平成262014)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

26−共研−2055

分野分類

統計数理研究所内分野分類

f

主要研究分野分類

1

研究課題名

統計理論に基づく数理的妥当性を有したメンバシップ関数構築法の開発

フリガナ

代表者氏名

ハスイケ タカシ

蓮池 隆

ローマ字

Hasuike Takashi

所属機関

大阪大学大学院

所属部局

情報科学研究科

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

72千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

情報通信科学技術の発展に伴い,数値データに対する統計手法・データマニング手法の有効活用が重要性を増しているだけでなく,実社会の膨大かつ多次元の言語情報や画像情報の処理,人間社会における個々の感性情報の有効利用手法の開発が求められている.特に人が介在する意思決定では,合理的かつ客観的な意思決定を保証するためにも,非数値情報解釈に対し,数理的保証のある関数化手法の確立が必要不可欠となる.

このような個人感性の数値・関数化手法として,統計理論における主観確率を利用したベイズ統計が利用されている一方,個々のアンケート結果や被験者に感性を直接グラフとして表現させることで得られるメンバシップ関数を利用による数値・関数化手法も研究されている.特に後者の手法においては,個人が設定した集合に対し, ある事象が完全所属の場合は1,完全非所属の場合は0で数値を設定し,その他の状況においては0から1の中間値を設定することにより,感性の関数化・数値化を行っている.

メンバシップ関数を利用した場合は,関数構築における制約に柔軟性があるため,個々に合わせて関数を変化させることで,様々な状況に対応できるとされている.その一方,表現された関数が本当に個人の感性を表現しているのか,また意思決定においては,恣意的な関数生成では妥当な意思決定を導出できないといった,数理的・客観的側面での妥当性の保証に関する疑問が存在し,これらを解決するような手法は未だ確立していない.よってメンバシップ関数の応用は限定的であり,欠点克服のための基礎研究もあまり進められていないのが現状である.またアンケートやグラフの直接表現による数値化は,個人に大きな負担をかけることとなり,実施時における心理や疲労状態の変化等も考慮しなければ,一定水準以上の妥当性は保証されないものと考えられる.

我々は平成24年度・25年度の共同利用研究から,メンバシップ関数構築法の基礎概念と,ベイズ確率における主観確率の構成法と類似性の考察,情報エントロピーを利用した数理的保証した新たなメンバシップ関数構築法を開発してきた.また人が確信を持って設定できる完全所属(つまりメンバシップ値が1)・完全非所属(つまりメンバシップ値が0)領域を利用したメンバシップ関数構築法も開発してきた.しかし既存の情報エントロピーを直接適用した場合,メンバシップ関数として妥当と考えられる条件を満たさない場合があることが発見された.

そこで本年度では,情報エントロピーの概念を基礎としながらも,関数形状を任意に設定でき,かつ完全所属・完全非所属領域と連続的であるような関数を構築するため,上記領域以外の部分に平滑化関数の理論を導入し,エントロピーと平滑化のバランスを取ることで,任意メンバシップ関数形状の構築に成功した.また,構築された数理モデルでは非線形問題という直接的に効率よく解くことが困難な問題に属していたため,実社会への応用を考慮した上で自然な設定を入れることで,簡便に関数構築が可能なアルゴリズムを開発することに成功した.これらの融合を行ったことで,より数理的妥当性があり,かつ実社会のデータ取得状況を問わないような柔軟性に富んだメンバシップ関数に構築が可能となった.さらに,このメンバシップ関数を標準的な線形計画問題のパラメータに導入し,その解を検証することで,メンバシップ関数導入による評価・検証を行った.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

(解説論文)
蓮池隆,片桐英樹,"オペレーションズ・リサーチにおけるメンバシップ関数設定の重要性", 知能と情報(知能情報ファジィ学会誌),26(6), pp. 230-236, 2014.

(共同リポート)
蓮池隆,片桐英樹,椿広計,"統計理論に基づく妥当なメンバシップ関数構築法と意思決定",統計数理研究所共同リポート341,2015年3月発行.

(国際会議査読付き論文)
Takashi Hasuike, Hideki Katagiri, Hiroe Tsubaki, "Constructive Method for Appropriate Membership Function Integrating Fuzzy Entropy with Smoothing Function into Interval Estimation", Proceedings of Joint 7th International Conference on Soft Computing and Intelligent Systems and 15th International Symposium on Advanced Intelligent Systems, pp. 1343-1348, 2014.

(その他の国際会議発表)
Takashi Hasuike, Hideki Katagiri, Hiroe Tsubaki, "Fuzzy linear programming problems with appropriate and flexible membership functions", 20th Conference of the International Federation of Operational Research Societies (IFORS2014)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

共同研究実施者によるディスカッションは統計数理研究所にて,1月13日,1月28日,3月11日に行われたが,研究会は今年度は開催しておりません.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

片桐 英樹

広島大学大学院

椿 広計

統計数理研究所