平成232011)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

23−共研−2061

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

1

研究課題名

幾何学的アプローチによる推定関数とTsallis統計の研究

フリガナ

代表者氏名

ヘンミ マサユキ

逸見 昌之

ローマ字

Henmi Masayuki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

数理・推論研究系

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

36千円

研究参加者数

2 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

統計的推論の構造や性質を (微分) 幾何学的な立場から論ずる情報幾何学は、1980年代の甘利・長岡による記念碑的な仕事以来、統計学以外の情報関連科学や世界中の研究者に影響を及ぼしながら徐々に進展してきているが、近年、また新たな展開を見せてきている。1つは、黒瀬・松添による「捩れを許す統計多様体」に関する仕事である。彼らの研究の主な動機は、量子推定論における密度行列族の幾何構造として自然に現れる、捩れのある双対アファイン接続を備えた多様体の性質を解明することであるが、このような構造は、通常の統計的推論の基礎となる確率分布族にも、(データとパラメータの関数である) 推定関数を通じて自然に導入されることが、最近、本研究の代表者と分担者の共同研究によって示された。しかしながら、確率分布族におけるこの「捩れを許す統計多様体」の構造は、情報幾何学でこれまで議論されてきた幾何構造 (Fisher計量とアルファ接続) とは異なるものであり、その統計的な意味や役割は、あまりよく分かっていない。本研究の目的の1つは、統計学でよく用いられるいくつかの具体的な推定関数について調べることなどを通じて、推定関数による統計的推論における、その新たな幾何構造の意味や役割を明らかにすることである。また、発展途上にある「捩れを許す統計多様体」の理論構築にも刺激を与えることで、統計学と数学(特に幾何学)との交流も意図している。
 一方、近年の複雑系科学の発展から、ベキ型分布に従う現象が数多く発見され、これを最大化エントロピー原理で説明するために、統計物理学を中心とする分野で導入されたTsallisエントロピーという概念が注目を集めている。これに関しても、最近、本研究の分担者らによって、情報幾何学の観点から新たな知見が得られている。例えば、Tsallisエントロピーに基づく「Tsallis統計」では、エスコート確率と呼ばれる新しい概念が重要な役割を果たすが、これがもとの確率分布の射影変換によって得られることが示され、さらにそれに基づいて、「Tsallis統計」では幾何学的に自然な基準 (双対平坦性) から決まる統計多様体の構造が、これまでに考えられていた統計学的に自然な基準 (確率測度変換に関する幾何構造の不変性) から決まる統計多様体の構造 (Fisher計量とアルファ接続) と異なることが示された。このように、幾何学的観点からは一定の成果が得られているが、「Tsallis統計」に関する研究は統計物理学を動機としたものが多く、統計学的な研究は不十分である。そこで、本研究では、幾何学的な議論との関連を踏まえながら、「Tsallis統計」の議論に現れるさまざまな概念の統計的意味や役割を解明することを今1つの目的とする。
 本年度は、主に前者の課題について議論を重ね、得られた結果についていくつかの研究集会で発表を行った。まだ部分的な結果しか得られていないが、いくつかの手がかりをもとに次年度も研究を続けていく予定である。後者の課題については、研究分担者による幾何学的な研究は進んでいるが、統計的な観点からはまだよく分からないことが多い。Tsallis統計に関する他の研究者との交流を通じて情報収集も行ったので、次年度はそのことも踏まえながら研究を続けていく予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表

Henmi, M. and Matsuzoe, H.(2011).
Geometry of pre-contrast functions and non-conservative estimating functions.
AIP Conference Procedings 1340, 32-41.

学会発表

1. 第58回幾何学シンポジウム 2011年8月 山口大学
 「捩れを許す統計多様体と非可積分推定関数の幾何学」(松添)

2. ミニワークショップ「統計多様体の幾何学とその周辺(3)」2011年12月 北海道大学
 「プレコントラスト関数に基づく推定関数の幾何学」(逸見)
 「プレコントラスト関数の幾何学」(松添)

3. 幾何統計小研究集会 2012年1月 名古屋工業大学
 「統計多様体の一般化した共形構造とアファイン微分幾何学」(松添)
 「推定関数から誘導される捩れを許す統計多様体について」(逸見)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

特になし

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

松添 博

名古屋工業大学