| 【研究目的】本研究課題の目的は、異なる手法を用いた話者類型の抽出とその比較・分析を行うことである。われわれは、これまで日本全国を対象とした共通語と方言に対するほぼ同一の設問文・選択肢を用いた大規模な言語意識調査を繰り返し実施してきた。
 それらの調査は、2010年以降に実施されたもので、調査方法は地域・年齢・性の構成に基づく無作為抽出による対面調査をはじめ、地域・年齢・性の構成を考慮した大規模なwebアンケートなどによるものである。
 比較に用いた調査データ概要は以下の通り。
 対面オムニバス調査1:「2010年全国方言意識調査」(2010年12月実施):層化三段無作為抽出法による全国に居住する16歳以上の男女4,190人(回収率32.1%、n=1,347)。
 対面オムニバス調査2:「2016年近隣関係と方言についての意識調査」(2016年3月実施):層化三段無作為抽出法による全国に居住する20歳以上の男女4,000人(回収率40.0%、n=1,201)。
 Webアンケート調査1:「2015年全国方言意識web調査」(2015年8月実施):web上に設置された調査サイトにアクセスして回答を求めるwebアンケート方式。委託調査会社にモニター登録している全国20歳以上の男女に調査依頼を配信。配信数の設定に際しては、地域ブロックと地域ブロックにおける性・年代別の人口比率に委託業者における平均的なデータ回収率を加味した。有効回答数は10,689(回収率28.4%)。
 Webアンケート調査2:「2016年全国方言意識web調査」(2016年12月実施):webアンケート調査1とは異なる業者に委託。データ回収方法は同様。有効回答数20,000(回収率13.8%)。
 
 【研究成果(経過)】
 申請時に予定していたメンバー間の統計数理研究所における対面による研究会開催が困難であったため、随時メイル等を通じ本共同研究は遂行された。
 基本的な集計データの報告(以下、「基本報告」)と潜在クラス分析による話者類型抽出分析を進めている「2015年全国方言意識web調査」について、クラスター分析を適用し、潜在クラス分析により抽出された話者類型との比較検討を行った。
 併せて、すでに報告済みの「2010年全国方言意識調査」に基づく潜在クラス分析ならびにクラスター分析を適用した話者類型との比較を行った。
 基本報告を行った「2016年全国方言意識web調査」についてのふたつの手法を適用した話者類型を試みた。
 また共同研究者の前田は,本人の研究プロジェクトに関連して「典型的な社会調査項目における級内相関の評価」というテーマに,本研究で分析してきたような方言をめぐる意識調査またはその類似調査データを利用するという新たな課題を着想するに至った。社会調査データで調査地点にネストした個人というデータの構造を反映したマルチレベル分析を効果的に行うためには,目的変数がある程度大きな級内相関を持つことが必要である。しかしながら,特に質的な質問項目の場合,経験的には級内相関はなかなか大きくならない。ところが「方言」などのように特に地域間の差が大きい変数は,その地方性の大きさゆえに(本来の二段抽出の文脈とは離れるが)調査地点間の異質性もかなり高くなることが期待される変数である。こうした観点から,方言意識などの地方色の豊かな質問項目の分析は,一つのベンチマーク的な分析結果を提供することが期待される。
 話者の類型化という本研究課題のテーマを少し離れるが,新たな研究課題に繋がりうる着想であり,機会があれば今後の共同研究の中のサブ課題と位置づけて検討を続けることが期待される。
 
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