平成292017)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

29−共研−1007

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

8

研究課題名

多項式カオス展開を用いた沿岸域流動水質モデルのパラメータ最適化技術の開発

フリガナ

代表者氏名

イリエ マサヤス

入江 政安

ローマ字

Irie Masayasu

所属機関

大阪大学

所属部局

大学院工学研究科地球総合工学専攻

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 水環境シミュレーションにおけるパラメータ最適化手法への多項式カオス展開の活用を検討した.3年にわたり本研究を実施したので,総括を交えながら報告する.
【研究目的】
 水環境シミュレーションにおける流動・水質モデルは,流れ,水温,塩分(海域の場合)を計算する流動モデルにおいては底面摩擦,乱流パラメータ,水表面からの熱供給などにパラメータが含まれるが,比較的パラメータが少なく,また,多くの知見があるため設定しやすい.一方,水質モデルにおいては,高度化が進むたびに,モデルが細緻化し,1つの状態変数の生成消滅項を表す式さえも複雑化する傾向にあるため,調整すべきパラメータは増加の一方である.しかし,実際には対象水域での観測結果からこれらのパラメータを直接得ることは難しく,パラメータ調整に必要な時間は使用者の知識量と経験に大きな影響を受ける.このような属人性を低減するためには,データ同化やパラメータ最適化手法の利用が考えられる.しかし,水環境シミュレーションは,それ自体が計算コストを必要するものであり,モンテカルロ法のようなアプローチは現実的に難しい.
 本研究で利用した多項式カオス展開は,2つのパラメータを最適化するために,5x5(=25)ケース〜7x7(=49)ケース程度のシミュレーション計算結果を用いて,計算ケースで用いたパラメータの値を内挿して最適化する手法であり,計算量が少なく,また,データ同化などに比べて,適用が容易である.長期の計算を必要とする水環境シミュレーションとの親和性も高いものと考えられた.本研究では大阪湾での流動水質モデルに適用し,パラメータ推定法の構築を検討した.
【研究成果】
 大阪湾で定点観測されるクロロフィルの3次元分布(複数地点の鉛直分布)の再現性を高めるべく,1年目にはモデルの構築と適用を行い,パラメータの最適化に一定の効果があることを確認した.2年目には,感度解析を実施し,植物プランクトンの増殖速度と沈降速度を最適化対象とし,最適なパラメータ値を推定した.増殖速度と沈降速度は7.5日ごとに変化するものとし,季節変動を追跡した.増殖速度が増加し,植物プランクトンの大量増殖が起きたのち,次の7.5日には沈降速度が増加する傾向が見られた.発生した植物プランクトンの調査結果と比較すると,沈降速度のばらつきとプランクトン種の種構成に関係性が認められた.本年は再現精度を高める水質項目として,クロロフィル濃度に加えて溶存酸素(DO)濃度も対象とし,精度良く再現できるパラメータの推定を試みた.最適化するパラメータは植物プランクトンの増殖速度と枯死速度に変更し,7x7のケースを与えて検討した.対象のパラメータを変化させても,春季と秋季の植物プランクトンの異常増殖を良く再現することができた.しかし,夏季のクロロフィル濃度の再現精度は十分ではなかった.一方で,同時に再現精度を向上させようとしたDOについては大きな改善は認められなかった.これは,再現性を向上させるために最適化を行ったパラメータは植物プランクトンに関するパラメータであることが最大の要因である.植物プランクトンの増殖量と枯死量が変化することによるDOの再現性改善を期待していたが,期待通りではなかったことから,水質モデル自体の見直しの必要性が,また評価指標としてクロロフィル・DOのそれぞれで無次元化したRMSEを用いていたが,他の評価指標を検討する必要性があることが示された.
 本研究では,多項式カオス展開を用いて,季節変動を持ったパラメータを自動最適化する手法を構築し,大阪湾における植物プランクトンの空間分布の再現性向上と同時にパラメータの最適化が行えることを示した.水質モデル全体のモデルの頑強性を向上させるにはより一層の検討が必要ではあるものの,これまでパラメータ値の調整を経験に頼っていたことに比べると,統計学的手法から自動で推定する方法が提案できたことは大きな前進であると言える.今後はこれまでの成果をまとめて論文投稿を行うとともに,追加の検討を行い,より水環境シミュレーションに適した最適化法にしていくことが目標となる.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

あいにく本年度は発表・論文投稿を行えなかった.現在共同研究者と論文を作成中である.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

とくになし.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

小田 航平

大阪大学

日下部 包

大阪大学

戸井 博彬

大阪大学

野田 晃平

大阪大学