平成292017)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

29−共研−2034

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

異なる測定方法を用いた調査項目間の比較による意識・行動測定尺度の精緻化に関する研究

フリガナ

代表者氏名

マエダ タダヒコ

前田 忠彦

ローマ字

Maeda Tadahiko

所属機関

統計数理研究所

所属部局

データ科学研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

23千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究の目的】
本共同研究の目的は,科学・技術コミュニケーション研究における人々の意識・行動の測定を目的とした質問項目について,複数の異なる測定方法を用いた回答結果を収集し,得られたデータを統計的に分析することによって測定方法ごとの特性を把握するとともに,調査方法論の精緻化を図ることである。

【今年度の研究経過】
 年度の前半には代表者の前田および加藤の間で従来調査(自然科学系研究所のオープンハウス来場者への来場者アンケート)のデータの再分析を中心とした研究活動を行った。年度後半に研究分担者に名古屋大学立川雅司教授を迎え,リスクコミュニケーション研究との接続を図る方向への進展可能性を検討した

【オープンハウス来場者アンケート調査データの分析】
 今年度は,分子科学研究所との共同研究として実施した同研究所の2回のオープンハウス(一般公開日;2009年10月および2012年10月に実施)における来場者調査のデータを基に,これらの来場者の特異性および来場者内での行動の多様性について検討した。来場者の特異性の検討の際には参照対照として,日本人成人に対する代表性を持つ標本に基づく2013年度の「日本人の国民性調査」データとの比較を行い,その結果について検討した。
この検討結果はKato et al. (2017) として公刊された。この概要は下記の通りである。

【成果論文Kato et al.(2017)の概要】
本論文では,科学のアウトリーチ活動における来場者調査と日本国民一般に対して代表性のある調査(日本人の国民性調査)のサンプルを対比させることにより,来場者の特殊性を統計的に明らかにした。このことにより,来場者の背後に存在する「科学に対する無関心層」への洞察を提供した点において,新規性を持つ。合わせて来場者内での展示観覧行動についての違いについての検討も行った。
科学研究者は,概して一般公開といった科学のアウトリーチ活動の場への来場者は「一般市民」であると想定している。しかし,本論文が明らかにした調査結果によれば,これらの来場者と一般市民との間には社会文化的,あるいは文化に対する態度に大きな違いがあることが示唆された。来場者は一般市民よりも科学・技術文化資本のみならず,文学・芸術文化資本が高く,科学研究の価値をより肯定的に捉えていた。しかし,日本の科学,芸術,そして経済のレベルの評価については,2つの集団に差は認められなかった。
さらに,展示観覧時間や展示観覧件数に関しては,アンケートの回答者といったより科学に関心が高いと思われる来場者と他の来場者との間に差異が認められた。より関心の高い来場者は,より長く,かつより多くの展示を観覧していた。
この結果は,「日本人国民性調査」第13次調査(2013年)のデータを用いた論文としては初めてのSSCI登録ジャーナルでの論文発表であり,本共同利用研究における成果の順調な進展を示している。

【今後の展望】
日本におけるこの分野の研究は未発展な部分が多い。特に,社会調査方法論,科学コミュニケーション研究,そして博物館学等の分野における来場者調査研究の統合はほとんど行われていない。そのため,上記論文の成果をもとにさらなる研究の発展を目的として,次の検討を行った。
(1)科学のアウトリーチイベントと対極をなすようなイベントでの調査実施の検討
具体的なフィールド候補としては,美術イベントあるいは美術館を候補として,その調査実施に関する妥当性についての検討を行った。これまでの共同研究の結果として,科学イベントへの来場者は,A.科学・技術文化資本および文学・芸術文化資本の双方が高い人,B.科学・技術文化資本に偏った人,C.文学・芸術文化資本に偏った人,およびD. 科学・技術文化資本および文学・芸術文化資本の双方が低い人の4つに分類できることが分かっている。主にBに属する人が多いと考えらえる科学のアウトリーチイベントの来場者に対して,主にCに属する人が多いと考えられる美術イベント等での調査を実施することで,これまでの研究結果の再現性を強化しうると考えられる。また,これまでの美術館等をフィールドにした来場者調査研究では,科学・技術文化資本との対比といった視点からの研究はほとんど行われていないため,この方向性への研究の伸展についての妥当性が確認された。

(2)リスクコミュニケーション研究との接続を図る方向への進展可能性の検討
この方向についての今後の研究の進展可能性を検討するために,食の安全に関わるリスクコミュニケーニケーション研究に明るい立川雅司教授(名古屋大学・環境学研究科)を新たに分担者として お迎えし,検討を行った。これまでの科学コミュニケーション研究における議論では,「科学観」と「自然観」とは対極をなす概念であると考えられている。そのため,「無添加」あるいは「無農薬」などを全面にだしたフードツーリズムあるいは地産地消などをテーマにした食イベントにおいて来場者調査を行い,食に対するリスク意識と食品開発に関する科学技術の応用を焦点に分析を行うことで,これらの概念の精緻化を図ることは,科学コミュニケーション研究とリスクコミュニケーション研究の接続をも視野に入れることができる。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

主要な成果として下記を公刊した。

Naoko Kato-Nitta, Tadahiko Maeda, Kensuke Iwahashi, and Masashi Tachikawa. (2017) "Understanding the public, the visitors, and the participants in science communication activities", Public Understanding of Science. DOI: 10.1177/0963662517723258
journals.sagepub.com/home/pus

【参考資料(学会発表)】
過年度の関連研究での成果報告として,下記のような学会発表等がある。
[1]加藤直子,前田忠彦,岩橋建輔(2016)「複数の測定法による展示観覧行動データの基礎分析;科学コミュニケーション活動事例の検討」,日本行動計量学会第44回大会発表論文集.於札幌学院大学,2016年9月2日.
[2]加藤直子,前田忠彦 (2013). 科学コミュニケーション活動を通した研究所来場者の展示見学行動分析, 日本行動計量学会第41回大会発表論文集.
[3]加藤直子,前田忠彦 (2014). 科学研究所来場者の展示見学行動と文化資本の関連に関する行動計量学的研究, 日本計量学会第42回大会発表論文集.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 代表と加藤との研究打合せは,適宜行った。
 立川を含めた3名により,リスクコミュニケーション研究との接続を図る方向への進展可能性の検討とテーマとする研究打合せを2018年3月8日午後に行った。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加藤 直子

茨城大学

立川 雅司

名古屋大学