平成252013)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

25−共研−2003

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

恒常的活性化型シグナル伝達ネットワークのトポロジーおよび制御機構推定

フリガナ

代表者氏名

サトウ マサナオ

佐藤 昌直

ローマ字

Sato Masanao

所属機関

基礎生物学研究所

所属部局

発生遺伝学研究部門

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

30千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究目的
生物の恒常性を司る機構等で観察される恒常的なシグナル伝達ネットワークのトポロジーをパターン認識・機械学習の手法で推定することを目的とする。
 細胞の恒常性は複雑な分子メカニズムによって制御されていることが予測されており、その理解を進めるにはごく少数の分子(遺伝子)に注目するのではな く、分子メカニズムを構成するネットワークを解明することの重要性が指摘されている。網羅的解析からある分子機構に関わる「パーツリスト」である遺伝子群 の同定が可能となってきており、そこに摂動を加えた際の測定データや時系列データを得ることでネットワークのトポロジーや動的状態を推定することが可能で ある。本研究ではカイコ培養細胞BmN4におけるVasa-like gene (VLG)遺伝子発現を制御するネットワークのトポロジーを推定することが目的である。VLGは生殖細胞のマーカー遺伝子として様々な動物で使用される遺 伝子であり、その制御機構を明らかにすることは生殖細胞研究において重要な課題である。また、生物学における遺伝子ネットワークモデリング一般に関して も、新たなブレイクスルーとなることが期待される。遺伝子ネットワークの構造解析はネットワークに対する入力のタイミングが明らかか、人為的にその入力を 制御可能なネットワークについて進められてきた。一方で、本研究で扱うような恒常性を維持する機構のように、すでにある定常状態のネットワークから出力が 恒常的に観察される系では遺伝子ネットワークの構造解析はほとんど進んでいないため、新たな解析手法の構築を目指すものである。

研究の経過
 遺伝子ネットワーク構造を統計的に推定する新規手法の開発については、データセットの準備に支障があったため、進展が得られなかった。しかしながら、当 初の目的を達成するデータセットを準備するための方法が25年度に確立できたこと、分担研究者である松井教授、吉田准教授から有意義な助言をいただき、方向性を定めること ができたため、今後、データセットを取得完了した時点で再度、本提案研究を進めるための共同利用研究を申請したいと考えている。以下、具体的な経過を報告する。
本研究では研究計画時に解析するデータセットを次のように想定していた。
-各データポイントは500-数千の遺伝子の発現量(0-数万が上限の離散値)。以下これをmRNA発現プロファイルと呼ぶ。
- 10個程度の遺伝子について遺伝子機能阻害をかけて、5程度のタイムポイントからmRNA発現プロファイルを取得する。
- 上記を3回程度、独立にサンプル調製、測定を行って取得する。
つまり申請時には約150の測定データを使って解析することを計画していた。しかしながら、研究申請後の研究の展開から、10個程度の遺伝子を構成要素と考えるのが生物学的に不適切と判断される結果が得られたため、計画よりも多くの遺伝子をネットワークモデルの構成要素として考える必要が出てきた。そのため、計画よりもさらに多くの遺伝子についてノックダウン実験を行い、計画していた5点の時系列点からのサンプリング・測定データ収集を独立に3回以上反復 するにはハイスループット且つ低コストの実験系の確立が必要となり、そのプロトコール確立に時間を費やさざるを得なかった。本提案研究における実データを 用いた統計的な解析について実質的な進展は得られなかったが、プロトコールの確立は終了することができ、Methods in Molecular Biologyにそのプロトコールが掲載される。今後、このプロトコールを用いて、本研究計画で予定していたモデリングについてデータ取得を進める。
同様にシミュレーション用のデータ作成についても、モデル化したい実ネットワークに関わる因子が多く、予備的に限られたデータから実ネットワークを想定し たデータセットを作り出すことの意義が少ないと判断し、シミュレーションによる解析を行うには至らなかった。今後は上記の新規に開発したプロトコールに よって十分量のデータが得られることが期待されるため、データ取得の進行に伴ってシミュレーション用のデータセットの作成を進める。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

該当無し。

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

該当無し。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

松井 知子

統計数理研究所

吉田 亮

統計数理研究所