利用して帰宅困難者の削減を提案した.ネガティブ情報の定義は阿久津らにおける研究では「怒り・悲しみ・恐れなど」と記載されている.本テーマでは「怒り・悲しみ・恐れなど」の感情をネガティブ感情とし,「情けない・怖い・悲しい・不安・心配」の用語が入っているツイートをネガティブ情報とした.ネガティブ情報を発信させるために,Botを作成し,Twitterでツイートするようにした(図1).この情報を作成するためにオープンソフトウェアである意見抽出ツールを用いてネガティブ情報を作成した.
 前述の東日本大震災時Twitterデータから,震災時の路線情報に対するツイートデータを作成した.このデータから,被験者には歩道・車道・周囲の施設は混乱している状況でネガティブ情報だけの路線情報を見てもらい,帰宅したいと思うか路線図を見ながらアンケート調査するロールプレイングを行った.また比較のため同システムでポジティブ情報・修正を加えていない路線情報を作成し見てもらった.ネガティブ情報で帰宅困難者の削減はできなかった.帰宅したいと答えた人が横浜駅と新宿駅を行き来する場合交通機関を使用せずに帰れそうな時,帰宅したい・出来れば帰宅したいと答えた.また,近くに休憩所等休憩場所がない場合も同様の回答を得た.
 路線図を見ている状況で交通機関を使用せずに帰宅できそうな場合,帰宅できるという可能性があるため,「出来れば帰宅したい」という選択肢を選択したと推測する. また,休憩所等休憩場所がない場合は,その場に留まるよりも帰宅行動をすることで,他の場所で休憩ができる可能性があるためと推測する.

 以上の結果より,帰宅難民への実践的かつ効果的な支援の可能性を実験的に示した.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

中村智美,片上大輔,鳥海不二夫:震災時路線ツイート利用分析 ,第1回HSSデザインコンテスト2013,HSS-15-8 (2013.3).

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小野田 崇

(財)電力中央研究所