平成192007)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

19−共研−1012

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

3

研究課題名

ProteinDFによるタンパク質全電子計算と統計解析の研究

フリガナ

代表者氏名

サトウ フミトシ

佐藤 文俊

ローマ字

Fumitoshi Sato

所属機関

東京大学

所属部局

生産技術研究所機械・生体系部門、計算科学技術連携センター

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 我々は、タンパク質のための密度汎関数(DF)法プログラムProteinDFを基に、タンパク質の統合的な量子化学計算シミュレーションシステムの開発を行っている。本プログラムは、Gauss型基底関数展開に基づいた密度汎関数法による、世界初のタンパク質全電子計算が可能なプログラムである。本研究では、活性中心近傍における生体触媒反応をはじめとする量子論に基づくタンパク質の反応・機能解析を行うことを目的とし、現在以下の研究に注力している。
(i) タンパク質第一原理ダイナミクスとその統計処理の研究
 ProteinDFをベースにした第一原理分子動力学計算を行っている。また、反応に関与するトラジェクトリーを効率よく探索するための統計的手法を検討している。最終的に得られたトラジェクトリーについては統計的な手法に基づいて解析を行い、熱力学的物理量について検討している。
(ii) タンパク質波動関数データベース作成と統計処理の研究
 系統的にタンパク質を選出し、それらの全電子計算または構造最適化計算を行い、新規データベースの構築を行っている。大量の波動関数データの解析には、統計的手法に基づく新規プログラムの開発が必須である。さらには本システムと既存のバイオインフォマティクスシステムとの連携を目指している。
 これまでの成果は以下の通りである。
(i) タンパク質のような大規模分子の量子化学計算では、クーロン相互作用の計算に膨大な時間を要する。この問題を解決する1手法として、高速多重極展開法(FMM)を量子化学計算に応用する試みがある。Gauss型基底関数系を用いた量子化学計算では、広がりを持った原子軌道間のクーロン相互作用を計算する必要があるが、十分遠く離れた2つの原子軌道間の相互作用は、半古典的な2粒子間の相互作用に置き換えることができる。本研究では、この性質を積極的に利用することにより、従来の古典FMMの計算方法にわずかな変更を加えるだけで、量子化学計算のクーロン項を高速高精度に計算できることを示した。
(ii) あらたな交換汎関数として、密度勾配近似であるBecke88およびLYPならびにB3LYPをサポートした。近年、一般化学分子の密度汎関数計算では、Hartree-Fock交換項や非局所密度近似補正も組み合わせたハイブリッド汎関数が使用されており、なかでもB3LYPハイブリッド汎関数は数多く実験結果と比較が行われ、その高精度の結果から業界標準となっている。Hartree-Fock交換項に必要な4中心積分計算はObara-Saikaの積分公式を用いて実装した。この計算は理論上軌道数Nに対しO(N4)の依存性があるため、タンパク質のような大規模分子計算では膨大な計算量になり、効率よく4中心積分を求めることが要求されるため、スクリーニング法やRT法などの高速化・並列化手法を組み込んだ。これにより、大規模タンパク質のB3LYP汎関数を用いた密度汎関数計算が可能となった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・ 論文発表
1. Noriko Nishino-Uemura, Toshiyuki Hirano, Fumitoshi Sato, J. Chem. Phys., 127, 184106 (2007).
2. 佐藤文俊, 計算工学, 13, 1749, (2008).

・ 学会発表
1. 佐藤文俊, 稲葉亨, 井原直樹, 恒川直樹, 西野典子, 西村康幸, 平野敏行, 吉廣保, 柏木浩, 第10回理論化学討論会 (2007), 愛知.
2. 佐藤文俊, 平野敏行, CBI学会2007年大会 (2007), 広島.
3. 平野敏行, 佐藤文俊, 第1回分子科学討論会 (2007), 宮城.
4. Toshiyuki Hirano, Toru Inaba, Fumitoshi Sato, Twelfty International Conference on the Applicaions of Density Functional Theory (2007), Amsterdam
5. Noriko Nishino, Toshiyuki Hirano, Fumitoshi Sato, Twelfty International Conference on the Applicaions of Density Functional Theory (2007), Amsterdam.
6. 恒川直樹, 伊藤宏比古, 佐藤文俊, 日本物理学会春季大会 (2007), 鹿児島.
7. 恒川直樹, 伊藤宏比古, 佐藤文俊, 日本物理学会秋季大会 (2007), 北海道.
8. 恒川直樹, 伊藤宏比古, 佐藤文俊, 第1回分子科学討論会 (2007), 宮城.

・ ホームページ
・ http://satolab.iis.u-tokyo.ac.jp/
・ http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

井原 直樹

東京大学

恒川 直樹

東京大学

西野 典子

東京大学

平野 敏行

東京大学