平成292017)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

29−共研−2007

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

4

研究課題名

海洋データ同化システムに用いる誤差情報の高度化に関する研究(3)

フリガナ

代表者氏名

フジイ ヨウスケ

藤井 陽介

ローマ字

Fujii Yosuke

所属機関

気象庁気象研究所

所属部局

海洋・地球化学研究部第2研究室

職  名

主任研究官

配分経費

研究費

40千円

旅 費

39千円

研究参加者数

7 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

[本研究の目的]グラフィカルモデルの利用、及び、並列アンサンブル計算による統計情報の作成により、海洋データ同化システムの高度化を行う。

[本研究の成果]
1.グラフィカルモデルの利用に関して
グラフィカルモデルの推定において計算負荷が高い項は(1)評価関数に含まれる行列式、(2)ヘッセ行列に含まれる逆行列、(3)ニュートン方向の算出のための線形方程式の3つである。これらのうち、本年度は(1)および(2)の高速化に取り組み、成功した。これまでは、(1)および(2)は特異値分解ならびに共役勾配法などを利用して求めていたが、対象とする行列が疎であることは特に利用していない。疎であることはグラフィカルモデルの構造から明らかではあったが、東西方向に地球を1周すると元の位置に戻るという地理的性質があるため、帯行列として扱える単純な疎構造ではなかったためである。加えて、34300次元行列(全球水平1度刻みに対応)では、それらの方法での計算時間が許容範囲内に収まっていたためである。しかし、特に海面水温のデータに対して明らかになったのが、観測データの時間方向の長さが増えると、最適化のための収束計算の反復回数が増加する傾向があることである。反復回数が増えるのだから、各反復の計算コストを抑えることが課題として浮かび上がってきた。そこで、各反復に含まれる処理のプロファイリングを行い、(1)および(2)に高速化の余地があることを見出した。続いて議論を行い、疎行列であることを利用した、コレスキー分解の高速化を行った。コレスキー分解が可能になると、そこから行列式や逆行列を得ることは容易である。

2.並列アンサンブル計算による統計情報の作成について
 本研究では、変分法を用いたデータ同化システムにおいて、並列アンサンブル計算により、最適化と同時に解析誤差統計情報を作成し、その後のデータ同化計算に利用することを検討している。昨年までに、並列アンサンブル計算を用いた準ニュートン法を開発し、さらに解析誤差を同時に推定する方法を開発した。本年度は、北西太平洋海洋モデルの線形化についてのバグの修正を行って、1メンバーの計算でイタレーションが50回必要なところを、20メンバーのアンサンブル計算で20回程度まで減らせることを確認した。また、海面高度計やフロートによる観測データを同化した場合としていない場合の解析誤差を比較することにより、それらのデータのデータ同化の解析値に対するインパクトの評価を行った。また、大気二酸化炭素分布解析システムにたいして本手法を適応した結果について、論文作成の準備を行った。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Niwa, Y., Y. Fujii, Y. Sawa, Y. Iida, A. Ito, M. Satoh, R. Imasu, K. Tsuboi, H. Matsueda, and N. Saigusa (2017): A 4D-Var inversion system based on the icosahedral grid model (NICAM-TM 4D-Var v1.0). Part 2: Optimization scheme and identical twin experiment of atmospheric CO2 inversion. Geoscientific Model Development, 10, 2201-2219.

上野玄太、データ同化、計測と制御 (計測自動制御学会誌)、第56巻、第9号、656-661頁、2017年9月刊行。(解説)

上野玄太、6-71 データ同化、人工知能学大辞典(分担執筆)、人工知能学会編、p. 411-414, 共立出版、2017年7月刊行。(著書)


Fujii, Y., Y. Niwa, and N. Usui (2017): Analysis error estimation
in a 4-dimensional variational ocean data assimilation system
of the western North Pacific using a quasi-Newton method. JPGU2017, ポスター発表

Fujii, Y., N. Usui, N. Hirose, T. Toyoda, and T. Kuragano (2017):
Recent Development of Ocean Data Assimilation Systems and Recent Observing System Evaluation Studies in JMA/MRI. Joint DA-TT & OSEval-TT Meeting, 口頭発表.

Niwa, Y. and Y. Fujii (2017):
Estimation of a posterior error covariance using a linear quasi-Newton method and its application to an inversion of CO2 sources and sinks. JPGU2017, 招待講演


上野玄太 (2018): アンサンブル予報と確率分布推定, 第81回CAVE研究会(招待講演).

上野玄太 (2017): データ同化システム構築の次の方法, SICE制御部門データ科学とリンクした次世代の適応学習制御調査研究会第1回講義会「データ同化とデータ駆動型の科学」(招待講演).

Ueno, G. (2017): Data assimilation and optimal error covariance, 2nd ISM-ZIB-IMI MODAL Workshop(一般講演).

上野玄太 (2017): 気象予測の舞台裏:シミュレーションとアンサンブル, 大学共同利用機関シンポジウム(一般講演).

上野玄太 (2017) 結合モデルへのデータ同化, 名古屋大学宇宙地球環境研究所研究集会「宇宙環境の理解に向けての統計数理的アプローチ」(一般講演).

Ueno, G. (2018): Bayesian estimation of the observation error covariance matrix in ensemble-based filters, 6th International Symposium on Data Assimilation (2018)(ポスター発表).

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

本研究では、以下の研究会を行った。

タイトル:データ同化に関する気象研究所・統計数理研究所勉強会
日時:2017年4月28日 13:00〜17:30 場所:政策研究大学院大学
内容:・EnVarなどの背景誤差共分散行列の表現方法について
   ・EnVarとEnKF, 4DVARとの性能比較
   ・気象と農業の統計的関係に関する研究
   ・並列準ニュートン法、解析誤差共分散行列の推定について
・CO2モデルでの解析誤差共分散行列の見積

参加者数: 10人程度

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

石橋俊之

気象庁気象研究所

上野 玄太

統計数理研究所

碓氷 典久

気象庁気象研究所

土谷 隆

政策研究大学院大学

丹羽 洋介

気象庁気象研究所

広瀬 成章

気象庁気象研究所