平成272015)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

27−共研−2003

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

医療従事者の睡眠状態と脳高次機能についての生理学的研究

フリガナ

代表者氏名

ニシダ マサキ

西多 昌規

ローマ字

Nishida Masaki

所属機関

自治医科大学

所属部局

精神医学教室

職  名

講師

配分経費

研究費

40千円

旅 費

13千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【目的】
医療従事者は当直・夜勤など過重労働や不規則な勤務を強いられ疲労・睡眠不足に苦しんでおり、医療事故に直結する注意・判断力の低下に苦しんでいる。アメリカでは医療事故死の最大の原因として、医療従事者の睡眠不足があげられている。長期間にわたる睡眠不足、あるいは不適切なシフトワークは、うつ病などメンタルヘルスにおいてもリスクが大きくなる。医療業界では約5%もの人が、うつ病などメンタルヘルス上の問題を抱えているという報告もある。医療従事者については、メンタルヘルスや労働衛生に関する調査研究はあるものの、脳科学的な研究はほとんどない。本研究では、特に過重労働に陥りやすい研修医を対象に、当直前後での疲労、睡眠状態の確認だけでなく、採血手技中の脳血液量変化を比較検討した。

【方法】
6名の大学病院後期研修医(男性4名) を対象に、精神科研修中に実験に参加した。ピッツバーグ睡眠評価尺度(PSQI)、うつ病自己評価尺度(CES-D)にて、睡眠状態及び抑うつ症状の評価を行った。精神科当直中に、被験者に行動計(ライフコーダFS750 、エステラ社製)を装着し、日中行動量と総睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒時間を記録した。当直前後にて血圧、脈拍、疲労尺度として視覚的評価スケールVAS(Visual Analog Scale)、エップワース眠気尺度(ESS)を記録した。当直前後において、採血練習用の模擬血管を協力者に装着し、被験者に採血手技を行わせた。手技時間は3分間とし、時間内は繰り返し採血手技を行ってもらった。被験者にはウェアラブル光トポグラフィ(WOT-100, 日立製作所製)を装着し、関心領域を前額部付近として採血手技中の脳血液量変化を記録した。各当直前、当直後における採血手技中の酸素化ヘモグロビン波形(oxy-Hb)を、バンドパスフィルター処理後Z変換を行った。これらの波形の採血手技区間の積分値を脳血液量変化の指標とした。本研究は、自治医科大学附属病院・倫理審査委員会の承認を得ている。

【結果】
当直後は、当直前に比べて有意な増加が認められたのは、VAS (p=0.046)、脈拍 (p=0.043)であり、血圧、総睡眠時間、睡眠効率において差は認められたが、統計的有意差には至らなかった。採血手技は、全被験者において3分間で2回繰り返すことができた。採血手技中の脳血液量変化をoxy-Hbを指標にして当直前後で比較したところ、当直後の方が当直前に比べて高いoxy-Hb積分値を示したものの、統計的有意差は認められなかった。しかし当直後における2回の採血手技で比較したところ、2回目は1回目に比較して、oxy-Hb積分値の有意な減少が認められた (p=0.046)。統計は、ウィルコクソンの符号順位検定を用いて行っている。

【考察】
本実験では、救急などほとんど眠れない当直勤務とは異なり、総睡眠時間や睡眠効率が比較的保たれていた。また、本実験で用いたタスクは採血手技という容易な手技であるにもかかわらず、当直翌日の採血手技中では、脳血液量変化の減少が認められた。採血手技中の脳血液量維持が困難になっていることを意味している。睡眠時間が比較的保たれ、軽度の負荷にもかかわらず、当直後における脳血液量維持が不良であるという事実は、巧緻な医療技術だけでなく、ヒヤリ・ハットに通じるようなルーチンワークのイージーミスを発生しやすい神経学的証拠であるとも解釈できる。当直業務による睡眠奪取や緊急対応に伴う心理的ストレスだけでなく、自宅と異なるベッドで眠るといったストレスも考慮する必要がある。医療従事者の健康および患者の安全のためにも、負荷の強弱に関係なく、労務環境の整備・充実が望まれる。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

平成27年5月に大阪で行われた第88回日本産業衛生学会において発表し、優秀演題賞を獲得した。

演題:当直後における研修医の脳血液量変化は低下している
演者:西多昌規 菊地千一郎 三分一史和 田村義保 加藤敏 
第88回日本産業衛生学会 平成27年5月14日 グランフロント大阪

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催していない

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

田村 義保

統計数理研究所

三分一 史和

統計数理研究所