平成212009)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

21−共研−2037

分野分類

統計数理研究所内分野分類

e

主要研究分野分類

2

研究課題名

ランダム行列理論の社会/金融システムへの応用

フリガナ

代表者氏名

タナカ ミエコ

田中 美栄子

ローマ字

Mieko Tanaka

所属機関

鳥取大学

所属部局

大学院・工学研究科・情報エレクトロニクス専攻・知能情報工学講座

職  名

教授

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

9 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

【研究目的】
インターネット,金融市場,地震,気象,脳波など,時系列データのセットによって記述されるシステムを分析する場合,相関行列の性質と構造を調べることは重要である.これまでに,相関行列を分析する手法として,主成分分析などさまざまな手法が考案されてきが,本研究では,そのように従来からある分析手法と相補的なものとして,ランダム行列理論の応用について研究する.
 具体的には,ランダムな時系列が作る相関行列の固有値・固有ベクトルの分布に対する理論式がランダム行列理論によって導かれているので,その理論式と実データから得られる同時刻の相関行列の固有値・固有ベクトルの分布を比較することによって,有意な相関構造を抽出する.そして,その有意な相関構造の意味を明らかにする.
 それに加え,相関行列をフーリエ変換することによって,異時刻の相関行列を統一的に扱う方法も研究する.この場合,相関行列は各モードの相関行列の和として与えられる.そして,このような各モードの相関行列に対して,固有値・固有ベクトルを解析し,有意な相関構造の抽出方法ならびにそれらの意味について研究する.
 また,1998年以降,ネットワーク科学が急速に発展してきているが,多くのネットワークデータは不完全で欠損リンクが存在する.そのため,欠損リンクを見つけるために,ノードのダイナミクスからリンク構造を予想することが必要とされている.そこで,有意な相関構造を用いてネットワークを推定する方法が効果を発揮すると期待できる.本研究では,最小広域木や最適化の手法を応用し,欠損リンクの推定に対する新しい手法を研究する.

【研究成果】
家富(新潟大)とその院生等は,ランダム行列理論を経済や気候の多変量時系列の解析に適用し,データに内在する相関構造の抽出を行った.鉱工業指数については,得られた本質的な相関構造を解析することによって,在庫調整に起因する4-5年周期の景気変動の存在を実証した.合わせて,生産財(入力)と最終需要財(出力)との応答関係を揺動散逸定理を援用して定量的に明らかにした.また.気圧データから抽出された主要な相関モードを既知のテレコネションと対応づけた.さらに, それらの相関モードの時間的な振る舞いを調べ,最大固有値に対応する相関モードは11年周期をもつ太陽活動と強く関係することを見出した.得られた知見は,気候変動問題の解明に大いに役立つと期待される.加えてランダム行列の固有値のみならず固有ベクトルの情報も利用する新しい主成分判定規準を提案した.
 田中(鳥取大)は米国株式市場のtickデータから1994〜2002年の間の、偶数年を選び、毎日10時?15時の定時に取引のある株価を抽出したうえで、提案方法により有意な主成分の抽出を行い、日次データとの比較を行った。その結果、有意な主成分の年次変化を具体的に抽出でき、顕著な動きをする業種の抽出に成功した。
増川(成城大),相馬(日大),福田(NII)はロンドン証券取引所の、FTSE100 指数を構成する銘柄に対して、対数収益率時系列の主成分分析を行った。期間は,サブプライム問題の波及によって世界中のマーケットが株価の急激な変動を経験した時期である.1 分間隔の対数収益率時系列により、日毎に主成分分析を行ったところ、当該期間で、第一主成分(マーケットモード)に対応する固有値に1ヶ月程度の有意な自己相関と、日次収益率の大きさと の系列相関が観測された。この事を利用して、価格変動リスクの新たな動的指標を提案した。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

<研究会発表>

・「第10回創発シンポジウム」(計測自動制御学会)2009年8月8日(富山):田中が発表
・「経済物理2009」(統数研共同研究集会「経済物理とその周辺」と基研研究会「経済物理」との共催):家富、増川、相馬,福田,田中、を含む共同研究参加者の多くが発表
・日本物理学会秋の分科会(熊大)「経済物理」分科会2009年9月: 家富,増川,相馬,福田,田中
・Econophysicis Colloquium(イタリア,エリーチェ) 2009年10月25-29日:増川,相馬,福田,田中
・9th Asia-Pacific Complex Systems Conference 'Complex '09' (Tokyo,Japan):増川,相馬,福田,田中
・日本物理学会第65回年会(岡大)2010年3月21日「経済物理」分科会:家富,増川,相馬,福田,田中

<第1回研究会=”経済物理2009”のポストプロシーディング>

「経済物理2009」の発表内容は次の出版物に掲載された。
1.素粒子論研究(京都大学基礎物理学研究所)117巻-5(E1〜132,35-60)(2009年12月)
2.物性研究(京都大学基礎物理学研究所)93巻-5(2010年2月)

<欧文誌への発表状況>

1. Iyetomi, Y. Nakayama, H. Yoshikawa, Y. Fujiwara Yoshi, Y. Ikeda and W. Souma: ""What Causes Business Cycles? - Analysis of the Japanese Industrial Production Data"", submitted to J. Japanese Int. Economies (2010).
2. Iyetomi, Y. Nakayama, H. Aoyama, Y. Fujiwara, Y. Ikeda and W. Souma: ""Fluctuation-dissipation theory of input-output interindustrial correlations"", submitted to Phys. Rev. E (2010).

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

平成21年度研究会
テーマ:ランダム行列理論の社会/金融システムへの応用
日時: 2010年1月5日
場所: 統計数理研究所(立川キャンパス)第5セミナー室
参加者数:15名
プログラム:
安本典生(新潟大)「ランダム行列理論を用いた気象相関抽出 」
村上和正(新潟大)「時系列データ解析における主成分の新たな判定基準の提案」
家富洋(新潟大)「鉱工業指数に基づく景気変動解析」
相馬亘(日本大)「地震データへの応用可能性について」
田中美栄子(鳥取大)「米国株式市場の日中変動データへの応用:年次変化の抽出」
増川純一(成城大)「英国株価1 分データへの応用:第1主成分に見られる相関の観測」

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

家富 洋

新潟大学

佐藤 彰洋

京都大学

相馬亘

株式会社国際電気通信基礎技術研究所

田村 義保

統計数理研究所

福田健介

国立情報学研究所

増川純一

福山平成大学

村上 和正

新潟大学

安本 典生

新潟大学