平成262014)年度 共同研究集会実施報告書

 

課題番号

26−共研−5016

分野分類

統計数理研究所内分野分類

j

主要研究分野分類

9

研究課題名

ダイナミカルバイオインフォマテイックスの展開III

フリガナ

代表者氏名

コンノ ヒデトシ

金野 秀敏

ローマ字

Konno Hidetoshi

所属機関

国立大学法人筑波大学

所属部局

システム情報系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

338千円

研究参加者数

29 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

昨年度の「ダイナミカルバイオインフォマテイックスの展開 II」に引き続き同名IIIの共同研究集会を生体システムで観測される動的で複雑な生体信号を解析し, 物理的, 生理学的, 医学的な理解を深めるための枠組みとして「ダイナミカルバイオインフォマティクス」の構築を目指して実行した。 開催日は9月18日, 19日の2日間となった。プログラムは最下部に添付した。本年度の研究集会では、近年注目されている分子レベルからのモデリングやイオンチャネルモデルの大規模計算で問題解決に挑戦しておられる方を特別講演者として選定した。「心臓の動的な分子モデリング」を「イオンチャネルモデルの電気的特性」から研究している滋賀医科大学の芦原医師の特別講演、並びに、「アクチンとミオシンの分動力学特性」の機械力学的に構成して研究している東京大学の鷲尾先生の2件である。これらの動力学モデリングは、疾病の制御などの創薬の開発や再生医療の分野からも注目を集めている。心臓疾患の同定や制御などの観点から今後、このような大規模計算による研究は重要度が増すことが期待される。 最先端の数理モデリングの現状と今後の臨床応用の展望などに関する質疑応答や議論が活発に行われた。 
新谷先生ならびに戸次先生の講演では、サルコメア振動の実データのモデルとして力学的な性質を観測データから情報抽出する方法、及び、それらを説明出来る非線形力学の数理モデルの構成法がホモクリニック軌道で特徴付けられる可能性が発表され、熱い議論が行なわれた。 実験で得られている諸特性を説明できるより詳細な統計数理モデルにするためにはノイズの導入の必要性があると思われるが、よく実データの波形の特徴をつかむことに成功している。 内山氏や金野の発表も心臓疾患の疾病の電気的特性を特徴付ける特異点のダイナミクスのより精密な確率論的モデリングを目指している。しかし、様々な疾病の状態と数理的なモデルのパラメータの対応やそれらの特性の定量的な完全な把握には至って居らず、特異点の数だけでなくその詳細な時間変動挙動の解析が重要である。特異点の動的振る舞いの記憶効果や特異点の相互作用の本質や相乗性性雑音の起源の解明には進展が見られている。
  RR間隔などの時系列実データを直接説明可能な心臓の数理的なモデリングは上記のモデリングでは考慮状況にはなっていない。心臓のダイナミクスは交感神経や副交感神経の拮抗ダイナミクスが重要な役割を果たしているからである。「ヒトのビッグデータから疾患患者のスクリーニングに有効な情報をいかにして抽出するか」に関する確率を基礎としたモデルは清野先生により考察されている。また、RR間隔のデータの揺らぎ特性から交感神経と副交感神経の拮抗に関する遅いダイナミクスの確率過程を構築する試みが角屋氏により発表された。
  神経疾患に関しては、飛松先生はニューロリハビリテーションの基礎的研究として経頭蓋磁気刺激と経頭蓋交流電気刺激の効果に関する報告を行った。現状では、理論的な数理モデルによる評価はなされていないが、これを説明可能なモデルが提案されることを期待したい。三分一先生は光学的イメージング法によるニューロン、アストロサイトの識別に関する報告がなされた。線形確率モデリングを組み込んだデータ処理技術が紹介された。このようなデータ処理技術の実時間解析のプログラムの進展が望まれる。ブラインド源分離とてんかん発作検出のための脳磁図解析法の開発に発関する発表が岸田先生によって行われた。この結果を利用したてんかんの源の自動同定に関する臨床応用なども期待される。佐治先生は昨年度に引き続き、幼児の脳波の振幅データの紡錘波の出現頻度の詳細解析を行い、出現頻度の数理モデルを進展させている。幼児の脳波データは成人と比べて、長期記憶特性を持つようであり、一層の進展が望まれる。
複雑なシステムでは比較的簡単と思われるモデルでも、従来良く知られている少数自由度の非線形確率過程には収まりきれない複雑な特性を持っていることは永井先生の「鳥が群れをつくるモデル」の試作や宮田氏の大局結合Morris-Recar ニューロンモデルのpragmatic informationの非線形確率過程の同定に関する講演で示された。

2014年度 統計数理研究所共同研究集会
  ダイナミカルバイオインフォマテイックスの展開 III プログラム
  日時:9月18日(木)、19日(金)
  場所:統計数理研究所(立川市緑町10-3)第5セミナー室

9月18日(木)
12:00-12:40
清野 健 (阪大 基礎工)
動的生体情報の確率モデル
12:50-14:20
基調講演
芦原 貴司 (滋賀医科大)
In Silico による不整脈の病態解明と治療法の開発
14:40-15:20
飛松省三  (九大 医学研究院)
ニューロリハビリテーションの基礎的研究: 経頭蓋磁気刺激と経頭蓋交流電気刺激の効果
15:30-16:10
三分一史和 (統数研)
光学的イメージング法によるニューロン、アストロサイトの識別
16:20-17:00
岸田邦治  (岐阜大 名誉教授)
ブラインド源分離とてんかん発作検出のための脳磁図解析
17:10-17:50
佐治量哉 (玉川大 脳科学研)
乳児の睡眠紡錘波の出現頻度はランダムプロセスで記述できるか
18:00-18:40
永井喜則  (国士舘大)
CA modeling of bird moving
9月19日(金)
10:00-10:30
宮田孟  (筑波大 システム情報)
大局結合のあるMorris-Lecarニューロンモデルにおける Pragmatic Information の確率過程
10:40-11:10
角屋貴則  (筑波大 システム情報)
一般化ハイパーガンマ過程を用いた逆温度の分布と時間相関の同時定量化
11:20-12:00
新谷正嶺  (早稲田大 理学研究院)
ナノ精度変位計測による細胞内サルコメアの集団自励振動特性の解析
基調講演 13:30-15:00
鷲尾巧(東京大 新分野創成)
分子モータの協調性を有する確率的挙動と心臓の拍動を結びつける取り組みとその臨床への応用について
15:20-15:50
戸次直明 (早稲田大 理学研究院)
サルコメア長変動を記述する散逸力学系のホモクリニック軌道モデル
16:00-16:40
内山祐介  (筑波大 システム情報)
散逸場の特異点ダイナミクスにおける長期記憶効果
16:50-17:30
金野秀敏  (筑波大 システム情報)
心筋膜の心室細動状態に対応する特異点の生成消滅過程の数理と物理機構

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

(1) Yusuke Uchiyama, Hidetoshi Konno
Birth-death process of local structures in defect turbulence described by the one-dimensional complex Ginzburg-Landau equation, Physics Letters A 378 (2014) 1350-1355.
(2) Hidetoshi Konno, Yusuke Uchiyama
Non-Markovian Brownian Motion with Long-Memory Having Basset and Non-Basset Type Terms, Proc. of the 45th ISCIE International Symposium on Stochastic Systems Theory and Its Applications (2014) 6 pages.
(3) Takanori Kadoya, Yusuke Uchiyama, and Hidetoshi Konno
Time Series Analysis of Heart Beat R-R interval Based on A Generalized Hyper Gamma Distribution, Proc. of the 45th ISCIE International Symposium on Stochastic Systems Theory and Its Applications (2014) 5 pages.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

相原 孝次

株式会社国際電気通信基礎技術研究所・脳情報通信総合研究所・脳情報解析 研究所

芦原 貴司

滋賀医科大学

東 晃弘

大阪大学

岩木 直

独立行政法人産業技術総合研究所

内山 祐介

筑波大学

大坂元久

日本獣医生命科学大学

角屋 貴則

筑波大学

金井 浩

東北大学

岸田 邦治

岐阜大学

清野 健

大阪大学

小林 宏一郎

岩手大学

佐治 量哉

玉川大学

新谷 正嶺

早稲田大学

鈴木 章夫

産業技術総合研究所

鈴木 康之

大阪大学

武田 祐輔

株式会社国際電気通信基礎技術研究所・脳情報通信総合研究所・脳情報解析 研究所

田村 義保

統計数理研究所

坪 泰宏

立命館大学

飛松 省三

九州大学

永井 喜則

国士舘大学

中沢 一雄

国立循環器病センター

野村 泰伸

大阪大学

戸次 直明

早稲田大学

松井 翔士郎

大阪大学大学院 基礎工学研究科

宮田 孟

筑波大学

三分一 史和

統計数理研究所

山本 智久

大阪大学

鷲尾 巧

東京大学