平成232011)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

23−共研−2024

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

日米中国際比較にみるいじめ問題

フリガナ

代表者氏名

ウエキ タケシ

植木 武

ローマ字

Ueki Takeshi

所属機関

共立女子短期大学

所属部局

生活科学科

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

0千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究目的
 「中国ではいじめが無い」と、中国人から聞いた。とても信じ難い話であるが、本当であるか否か調べたく思った。
 3年前に第1回いじめ調査(2007〜2009年)をした際は、アメリカと日本の大学生を対象に質問した。今回は、アメリカ、日本に加え、中国の大学生も追加してアンケート調査をすることにした。3ヵ国の大学生に、小・中・高・大学時代に、いじめをされた経験があるかどうか、あるいは、いじめをした経験があるかどうかのアンケート調査である。
 いじめに関する当該研究の目的は、3ヵ国の大学生の体験から、何か文化的相違が見られるか、という点にある。いじめを起因に、登校拒否、引き籠り、社会不適応、自殺という深刻な問題へ発展するケースもある。児童・生徒に大きな影響を及ぼすいじめ問題を、クロス・カルチュラルな視点で比較研究をしてみたい、と考えた。
 一方、当該研究では、いじめの根源問題を追究し、いじめの根絶を図るという狙いは無い。この問題は、多くの現場の教員や専門家が長年に亙り追求している問題でもあるが、当該研究は、この種の問題を取り上げたものではないことを断わっておきたい。


成果
第1次調査(2007〜2009年)の際に、サブテーマとして「いじめ問題」を取り上げた。その際に、いくつかの文化差を観察できた。「どのようないじめを受けたか」を、日・米の大学生に質問すると、言葉によるおどし、身体的暴力、仲間はずれor無視等は、日米共に高率に出たが、違いは、持ち物を隠すor傷つけると、パシリにした等が日本では高く出たが、アメリカでは低く出た点である。「誰により最悪のいじめを受けたか」という質問に対し、日本人学生の場合は級友が多く、兄弟・姉妹はほとんど無かったが、アメリカ人学生の場合は、級友が多いのは同じだが、兄弟・姉妹からというものが低パーセントではあったが存在した。日本では、兄弟喧嘩はどこでも観察するが、それをいじめとは思わない。そのため、兄弟喧嘩をいじめと思うアメリカ文化に、われわれは少なからず驚ろいた。
最悪のいじめを受けたとき、「あなたはどう思いましたか」という質問に対し、日本人学生の中に「我慢できなく、死にたいと思った」という回答がかなりあったが、アメリカ人学生にはほとんどなかった。自殺行動へ進む日本人生徒が新聞紙上で報告されるが、アメリカではあまり聞かない。アンケート回答にも、この点の相違が表われていることに、われわれは少からず驚ろいた。
興味惹かれたのは、「いじめられた後、あなたはその人との関係はどうなりましたか」という質問である。日本人学生の場合は、「後に和解した」が多いが、アメリカ人学生の場合は、「その後、口を利いていない」「その後、会っていない」が多かった。これは、日本の場合、教師や親が間に入り、いじめられた被害者といじめた加害者の和解まで持って行くケースが多いからであろう。日本の場合は、簡単に学校を変われないという教育環境問題が存在する。一方、アメリカの場合は、いじめが深刻な場合は、すぐに学校を変更できるので、以降、口を利かない、会ったことがない、となるのであろう。
最後は、自由書きであるが、「・・・なぜ、あなたはいじめられたと考えますか」という質問である。前回は、この自由書きの集計は割愛させてもらったが、今回は集計をとるつもりである。3ヵ国語ゆえに困難はつきまとうが、なんとか頑張って分類・集計してみたいと考えている。

 第1次調査の際は、いじめ問題の他に、「家族の絆」問題があった。むしろ、この家族の絆問題がメインテーマであった。今回の第2次調査は、メインテーマがいじめで、サブテーマが家族の絆である。
 家族の絆に関しては、第1次調査の際に、私どもは仮説を持っていた。つまり、「アメリカ人の方が、日本人より家族の絆は強い」という仮説であり、日本人社会学者が聞いたら驚くものであった。調査結果は、われわれの仮説通りに、アメリカ人大学生の方が、日本人大学生より家族の絆が明確に強く出た。
 この結果は、われわれが予測していた通りで驚くに値しなかったが、ここに、ひとつだけわれわれを悩ます課題が存在した。調査以前から気付いていたのだが、アンケートでこの種のクロス・カルチュラルな比較をする際、文化や道徳・倫理感というようなものが、アンケート回答に強く表われるのではないかという心配・懸念であった。アンケートに答える際の被験者の頭には、理性心(rational mind)が強く、ここには道徳・倫理感や宗教感、それらを大きく内包する「文化」働きがアンケート回答に影響を及ぼしているのではないかと、考えたのである。言い換えると、家族の絆を問う質問に対し、「たてまえ」を前面に押し出す文化と、それほど前面に押し出さず、「ほんね」で答える文化があるのではないだろうかと考えた。勿論、前者がアメリカ文化であり、後者が日本文化であると、われわれは考えていた。
 調査結果から、アメリカ人大学生の方が、日本人大学生より家族の絆を大切にするという明瞭な結果が出たあとに、私どもはひとつ新しい方法論を考えついた。それは、もし、第1次調査結果がたてまえ論であるならば、ほんねも調べなければならない。その為には、ほんねは行動に表われるという前提で、「行動」に関する質問項目を挿入してみようと考えたのである。もちろん、行動には経済・習慣・職場環境等が影響して、必ずしもほんねをストレートには表わしていない。しかし、それらの事情を承知の上で、ほんねを調べるために行動を質問項目に入れてみようと、思ったのである。
 そこで今回のアンケート用紙には、ひとつ大きな質問項目を追加した。つまり、もし家族の絆が強ければ、子は親を訪問して絆を強めるはずである、というもので、日米中の大学生に、父母は、この1年間に祖父母(4名)を何度訪問したかを質問した。更に、どのような手段で行ったか、片道に何時間かかったかを聞き、それぞれのケースにウエイト付けを考えている。その結果を、たてまえに影響されると考える質問項目の結果と、比較したいと考えたのである。両者が一致するのも良し、両者が一致しないのも良し、もし、一致しないなら、「なぜか」という考察を議論できる、と考えた。
 異文化間の比較をアンケート調査で行う際は、「文化」により強く影響される「たてまえ」回答が前面に出てしまうのではなかろうかという理由で、従来の質問項目とは別に、「ほんね」が表出し易い「行動」に関する質問項目を入れるべきと考えた。これが、第2次調査の私どもの新理論となったことを報告しておきたい。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

出版物
植木武・山森芳郎・石橋義永他
 2008 「共立女子大学・コーネル大学共同研究プロジェクト 日米国際比較にみる家族の絆」共立女子大学総合文化研究所報告第14号. p. 12.
 2009 「共立女子大学・コーネル大学共同研究プロジェクト 日米国際比較にみる家族の絆」共立女子大学総合文化研究所報告第15号. pp. 29, 30.

植木武・吉野諒三
 2009 「日米学生比較」統計数理研究所共同利用実施報告書平成20年度. pp. 107-109.
 
植木武・山森芳郎・石橋義永・E. Wethington・Q. Wang・R. Edmondson
 2009 「家族の絆といじめ問題?日米比較調査」第82回日本社会学会大会報告要旨集. p. 122.

植木武・山森芳郎・石橋義永他
 2010 「日米国際比較にみる家族の絆?大学生からみた家族への思い」共立女子大学総合文化研究所報告第16号. pp. 33,34.

植木武・山森芳郎・石橋義永・吉野諒三・R. Edmondson・E. Wethington・Q. Wang・小西將文
 2010 『シンポジウム 日米国際比較による家族の絆といじめ問題』日文・英文両語. 全68頁. 共立女子大学総合文化研究所.

植木武・吉野諒三
 2010 「日米学生比較: 家族の絆」統計数理研究所共同利用実施報告書平成21年度. pp. 129-131.

植木武・山森芳郎・石橋義永・吉野諒三・E. Wethington・Q. Wang・R. Edmondson.
 2011 「日米国際比較にみる家族の絆?大学生からみた家族への思い」共立女子大学総合文化研究所報告書17号.27-29頁.

植木武・山森芳郎・石橋義永・吉野諒三・E. Wethington・Q. Wang・R. Edmondson.
 2011 「日米国際比較にみる家族への絆?大学生から見た家族の思い」共立女子大学総合文化研究所紀要第17号.101-140頁.

植木武
 2011 「日米国際比較にみるいじめの問題」統計数理研究所共同利用実施報告書平成22年度.pp. 133,134.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

2007/4/28〜5/1
第1次調査開始にあたり打ち合わせ。米国コーネル大学ヒューマンエコロジー学部
 副学長 F. M. Firebough, 学部長 A. D. Mathios, Prof. E. Wethington,
 Assoc. Prof. Q. wang, 植木武
2007/5/2
第1次調査開始にあたり打ち合わせ。米国ハワイ州立大学・ホノルルコミュニティーカレッジ
 Assoc. Prof. R. Edmondson, 植木武
2008/9/11~13
第1次調査アンケート用紙の作成。米国コーネル大学ヒューマンエコロジー学部
 Prof. E. Wethington, Assoc. Prof. Q. wang, 植木武
2008/9/14
第1次調査アンケート用紙の作成。米国ウェブスター大学(セントルイス市・ミズーリー州)
 Prof. R. Tamashiro, 植木武
2008/9/16
第1次調査アンケート用紙の作成。米国ネブラスカ大学(リンカーン市・ネブラスカ州)
 Prof. S. Swearer, Assoc. Prof. J. Torquati, 植木武
2009/7/24
「シンポジウム 日米国際比較による家族の絆といじめ問題」共立女子大学(東京)
 植木武, 山森芳郎, 石橋義永,  Assoc. Prof. R. Edmondson, 小西將文
2010/○/○
第2次調査開始にあたり打ち合わせ。共立女子大学(東京)
 張正軍(寧波大学), 植木武
2010/9/7
第2次調査開始にあたり打ち合わせ。米国ハワイ州立大学・ホノルルコミュニティーカレッジ
 Assoc. Prof. R. Edmondson, Prof. J. Higa, Assis. Prof. F. Takagi,
 Assist. Prof. J. Allen, 植木武
2011/10/13
第2次調査開始にあたりアンケート用紙の作成。米国ハワイ州立大学・ホノルルコミュニティーカレッジ
 Assoc. Prof. R. Edmondson
2011/10/14~16
第2次調査開始にあたりアンケート用紙の作成。米国ネブラスカ大学(リンカーン市・ネブラスカ州)
 Assoc. Prof. J. Torquati, 植木武

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

吉野 諒三

統計数理研究所