平成222010)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

22−共研−9

分野分類

統計数理研究所内分野分類

f

主要研究分野分類

5

研究課題名

テーパ部を有する回転容器内の流体形状

フリガナ

代表者氏名

サトウ キョウヘイ

佐藤 恭兵

ローマ字

Sato Kyohei

所属機関

秋田大学

所属部局

工学資源学部機械工学科

職  名

学部4年次

 

 

研究目的と成果の概要

1.目的
近年の機械・装置類の精密化や高速化にはめざましいものがある.とりわけ20世紀後半以降の情報機器の発展は顕著な例といえる.特にハードディスクドライブが電子計算機の主記憶装置として用いられている.ハードディスクは円盤状の媒体を回転させることにより,その表面に磁気的あるいは光学的に情報を記録させる装置である.ハードディスクの小型化,大容量化,長寿命化にともない高回転速度,高回転精度,低振動,低騒音などの特性が求められている.それらの要求を満たすために,動力を伝える回転機構が重要な役割を果たしている.
回転機構を支持する代表的な要素部品として軸受が挙げられる.現在,軸受として用いられている機構として流体軸受がある.流体軸受では軸(シャフト) と軸受(スリーブ) の隙間に潤滑剤として作動流体が満たされている.シャフトとスリーブが相対的に回転したとき,流体には圧力が発生し,この圧力によって負荷を支持する.流体軸受は構成要素の固体接触がなく,それゆえ部品精度の影響も少ないので上記の要求が満たされるものとなっている.一方で,軸の高速回転による遠心力などによって,軸と軸受間の潤滑剤が外部に飛散し流体潤滑の状態を維持することができなくなり,軸と軸受とが焼き付けを起こす等の状態に陥り,軸受の早期損耗を招く欠点がある.したがって一般的に作動流体の漏洩,飛散は絶対に起こしてはならない.しかし,回転容器内の作動流体の飛散のメカニズムと回転中の作動流体の流動状態の詳細についてはいまだ不明な点が多い.
そこで本研究ではスリーブの一端および両端にテーパ加工を施した回転容器内の流体形
状に着目する.流体軸受の計算モデルを作り,有限差分法を基にしたHSMAC(Highly
Simplified Maker And Cell) 法およびVOF(Volume Of Fluid) 法を用いて軸受の回転数,作動流
体,テーパ角度の違い,界面の気体圧力の変化による作動流体の流動状態およびテーパシー
ルの有用性について数値解析を行う.
2.研究成果
 本研究で用いた計算モデルを図1に示す.図において右側が軸受(スリーブ),左側が軸(シャフト),となっており,その隙間に流体を位置させている.軸受は上端,下端にテーパ加工を施している.また,軸部は静止しており軸受が回転する.
     
(a)両端テーパモデル          (b)片方テーパモデル
図 1計算モデル
軸受け内部の流体が飛散する現象は,実験結果から以下の要因が考えられる.
? 飛散回転数
? 流体の表面張力
? テーパ角度
? 振動
それぞれの要因に関係するパラメータとしてレイノルズ数[Re],ウェーバー数[We],テーパ角度[θ],気体圧力[P]を設定した.Re数およびWe数は実験値から,θはテーパシールの有用性について調べるためθ=0,5[°]と設定した.振動は外力なので気相側に圧力が働いていると考えることができ,気体圧力[P]を設定した.PはRe数およびWe数が一定下において,θ=0,5[°]の2つのモデル双方に上界面に同じ気体圧力を加え,流体が降下する様子が観察しやすい値を用いた.以上のパラメータを変えることにより飛散の傾向を調べた.結果を以下に示す.
? θ[ °] がより大きくなるにつれ,低いRe 数において流体が飛散しやすくなることがわかった.
? We数が高くなりにつれて,流体が飛散しやすくなった.
? 作動流体の界面の一方方向に外力を加えた場合,θ=0[°]の計算モデルにおいて流体は他方へと流れてしまうが,θ=5[°]の計算モデルの方は釣り合いの位置で静止した.
以上の結果より,回転数が高い場合,より小さいテーパ角度において飛散しにくい傾向を示した.これは回転数の上昇に伴い,流体により大きな遠心力が働いたためと考えられる.また,We数が小さいほど固体壁面と流体における表面張力の値が小さくなったため飛散しやすくなったと考えられる.また,振動などの外力が働いたときにテーパが無い(θ=0[°])場合において流体を保持しにくい傾向を示した.これは,テーパを設置することにより流体が上昇もしくは下降する際に,界面の曲率半径が大きくなり,界面における圧力が流体内部と比べ高くなり,飛散しにくくなったものと考えられる.以上の結果より,テーパシールの有用性を示すことができた.