平成232011)年度 重点型研究実施報告書

 

課題番号

23−共研−4305

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

3

研究課題名

Gタンパク質共役型受容体の多様化メカニズム解明

重点テーマ

ゲノム多様性と進化の統計数理

フリガナ

代表者氏名

スワ マキコ

諏訪 牧子

ローマ字

SUWA MAKIKO

所属機関

独立行政法人 産業技術総合研究所

所属部局

生命情報工学研究センター

職  名

主幹研究員

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

2 人

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究目的】
 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)がゲノム配列上で作り出す高密度クラスターの形成シナリオを考察することは、GPCR機能の多様化メカニズムの理解につながる。
本研究では、各々の高密度クラスターの物理化学的な特性を調べる一方、各生物種で高密度クラスターを比較しながら生物種の進化に伴い、対応するオーソログを俯瞰し、追跡することで進化的変遷を調べることを目的とした。

【成果途中経過】
 (A)ゲノム上のGPCR配列の同定と、機能アノテーション
 すでに開発済みの、GPCR遺伝子同定の計算パイプラインを応用し、哺乳類ゲノム(ヒト、チンパンジ?、マカクザル、コモンマーモセット、イヌ、マウス、ラットなど)、鳥類(ニワトリなど)、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュなど)、昆虫(ショウジョウバエ、ミツバチ)につき、GPCRを同定し遺伝子をゲノム地図上にマッピングした。これらに対しリガンド結合部位情報、ストランドの方向などの情報も含め、機能アノテーションを行った。
(B)GPCR高密度遺伝子クラスター領域
 ゲノム配列上に於いて、(A)で求めたGPCR遺伝子の集積クラスターを同定した。ゲノム配列上で隣接する遺伝子ペアを、遺伝子間距離、遺伝子間相同性、エクソン数、GC含量、LINE/SINE配列含量を要素とする6次元の特徴ベクトルで記述し、サポートベクターマシンにより、隣接ペアの連結あるいは切断を繰り返した。これによりゲノム配列上で、嗅覚受容体のクラスター(例えばマウスで108個、ヒトで120個のクラスター)を同定した。
(C)GPCR制御領域の同定 
 UCSC Genome BrowserのOregAnno Track情報を用いて遺伝子クラスターの上/下流領域に対し、既知の制御領域配列をマップした。次に、ヒトとマウスのオーソログクラスターの上流に存在し、クラスターの中から1つの嗅覚受容体のみを選択・発現させるとされる領域(H領域)を網羅的に探索した。これには、モチーフ検索、配列検索手法、多重配列比較等で行った。しかし(B)で同定した遺伝子クラスターと有意な位置関係を示すような制御領域は見いだせなかった。
(D)リガンド結合部位の解析 
 嗅覚受容体ごとにリガンド結合部位のアミノ酸残基に物理化学的記述子(アミノ酸残基の大きさ、電荷、疎水性値など、)を割り付け、ベクトル化した。また、匂い結合部位の特性をプロファイル表現、自己組織化マップ(SOM)表現などで視覚化して表現し、ゲノム配列上に貼り付けデータベース化した。
 物理化学的記述子によるベクトル間のユークリッド距離を測ることで、リガンド結合部位の類似度を調べたところ、結合部位が類似した遺伝子は,ゲノム上で高密度クラスターの中でさらに複数のサブクラスターを形成していた。(ヒトの場合もマウスと同様な特徴を示した。)さらに、マウスで受容体と結合することが既知の52個の匂い分子を対応する場所にマップし、これをリガンド結合部位の類似度が高い場所に逐次的に対応させることで結合リガンドが推定できる受容体の数を増加させた。
(E)比較ゲノム解析 
 遺伝子の高密度クラスターに関しては、内部の遺伝子数、GC含有量、周囲のリピート配列、個々の遺伝子のエクソン数、偽遺伝子数、ストランドの向き、クラスター自体の個数、匂い物質結合領域の類似度の情報を、ゲノムマップに全て貼り付け、生物種に従って重ね合わせ、オーソログクラスター間を連続的に対応付けた。
 これらの共通あるいは異なる特徴を見出しながら、嗅覚受容体に関わる特徴の進化的変遷を解析した。その結果、昆虫、線虫類においては、GPCR遺伝子数は、400程度であり、そのうち300程度が昆虫特有のケモセンサリー受容体であった。まだそれぞれの遺伝子間の類似性は非常に低く、遺伝子クラスターも2〜4程度のGPCRから成る極小さなものであった。生物種が魚類、鳥類になると10遺伝子以上を含むような嗅覚受容体のクラスターが出現し、しかも他のクラスターと類似する嗅覚受容体クラスターが見出された。さらに哺乳類になると、まず、類似した嗅覚受容体クラスターがゲノム全体に広がっており、中には数十もの遺伝子を含む巨大なクラスターも生まれていた。 一方、他のどのGPCR遺伝子群とも相動性が見いだせないような孤立した遺伝子クラスターも存在した。この孤立したクラスターの存在は、哺乳類間で共通していた。また、ヒトでは、他の霊長類には見られないヒト特有の巨大クラスタ?が新たに生まれている事が判った。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表
Suwa, M., Sugihara, M. and Ono, Y., Functional and Structural Overview of G-
Protein Coupled Receptors Comprehensively Obtained from Genome Sequences,
Pharmaceuticals, 査読有, 4, 2011, 652-664.

ホームページ
SEVENS db (GPCR遺伝子網羅的収集データベース、http://sevens.cbrc.jp)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

間野先生の主催する以下の研究会に参加した。

日時:10月25日 場所:統計数理研究所
日時:12月20日 場所:統計数理研究所

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関