昭和601985)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

60−共研−39

専門分類

7

研究課題名

遺伝子構造データ解析のための統計的方法の開発

フリガナ

代表者氏名

ハセガワ マサミ

長谷川 政美

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

予測制御研究系

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

最近の遺伝子工学と新しいDNA配列決定法の発見に伴ない,各種遺伝子構造データが急速な勢いで蓄積されつつある。そのようなデータから生物進化に関する知見を得るための方法の開発が本研究の目的である。進化における遺伝子構造の変化は確率的な現象であるので,統計的なモデルに基づいて解析することが肝要である。しかし従来の方法には,この点に関する十分な認識がなかった。本研究では従来の方法の欠陥を正し,この分野において統計的方法の有用性を確立することを目ざす。


遺伝子構造,つまりDNAの塩基配列データから生物進化の系統樹を最尤法に基づいて推定するための方法を開発した。DNA塩基配列データから系統樹を推定するための方法はこのほかにもいろいろ提案されているが,最尤法が最もすぐれたものであることが明らかになった。この方法の利点は次のような点にある。
1)統計的なモデルに基づいているから,得られた系統樹がどの程度有意なものであるかが評価できる。
2)モデルがはっきりしているから,より現実的なモデルを選ぶことによって,いくらでも改良できる余地がある。
3)進化速度一定という制約がないから,一般的な状況に適用できる。
この方法を用いて,真核生物の各界,つまり動物界,植物界,菌界,原生生物界の間の系統関係を推定した。その結果は,J.Mol.Evol.Vol.22,No.1に発表した。
DNA塩基配列データから得られるもう一つの進化に関する情報は,生物種がいつ頃分かれたかという分岐年代の問題である。多くの場合進化におけるDNA塩基の置換は時間的にほぼ一定の確率で起こっていることが知られているので,これを分子時計として用いて分岐年代が推定できるのである。われわれは,最尤法のわく内で,DNA塩基配列データに最も良く適合するように分岐年代を推定するための方法を開発し,ヒト上科進化における分岐年代を推定した。その結果は,各種化石の系統的な位置づけの再評価をせまるものであり,化石人類学に問題を提起した。
その結果は,J.Mol.Evol.Vol.22,No.2(1985),科学1986年4月号その他に発表した。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1)Phylogenetic relationships among eukaryotic kingdoms inferred from ribosomal RNA sequences.Hasegawa,M.et al.,J.Mol.Evol.22(1):32−38(1985).
2)Dating of the human−ape splitting by a molecular clock of mitochondrial DNA.Hasegawa,M.et al.,J.Mol.Evol.22(2):160−174(1985).
3)分子時計と人類進化,遺伝39(10):45−49(1985)
4)DNAからみた人類の起原,長谷川政美,科学56(4):227−235(1986)。
5)DNA解析とヒトの進化,長谷川政美,「分子進化学入門」(木村資生編)培風館(1986)印刷中。


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

遺伝子構造データから分子進化や生物の系統進化に関する知見を得るため,最尤法にもとづいた統計的方法の開発を行なう。この際,どのような統計モデルを選ぶかという問題と,ぼう大な数の可能な系統樹の中からいかにして尤度最大のものを選び出すかというアルゴリズムの問題がある。また分子時計の考えを用いて生物種間の分岐の年代を推定するための方法を開発する。この際,系統ごとに進化速度に差がある場合には,そのような差をデータから推定できるような解析法を,最尤法のわくの中で開発する。このような解析を,単に遺伝子構造データだけでなく,遺伝子のコードしている蛋白質のデータにまで広げることにより,発ガン遺伝子の進化に関しても新しい知見が得られるものと期待される。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岸野 洋久

東京大学

矢野 隆昭

昭和大学