平成282016)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

28−共研−2003

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

ウェアラブルNIRSを用いた反復計測に頑健で簡単な脳機能検査法の開発

フリガナ

代表者氏名

キクチ センイチロウ

菊地 千一郎

ローマ字

Kikuchi Senichiro

所属機関

群馬大学大学院保健学研究科

所属部局

リハビリテーション学講座

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

3千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究目的】精神疾患の治療のうち、長期にわたるものとして、作業療法や、反復的経頭蓋的磁気刺激法(rTMS)などがあげられる。作業療法とは、精神疾患もしくは身体疾患により、日常生活に障害をきたしている患者のために、社会的な作業能力や適応能力を向上させることを目的とした治療法である。またrTMSとは、頭表に与えられた磁気刺激から発せられる電磁誘導により、脳表を反復的に電気刺激することするにより、脳細胞の興奮、もしくは抑制を試みる治療法である。これら長期間にわたる治療において、治療進行中の脳活動を経時的に計測して、判定し、かつ方針を修正することは、より効率的で効果的な医療の運用に貢献する。ところで、脳活動を非侵襲的に測定する手段としては、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)検査がある。NIRSは、頭皮の上から近赤外線を照射しその反射光強度の時間的変動から、脳の活動部位を推定する装置であり、精神医学、心理学など多くの分野でヒトの脳機能計測に用いられている。なかでも、検査機器の一つであるウェアラブルNIRSは、ヘッドセット、計測コントローラーが大変コンパクトに設計されており、従来のNIRS機器と比べ携帯性に優れているため、作業療法の現場、ベッドサイドなど臨床の現場に出むき、測定することが可能である。そのため、本機器の臨床応用への試みも併せて有用な研究と考える。
 NIRSは、相対的なヘモグロビン濃度変化の測定に限られるという特徴があるため、脳を賦活させる認知課題を負荷することにより、負荷前後の活動を評価する必要がある。これまでの研究では、認知機能負荷による脳機能測定は、診断補助目的、治療前後の評価など、単回、もしくは2回程度の施行で十分であったが、経時的な変化を追跡するためには、多くの回数を遂行する必要がある。そこで生じるのが馴化の問題である。
 認知課題は、反復することにより生じる馴化作用により、課題負荷による反応が低下してしまい、アーチファクトとしての影響が無視できなくなる。たとえば、治療効果による脳活動の上昇が認められても、馴化による反応低下により相殺されてしまい、上昇が観察されない。実際申請者らは、難治性うつ病におけるrTMSの反応を詳細に経過観察するため、経時的に「後だしじゃんけん課題」(drRPS)を刺激課題としたNIRS研究を繰り返し施行したが、本来反応が低下すべき右半球の低下は認められたが、本来上昇すべき左半球の上昇に乏しいという結果になった。この左半球の変化の乏しさは、治療による反応の上昇と馴化によるdrRPSに対する反応の低下が相殺された結果と考察された。そこで、申請者らは、今回drRPSに代わり、馴化の影響が少ない刺激課題を採用したウェアラブルNIRSを反復計測することで、反復刺激による馴化に頑強でより幅広い臨床応用が可能な検査を試みた。
【成果】群馬大学の「人を対象とする医学研究倫理審査委員会」の承認を経て研究を開始した。健常被検者14名を対象に4週間にわたって、前述のdrRPS、比較的馴化に強い文字ストループ課題(cStroop)、とストループ派生課題のひとつである動物ストループ課題(aStroop)の3種の課題を週に1度同一曜日の同一時間帯に施行した。NIRSを用いて課題遂行中の血液量変化を測定していったところ、drRPS,aStroopでは、馴化の影響が強かったものの、cStroopにおいては、前頭葉左関心領域では2週までは馴化の影響が認められず、右関心領域に至っては4週にわたって馴化の影響が認められなかった。そのため、cStroopとウェアラブルNIRSの組み合わせが現時点でもっとも当初の目的に合致した課題であると結論づけられた。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1.ウェアラブルNIRSを用いた簡便で反復計測に頑健な脳機能検査法の開発
Author:菊地 千一郎(群馬大学 大学院保健学研究科リハビリテーション学講座), 黒澤 幸愛, 室岡 奈美, 下田 佳央莉, 西多 昌規, 三分一 史和, 外里 冨佐江
Source:臨床神経生理学(1345-7101)44巻5号 Page416(2016.10)
論文種類:会議録

2.ステート・マーカーとしてのNIRS検査の臨床応用
Author:菊地 千一郎(群馬大学 大学院保健学研究科リハビリテーション学講座)
Source:The Kitakanto Medical Journal(1343-2826)66巻3号 Page235-236(2016.08)
論文種類:会議録

1の学会発表は英語で行われた。学会の発表は編集委員会より推薦を受けClinical Nerurophysiology誌にProceedingとして掲載予定である。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特に研究会は行われなかった。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

土屋 賢仕

群馬大学大学院保健学研究科

外里 冨佐江

群馬大学大学院保健学研究科

三分一 史和

統計数理研究所