平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2050

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

3

研究課題名

水質管理におけるシミュレーションモデルおよび評価手法の開発

フリガナ

代表者氏名

ヨシモト アツシ

吉本 敦

ローマ字

Yoshimoto Atsushi

所属機関

統計数理研究所

所属部局

数理・推論研究系

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 ある特定の水域に関して、生活環境の向上や生態系の保全を考えたとき、その時々の水質を正しく評価し、また今後の水質変化の行方やリスク要因とそのリスクにおけるダメージを出来るだけ正当に予測していくことが必要である。現在の水質調査では、ある特定の測定ポイントでの化学物質濃度や、その他水質に関する指標となる物質、状態について個々のデータは取られているが、それを統合し大きな水質管理に置ける統計的な評価種表を確立するべく研究が行われている。これまで、東京湾の水質(DO濃度)のデータを基に、生態(マコガレイ)との関連性において、統計的な解析をし、その評価手法を確立すべく研究が進められている。一方で、それぞれの水域には特徴的な物理現象、例えば、水流、潮流、化学物質の濃度変動、気候変動による水温変化、などがある。これらの現象は、流体力学における数値シミュレーションによりある程度予測可能である。このような水域の物理現象としての流体運動と水質調査などで得られる、水質指標となる化学物質の変動は、密接に関係していると考えられる。具体的には、水域の流体運動である、移流現象や拡散現象により、水質指標となる化学物質の拡散、移流、濃縮などが起こり、さらに、流体運動を介した温度の輸送現象や化学物質の輸送現象などにより、化学変化を起こしながら、水質環境が変化していくと考えられる。そのため、水質調査によって統計的に評価された水質データと、流体運動の予測を組み合わせることにより、より有効な水質評価や水質のシミュレーションが可能となると考えられる。
 本研究では、これまでの東京湾の水質データと生態の関係性の統計的解析の研究から、東京湾での3次元流体シミュレーションを行い、水質変動が生活環境や生態系に及ぼす影響を評価するためのシミュレーションモデルおよび評価手法の開発を行った。東京湾の性質として、閉鎖的水域であり外部との海水の交換が少なく、その特性は東京湾の水域内部で完結しているものが多い。また、東京湾ではその大きさのスケールに対して、比較的詳細な3次元の地形データがすでに取られ、海図などとして利用されている。さらに、港湾局などが24時間365日、水質や温度、さらには潮流、風向風力などのデータを監視しており、公開されている。これらのことから、東京湾の3次元形状モデルを作成し、水質、温度、潮流、風向風力などのデータを用いることで、3次元の流体シミュレーションを行うことが出来る。これまでの多くの研究では、このようなシミュレーションでは「2次元」的であった。水域の表層の形状を用いることでシミュレーションを行ったり、深さ方向には簡易的なモデルにより評価されていた。本研究では、深さ方向にも流体運動のシミュレーションを行うことで、より詳細な流体運動の特性と化学物質の変動を評価することを目標とした。この深さ方向の評価は、これまでの研究対象である、生態、マコガレイの生活史を考慮したときに、重要であると考えられた。マコガレイの生活史を見ていくと、産卵ののち孵化した稚魚は浮遊し、徐々に低生生活に移り、さらに沖合に生活領域を移していく。この過程を考慮したとき、深さ方向の流体運動および化学物質の変動をシミュレーションすることは、生態の生活史を考慮した水質の評価をするうえで重要なのは明らかである。
 本研究でははじめに、東京湾の深度データを基に東京湾の形状データを作成し、3次元の流体シミュレーションを行うこととした。深さ方向のシミュレーションをより妥当なものにするために、海底の形状を出来るだけ妥当に再現することに努めた。また、河川から東京湾への流入や、マコガレイの海岸線付近での活動が見られることから、出来るだけ海岸線の形状も再現するように努めた。実際には、海岸には埋め立て地や浅瀬、砂浜など複雑な形状があるが、これらを細かく再現することは不可能であったため、計算結果が妥当なものであることを念頭に形状データを作成した。また、潮位変動もおこるが、東京湾の水深に対して数%程度の変化であると考え、簡単のため水深は固定し、シミュレーションを行うこととした。水質、潮流、風向風力のデータは適宜固定された条件として、シミュレーション組み込み、再現するようにした。
 本研究での、水質管理におけるシミュレーションモデルおよび評価手法が開発されれば、汚染物質がどのように拡散し、どのような場所に影響を及ぼすか、あるいは、1年を通してのシミュレーションにより、生活史に対する影響を評価し、対象となる生態の漁獲高の推定や、特定の水域の変化の特性を評価することにより、水質環境の保護に対する対策が講じやすくなる。あるいは、リスク要因を取り入れたシミュレーションを行うことにより、そのリスクによる損害を事前に把握することができ、その対策を推進していくことが出来ると考えられる。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

特になし

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特になし

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

赤石 亮

なし

石川 仁

東京理科大学

金藤 浩司

統計数理研究所