平成182006)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

18−共研−2039

専門分類

7

研究課題名

類洞の立体ネットワーク構造に影響を及ぼす肝細胞の形状 --- その統計的解析

フリガナ

代表者氏名

タネムラ マサハル

種村 正美

ローマ字

Tanemura, Masaharu

所属機関

統計数理研究所

所属部局

モデリング研究系

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

50千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 ヒトの肝細胞と肝癌細胞を、それぞれ3稜頂点多面体と見なすことによって、個々の細胞の面数の分布および類洞(微小血管網)に接する細胞の面数を、ヒト肝臓組織の観察から求め、それらの結果をもとにモデルを構築してコンピュータ実験を行い、類洞の立体構造に関して正常肝臓と肝癌との間で差を生じさせているメカニズムは何かを解明することが本共同研究の目的である[共同研究者:清水英男(湘南鎌倉総合病院)、末吉徳芳(順天堂大学)]。
 平成12年度は共同研究経費で購入した Rhodamine によって標識した Phalloidin を反応させて、レーザー共焦点顕微鏡で観察したヒト肝硬変組織から120 枚の連続断面画像を作成し、各断面における多角形細胞の角数を求めて、disector 法により肝細胞1個当たりの平均体積を肝硬変と正常肝に対して求め、比較検討した(清水、末吉、種村 (2000))。平成13年度は前年度に作成した画像を Adobe Photoshop によってより精密なデータを作成し、それらを画像表示ソフトウェア Confocal Assistant によってPCの画面上での連続表示を可能にした(末吉、清水)。この結果、ヒト肝臓組織における類洞を含む3次元構造の観察結果が正常肝、肝硬変ともコンピュータ画面上で容易に再現可能になり、立体構造モデルの構築等に大きな役割を果たすこととなった。平成14年度は、清水は肝臓における類洞ネットワーク構造の格子型モデルによるアプローチを追求して、肝臓の動脈と静脈の血管系を構築する二つのアルゴリズムを比較した(高木、西川、清水(2002))。種村は、上述のヒト肝臓組織に対する連続表示画像をコンピュータで眺めることによって示唆される観察結果から、ボロノイ多面体を用いた類洞ネットワーク構造の3次元モデルの着想を得ることができた。平成15年度には、清水は前年度に引き続いて格子型モデルを検討し、3次元のネットワークとして立方体格子およびケルビンの14面体格子の二つを作成して、それぞれ初期接続の割合の調整により、正常肝と肝硬変に対応する類洞のモデルとなりうることを示した(金子、高木、清水(2003))。種村は、3次元空間にランダムに散布した球配置に対するボロノイ多面体分割を初期条件とする調節モデルを実現して、ある種の規則的な多面体構造が得られることを示し、この構造を元にして類洞ネットワークを構築するアイデアに達して、正常肝を念頭においたモデルを提案した(種村、清水、末吉(2003))。
平成16年度は、正常肝に対するモデルに改良を加え、肝硬変にも対応するモデルを構築するために、重み付きボロノイ多面体分割を導入した。その結果、正常肝と肝硬変肝との間で個々の肝細胞の大きさが異なることが類洞の立体構造に影響を及ぼしていることの示唆が得られた(種村、清水、末吉(2004))。
平成17年度は調節モデルの初期条件に用いるランダム球配置について検討し、ランダム逐次充填モ
デルの精密な充填密度の値をコンピュータ実験で求めるとともに、数万個の3次元球によるランダム配置を求めた(種村(2005))。さらに、類洞ネットワーク構造を「自己回避酔歩」(self-avoiding walk) としてモデル化する立場から、統計科学の分野で最近発展しつつある計算法として注目されている逐次モンテカルロ法に基づくシミュレーションをわれわれのモデルに適用することを検討した。
平成18年度は前年度までに検討した事項を取り入れて、モデルのパラメータを種々に調節したコンピュータ実験を重ねることによって、実際の組織の連続切片画像から得られた観察結果との比較を行った。平成19年度中の論文発表を目指して準備した。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

● 論文
清水英男、末吉徳芳、種村正美(2000). 「肝硬変の類洞網はなぜ粗いのか?」,形の科学会誌,Vol.15, pp.202-203.
Tanemura,M. (2004). “On random packing of spheres : A retrospective overview”, Symmetry: Art and Science, 2004 (1-4), pp.250-253, 2004.
金子宣弘、高木隆司、清水英男 (2004). 「肝臓類洞の最適設計シミュレーション」,形の科学会誌,Vol.19, pp.113-114.
種村正美、清水英男、末吉徳芳 (2004).「肝臓組織における類洞の立体構造モデルII --- 肝硬変肝の場合 ---」,形の科学会誌、Vol.19, pp.193-194.
種村正美 (2005).「球によるランダム充填の密度と空間構造 --- 2, 3, 4 次元の場合 ---」,形の科学会誌、Vol.20, pp.230-231.

● 学会発表
清水英男、末吉徳芳、種村正美 (2001). 「肝硬変の類洞網はなぜ粗いのか?」,第50回形の科学シンポジウム,中央大学,東京,2001 年 3 月 16 - 17 日.
R.Takaki, H.Kitaoka, T.Nishikawa, H.Kaneko and H.Shimizu (2002). “Formation of branching systems in human organs”, Int. Conference on Morphogenesis and Pattern Formation in Biological Systems, Chubu Univ., Kasugai, Sep.24-27, 2002.
金子宣弘、高木隆司、清水英男 (2003). 「肝臓類洞の in silico 構築」,第56回形の科学シンポジウム,福井大学,福井市,2003 年 11 月 15 - 16 日.
種村正美、清水英男、末吉徳芳 (2003).「肝臓組織における類洞の立体構造モデル」,第56回形の科学シンポジウム,福井大学,福井市,2003 年 11 月 15 - 16 日.
金子宣弘、高木隆司、清水英男 (2004). 「肝臓類洞の最適設計シミュレーション」,第57回形の科学シンポジウム,理化学研究所,和光市,2004 年 6 月 11 - 13 日.
M.Tanemura (2004), “On random packing of spheres : A retrospective overview”, The 6th Interdisciplinary Symmetry Congress and Exhibition of ISIS-Symmetry, Budapest, Hungary, Oct. 22-29, 2004.
種村正美、清水英男、末吉徳芳 (2004).「肝臓組織における類洞の立体構造モデル II --- 肝硬変肝の場合 ---」,第58回形の科学シンポジウム,本部町,沖縄県,2004 年 11 月 10 - 14 日.
種村正美 (2005).「球によるランダム充填の密度と空間構造 --- 2, 3, 4 次元の場合 ---」,第60回
形の科学シンポジウム,東洋大学,東京,2005 年 11 月 5 - 7 日.
● 著書等
   清水英男、種村正美他(編集幹事)「形の科学百科事典」朝倉書店(2004) 【2005年度毎日出版文化賞
      受賞】

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

清水 英男

湘南鎌倉総合病院

末吉 徳芳

順天堂大学