平成262014)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

26−共研−18

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

7

研究課題名

Relationship Between Term Structure of Local Currency Sovereign Bond Yield and Term Structure of Sovereign CDS Spread

フリガナ

代表者氏名

ツルタ マサル

鶴田 大

ローマ字

Tsuruta Masaru

所属機関

一橋大学大学院

所属部局

国際企業戦略研究科

職  名

大学院生 博士課程

 

 

研究目的と成果の概要

研究の目的及び概要は以下のとおりである。
現地通貨建て国債は、無リスクであるのか。銀行の自己資本比率規制において自国の現地通貨建て国債のリスクウェイトが0とされているように、現地通貨建て国債はリスクがないとみなされることがある。また、ファイナンスの分析における先行研究では、米国やドイツの国債を中心に無リスク金利として扱われてきた。たとえば、Longstaff et al. (2005)では、米国社債の誘導型モデルを用いた分析で必要となる無リスク金利について、米国債を1つの代替候補として用いている。また、Duffie et al.(2003)では、ロシアの米ドル建て国債の分析で無リスク金利として米国債を用いている。また、O'Kane(2012)では、ユーロ圏各国の国債利回りとCDSの分析で、ドイツ国債の利回りを無リスク金利の代替として用いている。一方で、足元では、欧州債務危機を経て、先進国においても国債のリスクというものが意識されることとなった。先進国であったギリシャが債務不履行となり、欧州の周辺国では、国債利回りの急上昇が観測された。
国の信用リスクに関して、他の取引手段としてCDSがある。CDSはソブリンでも取引が行われており、米国やドイツ、また、日本を参照体とするCDSが取引されている。実際にこれらの国では、CDSスプレッドは0でない値で取引がされている。つまり無リスクではないと考えられる。CDSは、国債保有のヘッジ手段としても用いられる。
誘導型モデルを用いると信用リスクを持つ債券は、発行体のデフォルト強度と発行している通貨の無リスク金利で表現される。一方でCDSは、発行体のデフォルト強度と発行している通貨の無リスク金利で表現される。ここで一般に主として取引されるソブリンCDSは、発行体の自国通貨ではない通貨で取引がされていることに注意しなければならない。これらにより国債とCDSの期間構造に共通のデフォルト強度が存在するとして誘導型モデルを構築し分析することが可能となり、無リスク金利の水準の推定や国債とCDS間のヘッジの戦略を考慮することが可能となる。
同様の先行研究としては、Kaguraoka and Mousa(2014)が挙げられる。Kaguraoka and Mousa(2014)はCDSスプレッド調整後の無リスク金利水準を求めることを目的としており、日本の国債について、誘導型モデルを用いデフォルト強度と無リスク金利を確定的な関数として推定を行っている。本研究では、他のCDSや社債の先行研究と同様にデフォルト強度と無リスク金利には、確率過程を設定し、推定を行う。これにより、より現実に則したデフォルト強度や無リスク金利の水準の推定が可能であることや、CDSと国債とのヘッジ戦略や、裁定戦略への応用が可能となる。また、CDSのデータには日本円建てのCDSを用いていたが、本研究では、実際に主要に取引されている現地通貨建とは異なるCDSを扱いモデルを設定する。なお、推定に当たっては、非線形非ガウス型状態空間モデルを扱うことになり、粒子フィルタによる効率的な推定を行う。
本研究では国債の金利期間構造と、CDSの期間構造の同時推定を行うことで、以下の3点の貢献が期待される。1つ目として、これまで先行研究では行われていない自国の通貨建て以外で発行されるCDSと現地通貨建て国債における価格付けに関する無裁定で統一的なモデルでの推定を行い、為替の影響が考慮できる。2つ目に、潜在的な無リスク金利の水準が求められる。無リスク金利とデフォルト強度には確率過程を設定し、現実に則したファイナンスモデルでの推定となる。3つ目に、自国通貨建の国債に対するソブリンCDSのヘッジに関するより正確な評価を可能とし、ヘッジポジションの評価や、裁定取引に応用できると考えられる。

成果の概要は以下のとおりである。
本研究は、平成26年12月16日に公募型共同利用の採択が通知され、平成27年1月よりスーパーコンピュータの利用が可能となった。前述の非線形非ガウス型状態空間モデルについては、定式化およびMatlabによる簡易テストが完了している。Matlabのプログラミングから、統計科学スーパーコンピュータシステムに対応するC++によるMPIを用いないプログラミングへの書き換えが3月までに完了した。4月現在MPIを利用したプログラムのテストを実施している段階である。このため、現時点では、実際の分析データを用いた成果は出ていない。継続してプログラミングの実装の完了を目指している。