平成252013)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

25−共研−1005

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

5

研究課題名

統計学的手法による地下における流体流動の把握ならびにフラクチャーの空間分布の同定

フリガナ

代表者氏名

ナガオ ヒロミチ

長尾 大道

ローマ字

Nagao Hiromichi

所属機関

東京大学

所属部局

地震研究所

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

多孔質媒体中における流体の様子を把握する上で,その流動に大きな影響を与えるフラクチャーの存在を同定することは,極めて重要な課題である。フラクチャーの有無や特徴を把握するための観測手段の1つとしては,トレーサー試験が挙げられる。ある坑井からトレーサーを一定時間注入し,別の地点の坑井でトレーサー濃度の時間変化を観測すれば,浸透率が高いフラクチャーが存在する場合には濃度曲線が大きく変化するため,フラクチャーに関する情報を得られることが容易に想像できる。フラクチャーの位置や大きさが既知の場合に,トレーサー濃度曲線を理論的に算出するための数値シミュレーション法としては複素変数境界要素法(CVBEM)がある。したがって,フラクチャーを特徴づけるパラメータを変化させながらCVBEMの反復計算を実施し,最適パラメータを探索する逆解析を行うことにより,地下のフラクチャーの描像を捉えることが可能であると考えられる。

本研究では,マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)に基づくCVBEMの繰り返し計算により,フラクチャーを特徴づける物理パラメータの事後分布を求める手法を提案した。本手法では,K平均法によるクラスタリングをMCMCで得られたサンプルに対して適用することにより,事後分布を最大にする最適なパラメータ解のほか,事後分布の極大値を与えるいくつかの候補解を順位付けて提示することに成功した。唯一解を得ることが原理的に不可能な1方向のトレーサー試験の場合は,本手法によって真の解および3つの鏡像解を得られることを確認した。そこで,唯一解を得るための2方向のトレーサー試験を実施することにより,真の解に近い最適解が得られることを示した。ただしこの場合も,鏡像解に近い解を排除せず,次善の候補解として提示できることが,本手法の特長となっている。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[論文]
長尾大道, 佐藤光三, 樋口知之, マルコフ連鎖モンテカルロ法を利用したトレーサー試験からフラクチャーの物理パラメータを推定する方法, 石油技術協会誌, Vol. 78, No. 2, pp. 197-209, 2013.

[学会発表]
H. Nagao and T. Higuchi, Time-series modeling to infer properties of fractures/faults within the Earth's crust, IASC Satellite Conference for the 59th ISI WSC, Yonsei University, Seoul, Aug. 22, 2013.

長尾大道, 佐藤光三, 樋口知之, マルコフ連鎖モンテカルロ法を利用したトレーサー試験からフラクチャーの物理パラメータを推定する方法, 第62回理論応用力学講演会, 東京工業大学, 2013年3月8日.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

佐藤 光三

東京大学

樋口 知之

統計数理研究所