平成41992)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

4−共研−44

専門分類

5

研究課題名

大自由度複雑系のダイナミクス

フリガナ

代表者氏名

カネコ クニヒコ

金子 邦彦

ローマ字

所属機関

東京大学

所属部局

教養学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

7 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

自由度の大きな非線型系の示す振舞をカオス・ネットワーク、Coupled Map Lattice等を用いて研究する。既にそのような系で凍結カオス、カオス的遍歴、発達カオス中での大数法則の破れなどを見出してきたが、これらにおける統計的性質動的な機構を探るとともに、対流、気象等の具体的現象、生物系の情報処理への応用を考える。


大自由度カオス系について本年度は以下の研究を主に行った。1.ハミルトン系でのクラスター状態(粒子の絡まり):散逸系では、適当な引き込みクラスターをもったアトラクターにおちいることがあるが大自由度ハミルトン系では相空間上の体積は伸び縮みしないからそのように落ち込むことはおこらない。しかし長時間にわたって粒子がからまった秩序化が起こることは可能である。ここで初期の運動量の揺らぎによって絡まりのばらけ方は段階別に玉葱状になっていることが明らかにした。
こうした秩序状態も動的にはカオスをしめし、その強さは秩序状態とランダム状態の境界で増大することを示した。また、斥力系では粒子が絡まりの逆に互いに距離を保とうとする秩序状態(これもカオス的)が存在することも明らかになった。
2.多種競合系におけるホメオカオス:多くの種が相互作用をもった系のpopulation dynamicsを突然変異まで導入して調べた。その結果、多種の共存は固体数変動が弱い。しかし大自由度のカオス状態を保つことで実現されることが見い出された。この機構と大自由度カオス系でみられる振動のひきこみクラスター化の関連を論じた。
3.熱体流運動を簡単に構成するモデルを調べた。モデルは空間を格子状に離散化し、各格子点上の場の量Siが写像Si+1=f(Si)によって時間発展するカップルド・マップ・ラティスを用いる。簡単化のため、粗視化した場の量として温度と速度場を選び、これらが浮力・粘性・熱拡散・圧力の効果をうけて時間発展するモデルを考える。ここで言う圧力の効果とは、厳密な非圧縮の条件を課す代わりに圧縮性流体の方程式に現れる▽(▽・v)を離散化したダイナミクスにより非圧縮性を表現することを意味する。さらに、移流のダイナミクスを準粒子によって表現し導入した。
その結果カオスの発生、多くの対流ロールの間の時空間欠性(乱れが時間空間的に間欠に起こる連動)などの実験を再現した。この時、時空間欠運動では層流的状態の空間的長さLの分布関数P(L)が臨界点でべき分布になるなどの実験と一の致をみた。さらにレイリー数が大きくなるとプリュームが発生し乱流状態となる。この時温度の分布関数がレイリー数にともないガウス型から指数型に変化し、ソフト・ハード遷移が観測される。
温度場の動的振舞いを観測すると、分布の遷移はホット・プリュームが低温境界層まで到達することが可能なレイリー数で起こることが解る。すなわち、遷移はプリュームのパーコレイティブな現象であり、モデルの細部によらないと考えられる。遷移をより詳しく捉えるために、分布のフラットネス〈(E−〈E〉)4 〉/〈(E−〈E〉)2 〉2 を調べる、と(ガウス分布は3,指数分布は6)プラントル数に依存していることが分かった。
プラントル数が小さいときフラットネス3から6に変化し分布の遷移は綺麗に現れるが、大きくなるにしたがい(1)ガウス領域が狭くなる(2)6を越えて11まで増加するという傾向が現れた。遷移のプラントル数依存を詳しく調べた実験は今のところなく、実験による検証を待つ。
このモデルの3次元への拡張は容易であり、ロール・パターンの形成やパターン競合などの解析にも有効である。以上のように、このモデルは熱対流の非常に幅広い現象を再現する。このモデルは熱対流現象のみならず、カルマン渦の形成と崩壊現象などの流体現象に拡張することも可能である。特に、相転移を伴う沸騰や雲の形成(気象現象)などの実質的にNavier-Stokes 方程式では解析が出来ない複雑現象に対しこのようなカップルド・マップ・ラティスによる解析は有効である。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

T.Konishi and K.Kaneko, Onion S'tructure of Order and Chaos in Hamiltonwn System Physia D, 出版予定
T.Ikegami and K.Kaneko, Homeochaos and Chstig, Physica D56(1992)406, Chaos(1992)vol.2 No.3
T.Yanagita and k.Kaneko,"Coupled Map Lattice Model for Convection," Physies Latters A(1993)
K.Kaneko, Theory and Applicatuis of Coupled Map Lattices, Wiley, 1993(第1章、及び編集)
金子邦彦 Coupled Mapにおけるクラスタリング 複雑系研究会(基礎物理研) 92年6月;日本物理学会 92年9月
柳田達雄 Coupled Map Latlice Model for Conevction, 日本物理学会 93年3月
池上高志、金子邦彦,ホスト・パラサイト進化におけるクラスタリングとホメオカオス,日本物理学会 92年9月,等

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

カオス結合系での準安定状態間をゆっくり遍歴する現象の相空間での構造や滞在時間分布を調べ、その機構を明らかにする。ハミルトン力学系においても同種の現象が見出されているので、その際の秩序化やエルゴード性の問題を調べる。また、カオス間の結合によってダイナミクスの統計的性質がどのように変わるか、要素間の乱れの伝播がカオスを通してどのように起こるかを調べる。応用としては、進化のダイナミクスシミュレーション、Coupled Map Latticeを用いた対流のシミュレーションを行い、そのパタンの遷移やカオスの性質を明らかにする。
情報処理への応用を含め統計数理と関連する学際的課題なので研究所の方々との交流により新しい分野を開きたい。研究上、グラフィックスを含めたシミュレーションを多用するので、必要に応じ計算機も使わせていただきたい。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

池上 高志

東京大学

伊庭 幸人

統計数理研究所

小西 哲郎

名古屋大学

時田 恵一郎

大阪大学

柳田 達雄

北海道大学

吉村 勉

東京大学大学院