平成252013)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

25−共研−1006

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

5

研究課題名

脳動脈瘤用ステントの最適化プログラム開発

フリガナ

代表者氏名

オオタ マコト

太田 信

ローマ字

Ohta Makoto

所属機関

東北大学

所属部局

流体科学研究所

職  名

准教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

血管壁が瘤状に肥大化する病気である脳動脈瘤の治療法に血管内治療がある.近年ではフローダイバータステント(FD)と呼ばれる,動脈瘤内の血流を低減させ血栓化を促す医療デバイスが注目を集めている.現状のFDは一様に密なストラットで構成されており,低多孔率のため親血管が血栓で塞栓する可能性が指摘されている.これに対して,近年では最適化と呼ばれる手法を用いて,高多孔率でありながら血流低減効果の高いステント形状の探索が行われている.しかしながらこれまでの研究において,最適化は多数の計算モデルを必要とすることから,微細なFD表面形状に適合した計算格子を作成するために作業者に大きな負担がかかることや計算時間が大量になることが指摘されていた.例えば,通常微細なFD表面形状の計算格子作成には1週間程度を要し,時には格子作成が困難な場合もある.これは,FD表面形状のスケールと動脈形状のスケールには約200倍程度の差があり,そのスケール差に適合した計算格子形状の作成パラメータを見つけ出すのが困難なためである.
そこで申請者らは理想形状動脈瘤に対し,格子ボルツマン法と擬似焼きなまし法を組み合わせることにより,ステント形状作成,計算格子生成,数値流体計算,血流低減効果の評価の一連の過程を自動化した,ステント形状最適化プログラムの開発を行い,自動化プロセスの有効性を示した.その結果,これまでの動脈瘤への流入を妨げるためには,流入領域にストラットが配置されることが重要であると示唆された.しかしながら,本プログラムでは,血流低減効果など一種類の目的関数を評価することしかできず,今後の様々な目的関数を考慮することや,患者データによる多数データを処理したときに,本プログラムでは実時間での計算をすることが困難になる.そこで本申請では,より効率よく最適解を探索するための手法を開発することを目的とする.
LBMを用いた数値流体解析では,領域を格子に分割し,各格子点上における仮想粒子の衝突と並進を速度分布関数を用いて表現する.この格子の密度及び計算における収束条件が解析の精度に影響を与える.このため,本研究では,格子密度及び収束条件をそれぞれ変化させて解析を行い,計算精度について検証を行った.
本研究では正方形格子を用いた.各格子の一辺の長さをL[m]とすると,格子密度Nは以下のように定義される.
N=1/L [/m]
 格子密度は,数値流体解析の精度に影響を与える.そこで,本研究では格子密度と精度の検証を行った.理想動脈瘤モデルにおいて,ステント留置前及び空隙率60%のステントを留置した場合について,格子密度を変化させながら解析を行い,ネック開口部における速度分布及びステント留置前後での瘤内平均流速減少率を比較した.
次に、収束条件も解析の精度に影響を与える.本研究における収束条件は,各計算におけるモデル内の運動エネルギーの平均値の標準偏差がe以下になることとした.格子密度の検証と同様に,理想動脈瘤モデルにおいて,ステント留置前及び空隙率60%のステントを留置した場合について,eの値を変化させながら解析を行い,ネック開口部における速度分布及びステント留置前後での瘤内平均流速減少率を比較した.
格子密度の検証では,格子密度をN=1.0*10^4,2.0*10^4 ,3.0*10^4,5.0*10^4[/m]とし,それぞれの場合について解析を行った.なお,格子密度の検証においては収束条件をe=1.0*10^(-4)に固定して解析を行った.
 収束条件の検証では,e=1.0*10^-6,1.0*10^-5,1.0*10^-4,1.0*10^-3,1.0*10^-2 の場合について解析を行った.ここでは,格子密度をN=1.0*10^4に固定して解析を行った.
格子密度を変化させたときの,ネック開口部における速度分布は,ステント留置前,ステント留置後ともに格子密度の変化によって大きく変動していることが分かった.特に,最も格子密度が大きいN=5.0*10^-4を基準とすると,最も格子密度が小さいN=1.0*10^-4 ではネック開口部における平均流速に368%ものずれが生じていた.
しかしながら,ステント留置前の瘤内のフローパターンを比較すると,いずれの格子密度においても,親血管の流れによって励起された二次渦が観察された.従って,格子密度の違いがフローパターンに与える影響は大きくないと考えられる.
また,ステントの血流阻害効果を評価するための関数として,ステント留置前後における瘤内平均流速の減少率を以下のように定義する.
Rf=(V(wo stent) -V(current )/V(wo stent) *100
 ここで,V(wo stent)はステント留置前の瘤内平均流速を,V(current )はステント留置後の瘤内平均流速を表す.Rfを最大とすることと,瘤内平均流速を最小とすることは同値であるから,格子密度の違いがRfに与える影響は,ステント形状最適化の結果に影響を与える.各格子密度におけるの値は、格子密度の違いによるRfのばらつきは,0.61%以下であった.ここで,格子密度N=1.0*10^-4 において,空隙率60%の初期形状ステントに対して形状最適化を3回行ったときのRfの値のばらつきは,0.88%であり,これに比べると格子密度の違いによるRfの値のばらつきの方が小さい.
 収束条件の検証として,eの値を変化させたときの,ネック開口部における速度分布は,収束条件の違いによるネック開口部での速度分布の差異は小さく,最も精度の高いe=1.0*10^-6 を基準とすると,ネック開口部における平均流速のずれは0.17%以内であった.また,各eの値における収束条件の違いによるRfの変動は0.44%以内であり,これも,ステント形状最適化を繰り返したときのRfのばらつきに比べて小さい.
 以上のことから,本研究においては,N=1.0*10^ [/m],e=1.0*10^-4 と定めることができた。
次に、疑似焼きなまし法では,探索の過程において,現在の解よりも評価値の低い解を得た場合にも,確率Pで解の更新を行う.この確率Pは仮想温度Tに依存し,TをT=Tinitial から Tmin まで徐々に下げていくことにより制御される.このため,仮想温度Tの開始温度Tinitial および終了温度Tmin を適切な値に調整することが重要である.従って,本研究では,各空隙率において最適化を行うのに先立ち,二種類の開始温度,終了温度を考え,それぞれを用いて最適化を行い,最適化前後での瘤内平均流速減少率Rfを比較した.一つ目の仮想温度は,初期値Tinitial=2.0*10^2 ,最終値Tmin=2.0*10^-2 とし,二つ目はTinitial=2.0*10^6 ,Tmin=2.0*10^2 とした.また,Tの冷却過程として,解が10回更新される度,もしくは20回探索が行われる度にTをb倍する処理を行った.なお,b=0.9とした.
パターン1〜4において最適化を3回ずつ行って得られたRfの最高値の結果から,空隙率80%及び90%ではパターン1において,空隙率70%ではパターン3において最も高いRfが得られた.また,いずれの空隙率においても,パターンの違いによるRfの差は1.06%以下であり,各パターンにおける3回の最適化の結果のばらつきに比べて小さいことが分かった.この結果を踏まえ,本研究ではいずれの空隙率においてもパターン1の仮想温度及び近傍定義を用いることとした.
以上のことから、自動最適化ステント設計プログラムにおいて、種々のパラメータを設定することができた。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Hitomi Anzai, Bastien Chopard, Makoto Ohta
Combinational optimization of strut placement for intracranial stent using a realistic aneurysm
[Journal of Flow Control, Measurement & Visualization,

Hitomi Anzai, Jean-Luc Falcone, Bastien Chopard, Makoto Ohta
Application of optimization for design of intracranial stent with blood flow reduction as objective function
[World Congress on Structural and Multidisciplinary Optimization, Florida, USA, May 19-24, 2013]

Yuuki Yoshida, Hitomi Anzai, Makoto Ohta
Optimization of stent design to increase the porosity
[ICS 2013, Buenos Aires, Argentina, November 13-14, 2013]


Y.J.Li, H.Anzai, T.Nakayama, Y.Shimizu, Y.Miura, A.K.Qiao M.Ohta
Hemodynamic Numerical Simulation in Artery Complicated with both Stenosis and Aneurysm in Different Shape and Position
[The 5th Asia Pacific Congress on Computational Mechanics (APCOM2013), Singapore, December 11-14, 2013]


M.Z.Zhang, H.Anzai, Y.J.Liu, M.Ohta
A Study on Multiscale Model in the presence of Systemic-to-Pulmonary Shunt utilizing LBM-LPM
[The 5th Asia Pacific Congress on Computational Mechanics (APCOM2013), Singapore, December 11-14, 2013]


Makoto Ohta, Bastien Chopard, Hitomi Anzai
Development of a Program for Blood flow and Cell Behaviors Based on LBM Method
[the 13th International Symposium on Advanced Fluid Information(AFI-2013), pp.80-81, November 25-27, 2013]


Makoto Ohta, Hitomi Anzai, Han Xiaobo
Optimization of blood flow for intracranial stent
[International Workshop on Flow Dynamics related to Energy, Aerospace and Material Processing KTH, Stockholm, Sweden, September 10-11, 2013]


Makoto Ohta. Hitomi Anzai, Toshio Nakayama, Xiaobo Han, Noriko Tomita
Optimized Stent
[The 10th ICFD, Sendai, Japan, November 25-27, 2013]

www.ifs.tohoku.ac.jp/bfc

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

10th ICFD, Blood Flow for Medical Equipment、2013年11月23〜25日、仙台 50人/日

第9回 流体科学におけるバイオ・医療に関する講演会、膜タンパク質の構造、2013年7月24日、仙台 40人

第10回 流体科学におけるバイオ・医療に関する講演会、心筋構造、2013年12月13日、仙台 30人

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

安西 眸

東北大学

斎藤 正也

統計数理研究所

長尾 大道

統計数理研究所