平成51993)年度 共同研究A実施報告書

 

課題番号

5−共研−64

専門分類

7

研究課題名

ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置付けと真核生物の初期進化

フリガナ

代表者氏名

ナカムラ ヨシヒロ

中村 嘉宏

ローマ字

所属機関

昭和大学

所属部局

組換えDNA実験室

職  名

助手

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

6 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

ミトコンドリアをもたない真核生物の分子系統学的位置付けを行なうことは,真核生物の歴史の初期過程を解明するうえで重要である。
本研究では,進化のうえで保存的な蛋白質のアミノ酸配列データをもとに,これらの生物の系統関係を統計的な視点から詳細かつ慎重に検討し,真核生物の起源と初期進化の過程に関する新たな知見を得ることを目的とする。


ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置を、保存的蛋白質のアミノ酸配列データに基づいて統計的に推定することを目的として、実験、データ解析両面からの研究を行った。
ミトコンドリアをもたない原生生物、Giardia lambliaのElongation factor(EF)−1αおよびEF−2、Entamoeba histolyticaのEF−2、さらに、ミトコンドリアを有するが解析上その位置づけが重要な原生生物Trypanosoma cruziのEF−1αおよびEF−2、のそれぞれに関して遺伝子解析を実施し、分子全体の9割以上にわたる部分のアミノ酸配列データを得た。これらのデータをもとに、アミノ酸置換に関するさまざまな確率モデルに基づいて、真核生物内部の系統関係を分子系統樹の最尤推定法により検討した結果、以下のことが明らかとなった。
(1)EF−1α、EF−2に基づく解析から、現在配列の明らかとなっている原生生物のなかでは、G.lambliaが最も早く他の真核生物に至る系統から分岐したとする可能性の高い事が示唆される、
(2)EF−1αの解析から T.cruziおよびEuglena gracilisは近縁であるが、これらの分岐が、従来の小亜粒子リボソームRNA(SrRNA)の系統樹に示されるようにE.histolytica の分岐よりも古いとする可能性は極めて少ないと考えられる、
(3)ゲイムDNAの塩基組成値の種間での大きな偏りが、EF−1α、EF−2のアミノ酸組成値にはほとんど影響を及ぼしていないため、それが大きく影響していると考えられるSrRNAに基づく推定よりも、これらの蛋白質の基づく推定の方が、より頑健な推定結果を与えうるものと考えられる。さらに、EF以外の保守的蛋白質についてもデータの収集に努め、一部についての解析を行った。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Hashimoto,T.,Nakamura,Y.,Nakamura,F.,Shirakura,T.,Adachi,J.,Goto,N.,Okamoto,K.and Hasegawa,M., Protein phylogeny gives a robust estimation for early divergences of eukaryotes: Phylogenetic place of a mitochondoria-lacking protozoan,Giardia lamblia,Molecular Biology and Evolution, Vol.11,No.1,1994年1月
Shirakura,T.,Hashimoto,T.,Nakamura,Y.,Kamaishi,T.,Cao,Y.,Adachi,J.,Hasegawa, M.,Yamamoto,Y.,and Goto,N.,Phylogenetic place of a mitochondria-lacking protozoan,Entamoeba,histolytica,inferred from amino acid sequences of elongation factor 2,Japanese Journal of Genetics,Vol.69,No.2,1994年4月

橋本哲男、白倉哲郎、中村嘉宏、中村文規、曹纓、足立淳、後藤延一、岡本謙一、長谷川政美、ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置づけと真核生物の初期進化、日本遺伝学会、1993年9月
橋本哲男、中村嘉宏、中村文規、白倉哲郎、釜石隆、足立淳、後藤延一、岡本謙一、長谷川政美、ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置づけと真核生物の初期進化−1.EF1αに基づく解析、日本分子生物学会、1993年12月
白倉哲郎、橋本哲男、釜石隆、中村嘉宏、曹纓、山本綾子、長谷川政美、後藤延一、ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置づけと真核生物の初期進化−2.EF2に基づく解析、日本分子生物学会、1993年12月
中村嘉宏、橋本哲男、矢野隆昭、長谷川政美、V−ATPase分子系統樹の問題点、日本分子生物学会、1993年12月

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

ミトコンドリアをもたない真核生物のうち,Entamoeba histolytica, Giardia lamblia, Glugea plecoglossi, などについて,Elongation factor, ATPase, DNA dependent RNA polymerase, などの保存的蛋白質をコードする遺伝子を,混合オリゴヌクレオチドプライマーを用いるRT−PCR法によって単離し,塩基配列を決定する。
それらの配列より推定されるアミノ酸配列データおよび他の真核生物の対応データに「蛋白質分子系統樹の最尤推定法」を適用して真核生物全体の系統樹を推定することにより,ミトコンドリアをもたない真核生物の系統的位置関係を明らかにする。データの整理,加工,保存および最尤法に関わる膨大な数値計算を円滑に行なうために,統計数理研究所との共同研究を必要とする。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

後藤 延一

昭和大学

中村 文規

昭和大学

橋本 哲男

統計数理研究所

長谷川 政美

統計数理研究所

矢野 隆昭

昭和大学