平成101998)年度 共同研究A実施報告書

 

課題番号

10−共研−64

専門分類

7

研究課題名

ミンククジラの系群識別のための多変量解析手法の適用に関する研究

フリガナ

代表者氏名

ナカムラ タカシ

中村 隆

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析研究系

職  名

助教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

6 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

南極海の捕獲調査で採集したミンククジラには、遺伝学的な解析から1つ以上の系統群が存在することが示唆されているが、個体単位での系群判別までには至っていない。近年の分類学では遺伝学的な情報に加え、これまで基本とされてきた形態学や骨学的情報などを総合的に検討して判断することが望まれている。そこで、外部形態・骨格計測値に遺伝学・生物学的情報を加えたデータに対して多変量解析の手法を適用して系群の有無及び個体単位での系群判別の可能性について検討する。


捕獲調査で収集したミンククジラの外部形態の計測データを用いて、南半球の矮小型と普通型及び北太平洋型の3つの型による差異を検討した。21ヶ所の外部形態部位の計測値を用いて体長を共変量とした共分散分析を行い、型による差異を雌雄別に検討した。その結果、雌個体では14ヶ所の計測部位が、また雄個体では12ヶ所の計測部位が体長を共変量として有意に変動しており、ミンククジラの型の間で有意な差が認められた。
また、同調査で収集したミンククジラの頭蓋骨及び下顎骨の計測値を用いて、南半球の矮小型及び普通型と北太平洋型と北大西洋型の4つの型による頭蓋骨の形態の差異を検討した。解析には頭蓋骨及び下顎骨の76ヶ所の部位計測値を用い、頭骨長を共変量としてとして共分散分析を行った。その結果、57ヶ所の部位において頭骨長を共変量として変動していることが、また39ヶ所の部位ではミンククジラの型の間で有意な差のある事が示唆された。
南半球の普通型は、前上顎骨や上顎骨などの上顎部分の長さが他の型に比べて短く、また下顎骨の湾曲の度合いが小さい傾向を示し、一方、口蓋骨及び翼状骨に関連する部位は北太平洋型で短い傾向を示した。さらに、南氷洋の矮小型は他の型に比べて小さな涙骨を有する傾向のある事が示唆された。
これらの解析結果について、南半球の矮小型及び普通型と北太平洋型の頭蓋骨の骨格標本を用いて比較した。その結果、南半球の普通型の上顎骨の形状が他の型に比べて湾曲しており、また、下顎骨の湾曲の程度は判別分析で示唆されたように矮小型で顕著であった。さらに、後頭骨から鼻骨までの形状が南半球の普通型では曲線的であるのに対して、矮小型では直線となっており、また北太平洋型では曲線型と直線型の2つのタイプのあることが認められた。
これらの観察結果は、先に行った共分散分析と同様の傾向を示しており、現在それらの関連性の取り纏めを行っている。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

[研究内容] (1)南極海及び北西北太平洋のミンククジラの外部形態や骨格などの計測データ、個体の年齢や成熟状態などの生物学的情報、及び遺伝学的情報などのデータに対して、成長に伴う体サイズ等の変動を考慮した主成分・判別分析を適用し、系群識別に有用な外部形態もしくは骨格の部位の特定を行う。 (2)遺伝学的解析結果が示唆した時空間グループの間での差異について検討し、系群識別への有効性を検討する。 (3)遺伝学的情報をも併せて、種々の多変量解析の手法を適用して、系群の有無及び系群判別とその地理的・季節的な変動などについて総合的に検討する。 (4)複数の系群が存在する集団からの個体レベルでの系群識別の課題について検討する。[共同研究の必要性]統計数理研究所には、判別分析を含めた多変量解析に関する情報が豊富であること、また使用する外部形態計測データについては統計数理研研究所側の共同研究者も鯨類捕獲調査への協力を通じて知識があることから、この共同研究によって、このようなデータに対する解析の手法の確立と発展が期待される。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加藤 秀弘

水産庁 遠洋水産研究所

銭谷 亮子

(財)日本鯨類研究所

袴田 高志

財団法人日本鯨類研究所

坂東 武治

財団法人日本鯨類研究所

藤瀬 良弘

(財)日本鯨類研究所