昭和621987)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

62−共研−73

専門分類

7

研究課題名

遺伝子構造データ解析のための統計的方法の開発

フリガナ

代表者氏名

ハセガワ マサミ

長谷川 政美

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

予測制御研究系

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

最近の遺伝子工学と新しいDNA配列決定法の発明に伴ない,各種遺伝子構造データが急速な勢いで蓄積されつつある。そのようなデータから生物進化に関する知見を得るための方法の開発が本研究の目的である。進化における,遺伝子構造の変化は確率化な現象であるので,統計的なモデルにもとづいて解析することが必要である。しかし従来の方法には,この点に関する十分な認識がなかった。本研究では従来の方法の欠陥を正し,この分野において統計的方法の有用性を確立することを目ざす。


DNA塩基配列データから進化の系統樹のトポロジー(枝分かれの順番)と分岐の年代をAICにもとづいて推定するための方法を開発した。
まず系統樹のトポロジーの推定に関しては,昨年度までの研究では信頼区間推定のためにブートストラップ法でモデル間のAICの差の分散を評価したが,この方法では計算が大変であった。今年度の研究ではAICの差に分散をexplicitに表現し,ブートストラップを用いずに信頼区間が推定できるようになった。
DNA塩基配列データから得られるもう一つの情報は生物種がいつ頃分かれたかという分岐年代に関する問題である。多くの場合進化におけるDNA塩基の置換は時間的にほぼ一定の確率で起っているので,これを分子時計として用いて分岐年代が推定できるわけである。しかしながら,塩基置換率は時に変動することがある。実際ヒト上科においてはオナガザル上科にくらべて塩基置換率が低下していることが示された。従ってそのような塩基置換率の変化をモデルの中に取り入れて,分岐年代を推定する方法を開発した。これにより塩基置換率一定のモデルと変動するモデルとがAICの基準で比較することができるようになった。
これらのデータを霊長類のいろいろな遺伝子のDNA塩基配列データに適用し,ヒトの進化的な位置について新しい知見を得た。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Man’s Place in Hominoidea as Inferred from Molecular Clocks of DNA.M.Hasegawa,H.Kishino & T.Yano,J.Mol.Evol.(1987)26:132−147.
Phylogenetic Inference from DNA Sequence Data.M.Hasegawa,H.Kishino & T.Yano.In:K.Matusita(Ed.)Statistical Theory and Data Analysis II.Elsevier,Amsterdam,pp.1−13.
Confidence Limits on the Maximum Likelihood Estimate of the Hominoid Tree from Mitochondrial DNA Sequences.
M.Hasegawa & H.Kishino,Evolution(1988)in press.
Evaluation of the Maximum Likelihood Estimate of the Evolutionary Tree Topologies from DNA Sequence Data,and the Branching Order in Hominoidea.H.Kishino & M.Hasegawa,in preparation.


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

遺伝子構造データから分子進化や生物の系統進化に関する知見を得るため,最尤法にもとづいた統計的方法の開発を行なう。この際どのような統計モデルを選ぶかという問題と,ぼう大な数の可能な系統樹の中からいかにして尤度最大のものを選び出すかというアルゴリズムの問題がある。また分子時計の考えを用いて生物種間の分岐年代を推定するための方法を開発する。ここで,系統ごとに進化速度に差がある場合には,そのような差をデータから推定できるような解析法を最尤法のわくの中で開発する。このような解析を,単に遺伝子構造データだけでなく,(遺伝子のコードしている)蛋白質のデータまで広げることにより,発がん遺伝子の進化に関しても新しい知見が得られるものと期待される。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

岸野 洋久

東京大学

矢野 隆昭

昭和大学