平成31991)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

3−共研−24

専門分類

3

研究課題名

人口変動メカニズムの学際的研究−数理モデルとコンピュータ・シミュレーションの構築をめざして−

フリガナ

代表者氏名

スギトウ シゲノブ

杉藤 重信

ローマ字

所属機関

椙山女学園大学

所属部局

人間関係学部

職  名

助教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

9 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究の目的は,人口変動に関与する文化的社会的要因の人類学的民族学的人口学的資料をもとに数理モデルを構築し,さらにそれをもとにコンピュータ・シミュレーションをおこなって人口変動のメカニズムを解明することにある。そのアプローチにあたっては理科文科の領域を越えた学際的研究をめざすものである。


本研究の目的は、人口変動に関与する文化的社会的要因の人類学的民族学的人口学的資料をもとに数理モデルを構築し、それをもとにコンピュータ・シミュレーションを行って人口変動のメカニズムを解明することにあった。本年度は、重点領域研究「モンゴロイド」において、人口シミュレーションを研究中の大塚柳太郎氏(東大医学部)と大場保氏(厚生省人口問題研究所)を招いて、共同研究会を開催し、意見交換を行った。その概要は以下のとおりである。
先史人口集団の拡散過程については、不明の点が多い。報告では考古学的研究、遺伝学的研究、古植物学的研究、化石サンプルなどの分析方法の研究などから得られた資料と、人口学的な考察に基づくシミュレーションによるアプローチが試みられた。本来の趣旨は、古モンゴロイドのユーラシア大陸から南北アフリカ大陸への拡散過程の解明をめざして企画された。
これまで、大場氏らの共同研究の結果明らかになったことは、仮想的モデルによるシミュレーションによって、千年間で143キロメートルという人口拡散速度である。このたびは、同様の手法を用いて、サフール大陸(氷河期に水面が低下して、ニューギニアとオーストラリアが陸続きとなって形成されていた大陸をいう)におけるオーストラリア・アボリジニの拡散過程をシミュレーションするという試みである。その特徴は、(1)NRR(Net Reproductive)および年齢別死亡率を利用したミクロ・シミュレーションであること。(2)六角形のセルに地域を区分して、セル毎に人口の増減をシミュレートしている。(3)人口の移動動機について人口支持力(Carring Capacity)の概念を用いている、などの点であった。その結果、シミュレーション・モデルは基本的に有効である点が確認されたが、人口支持力の低いところほど移動速度が早いことが観測された。これは、人口支持力とNRRとをそれぞれ独立変数として扱ったために生じており、今後、さらに現実データとの整合が必要であることがわかった。また、以下の諸点が討議された。(1)人口移動動機として人口支持力と人口の差(食べられなければ人口移動する)を用いたが、人の人口移動を考えるとき、もっと社会心理的動機をシミュレーションする必要がある。(2)人口支持力とNRRの関係について、さらにダイナミックなモデルを構築する必要がある。
以上のように、従来の方法をふまえて、さらにモデルの精緻化および現実データとの刷り合わせが重要であることがあきらかになった。今後とも、さらに研究成果を深めてゆくことを期したい。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・杉藤重信「人口制御要因としての婚姻規制−コンピュータ・シミュレーションによる分析」『国立民族学博物館研究報告別冊』15:251ー275、国立民族学博物館、1991
・堀江保範・小山修三「オーストラリアへの道」『国立民族学博物館別冊』15:13ー32、国立民族学博物館、1991

・木下太志「江戸時代後半期東北地方一農村における人口移動−宗門改帳の分析を通して」、第44回日本人口学会、1992.6.6
・正木基文・大塚柳太郎・大場保「先史人口集団の拡散過程の人口学的シミュレーション・モデル(応用例)」、第44回日本人口学会、1992.6.5

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

日本民族学においては,これまで出産のコントロール(避妊,堕胎,間引きなど),幼児や老人の遺棄,社会組織(地域組織,婚姻規則など),人口移動(空間的,階層的)災害(戦争,疫病などを含む)などに関し,概して,人口現象の質的側面のみに注目し数量的側面を無視してきたきらいがあった。本研究ではこうした点に注目し,質的資料をもとに人口変動のメカニズムに関する数理モデルを構築し,コンピュータ・シミュレーションをおこなうことにした。統数研における共同研究は,数学・統計学の研究者に対して質的な資料を提供すると同時に,人類学・民族学・社会学においても,数理モデルの構築やコンピュータの使用に利するといえる。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

伊藤 栄明

統計数理研究所

海野 道郎

東北大学

木下 太志

江南女子短期大学

小島 三弘

総合研究大学院大学

小山 修三

国立民族学博物館

田辺 國士

統計数理研究所

田村 義保

統計数理研究所

西山 賢一

国際大学