平成302018)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

30−共研−2019

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

3

研究課題名

神経伝達物質の違いに基づいた自励的同期活動を形成する機能的なネットワーク構造の検討

フリガナ

代表者氏名

オケ ヨシヒコ

尾家 慶彦

ローマ字

Oke Yoshihiko

所属機関

兵庫医科大学

所属部局

生理学講座生体機能部門

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

115千円

研究参加者数

5 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 ニューロンやアストロサイトの自励的な同期活動は、海馬・脳幹部呼吸中枢など様々な部位で起こっている。この自励的な同期活動は局所的な神経回路や個々の細胞が持つ特性に依存して生成・維持されると考えられおり、自励的同期活動に伴う個々の細胞の挙動やネットワークのダイナミクスについて様々な研究がこれまでに行われてきた。しかし、自励的同期活動を生み出すネットワーク構造と個々の細胞の活動の関係性やネットワークの制御機構などは未だに明らかになっていない。
 そこで、本研究では、自励的同期活動を生成する神経ネットワークの機能的構造を推定することを目標として、自励的同期活動時の情報伝達パターンすなわち神経細胞の活性化順序のパターンに注目して、個々の神経細胞の活動とネットワーク全体の機構の関連を検討することにした。研究対象として、自励的同期活動を行う部位の一例として、呼吸リズム生成する脳幹部呼吸中枢に注目し、そのペースメーカー領域の一つであるpreBotzinger complex(preBotC)を含むスライス標本(呼吸スライス)を使用した。呼吸スライスでは、呼吸リズム生成に関連するニューロン及びアストロサイト(以下、呼吸細胞という)の自励的同期活動がpreBotCで観察できる。そこで、二光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージングにより多数の呼吸細胞の活動を同時記録し、機能的神経ネットワーク構造を推定すべく、その記録の時系列解析や統計数理学的な解析を行った。
 平成30年度は、興奮性ニューロン、GABA抑制性ニューロン、グリシン抑制性ニューロンの区別が可能な遺伝子組換えマウスを使用して、各種呼吸ニューロンの活動記録の解析結果を基に機能的神経ネットワーク構造の推定を行った。解析では、最初にニューロンの分類を行った。分類では、各種ニューロンに特異的に発現させたタンパク質の違いを利用する方法に加えて、細胞内カルシウム変動の波形の違いに基づいた分類も組み合わせた。細胞内カルシウム変動の波形に基づく分類は、呼吸細胞を検出するために記録したpreBotC部位の局所フィールド電位記録(Local Field Potential : LFP)との類似性により行った。この分類法により、我々は呼吸ニューロンを5種類のグループに分類した。検出した全呼吸ニューロンの活性化タイミングを呼吸リズム活動毎に測定し、各リズムサイクルでの呼吸ニューロン間の活性化順序を決定した後に、この5種類の細胞種の分類を適用した。それぞれのグループの呼吸ニューロンの多くが活性化するタイミング・活性化しやすい順番の傾向などを調べた結果、「呼吸ニューロン間の活性化順序は、リズムサイクル毎に変化するが、順序の大まかな枠組みは細胞種単位で決まっている」ことを発見し、機能的な呼吸ニューロンネットワークモデルを提唱して、論文発表を行った(Oke et al. Front. Physiol. 2018)。細胞種毎の活性化順序の大まかな順序は、(1)LFPと比較的類似性が低く、小さな細胞内カルシウム濃度上昇を比較的短時間示す興奮性ニューロンならびにグリシン抑制性ニューロン、(2)LFPと比較的類似性が高く、大きな細胞内カルシウム濃度上昇を比較的長時間示す興奮性ニューロンならびにグリシン抑制性ニューロンの順であり、その後に呼吸バーストの出力が起こると推定した。呼吸リズムと同期した活動をするグリシン/GABA抑制性ニューロンは、LFPと比較的類似性が低いもののみが検出されたものの、サンプル数が少なくその傾向ははっきりと分からなかった。呼吸性のGABA抑制性ニューロンは検出出来なかった。また、(1)の種類の呼吸ニューロンは、呼吸リズム活動中の早いタイミングで活性化することが出来るが、どの細胞が早く活動するかはリズムサイクル毎に異なっていた。すなわち、(1)の種類の呼吸ニューロンは、早いタイミングで活性化しなかった呼吸サイクルでは、活性化順序中の中盤・遅い順番などの様々な順番で活性化が起こることが分かった。続いて、これらとは別の種類の細胞の機能的呼吸ニューロンネットワーク構造への関与を検討するために、アストロサイトの活動の関与についてシミュレーションを行った。その結果、アストロサイトのゆっくりとした活動は、呼吸リズムとは同期していないが、柔軟に活性化順序が変化すると言う機能的神経ネットワークのダイナミクスを生みだすために貢献していると言う結果が得られた。データ解析に必要な手法として、興奮性ニューロン、GABA抑制性ニューロン、グリシン抑制性ニューロンの分布を示す複数の画像を組み合わせてニューロンの位置と種類を識別する画像処理法を開発した。そして、それらのニューロンのうち呼吸バーストと間欠的に同期するニューロンを波形と振幅情報を用いて検出し、呼吸リズム生成のメカニズムの解明へ向けて重要な手がかりを見出した。
 今後は、実験的にはケージド化合物や阻害剤等を利用して、各種ニューロンを人為的に活動・抑制させた状況で記録を行い、それらの結果の時系列解析や因果性解析に取り組み機能的ニューロンネットワーク構造をさらに詳細に解明していく予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文発表】
(1) S. Hulsmann, Y. Oke, G. Mesuret, A. T. Latal, M. G. Fortuna, M. Niebert, J. Hirrlinger, J. Fischer and K. Hammerschmidt. The postnatal development of ultrasonic vocalization-associated breathing is altered in glycine transporter 2-deficient mice. J. Physiol. 597(1), 173-191 (2019).
(2) Y. Oke, F. Miwakeichi, Y. Oku, J. Hirrlinger and S. Hulsmann. Cell type-dependent activation sequence during rhythmic bursting in the preBotzinger complex in respiratory rhythmic slices from mice. Front. Physiol. 9, 1219 (2018). Doi: 10.3389/fphys.2018.01219.

【学会発表(国際学会)】
(1) Y. Oke, F. Miwakeichi, Y. Oku, J. Hirrlinger and S. Hulsmann. Cell type-based activation timing and order in the sequence in the pre-Botzinger complex. 9th Congress of the Federation of the Asian and Oceanian Physiological Societies (FAOPS) in conjunction with the 96th Annual Meeting of the Physiological Society of Japan, Kobe, Japan (2019).
(2) S. Hulsmann, Y. Oke, G. Mesuret, A. T. Latal, M. G. Fortuna, M. Niebert, J. Hirrlinger, J. Fischer and K. Hammerschmidt. Glycine transporter 2-deficient mice show an altered development of the ultrasonic vocalization-associated breathing. 13th Gottingen Meeting of the German Neuroscience Society, Gottingen, Germany (2019).
(3) Y. Oke, F. Miwakeichi, Y. Oku, J. Hirrlinger and S. Hulsmann. Activation timing and order in the sequence during rhythmic burst is dependent on cell type of inspiratory neurons in the pre-Botzinger complex of the mice medulla slice. The 48th Annual Meeting of Society for Neuroscience (Neuroscience 2018), San Diego, USA. (2018).


【学会発表(国内)】
(1) F. Miwakeich, Y. Oke, Y. Oku, Andreas Galka and S. Hulsmann. Spatio-temporal analysis of multi-neuronal imaging data and visualization of spontaneous neuronal activation patterns(マルチニューラルイメージングデータの時空間解析と自励的神経活動化パターンの視覚化). The 41st Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society(第41回日本神経科学会大会), Kobe, Japan (2018).

【シンポジウム・研究報告会等】
無し

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

主催した研究会は無い

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

越久 仁敬

兵庫医科大学

染谷 博司

東海大学

三分一 史和

統計数理研究所

ラル アミット

京都大学