平成162004)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

16−共研−2035

専門分類

7

研究課題名

多年生林床草本の区間的個体群動態解析

フリガナ

代表者氏名

シマタニ ケンイチロウ

島谷 健一郎

ローマ字

Shimatani Kenichiro

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析系

職  名

助手

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

4 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

光は植物にとって必要不可欠な資源である。隣接する植物個体間には光を巡る競争が存在し、この競
争には方向性がある。より上位の空間を占めた個体が光を遮ることによって光資源を独占し、下位の個
体の受光量は甚小となる。植物個体群における光を巡る競争は個体群の構造や動態に多大な影響を与え
る。林床のように光資源が豊富でない環境に生育する植物の、光をめぐる競争の個体群への影響につい
ての研究は極めて少ない。さらに、林床植物は地下器官に貯蔵した物質を成長に使うことから明地の植
物とは異なる振る舞いをすることが予想される。本研究は多年生林床植物について、個体群構造・動態
についての詳細な調査をおこなうことによって、相互被陰が林床植物の個体群にどのような影響を与え
るのか、明らかにすることを目的とする。
 本年度も、福島県南会津地方の落葉樹林林床に設置されたプロットにおいて、クルマバハグマの個体
群動態の追跡調査を9月に行った。全個体にマークをつけ、前年からの生残・死亡および新規加入個体
を確認し、個体のステージ(実生・無花個体・有花個体)の記録、さらに個体のサイズ(高さ、葉数、
葉面積)と個体の位置の測定を行った。蓄積されたデータから,個体群のサイズ構造に年次変化はほと
んど見られないこと,個体サイズの年次変化は小さいこと,個体サイズは減少し続ける個体もあること,
当年実生は死亡率が高いが2年目以降に生残できた実生はその後も生残する可能性が高いこと,などが
明らかになった。個体群内の相互被陰は必ずしも個体群の維持に大きな影響を与えているとはいえない
ことが推察できた。
 落葉樹林下の夏緑草本は生育季節を通じて光環境の大きな変動を経験し,光の質や量の変化に合わ
せ,光利用特性が変化すると考えられる。そこで,季節的な光利用性を明らかにするためにクルマバハ
グマと同属のコウヤボウキを用いて生理生態的な特性を調べた。コウヤボウキは,林床が明るいうちに
展葉する越年茎と暗くなって展葉する当年茎の2つのタイプの茎を持つ。コウヤボウキの光環境の季節
変化に伴う光の利用様式の変化を明らかにするため,各茎の葉の光合成速度,光合成誘導反応,強光阻
害の受け易さの季節変化を調べた。最大光合成速度(2.5-4.0μmol CO2 m-2 S-1)は当年茎葉,越年茎葉
ともに季節変化はほとんどなく,両者に差もなかった。しかしPSIIの光合成誘導反応は5月半ばの越
年茎葉では16分間の光照射でも最大に達しないが,当年茎葉は12分間の照射で最大値に達した。しか
し6月以降は,電子伝達速度が最大に達する照射時間は短くなった。一方,5月半ばの当年茎葉(Fv/Fm
0.36)は,越年茎葉(Fv/Fm0.44)より強光阻害を強く受けた。しかし6月以降は,越年茎葉も強光阻
害の程度が大きくなった。光合成の光反応特性を調べるため,越年茎葉に弱光(10μmol CO2 m-2 S-1,
10分)-強光(1000μmol CO2 m-2 S-1,5分)を繰り返し照射した。5月には強光時の光合成速度,蒸散
速度,ともに強光照射回ごとに高くなった。一方,8月には強光時の光合成速度,蒸散速度は1回目で
ほぼ最大値に達した。すなわち,5月の葉は持続時間の長い強い直達光をよく利用し,5月以降の葉は
持続時間の短いサンフレックをよく利用するように季節変化していた。比較的暗い季節に素早く光合成
誘導を行う性質は小個体でより顕著な可能性が示唆された。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文】
Kawarasaki,S.,Abe,Y.and Hori,Y.(2004)Effect of temperature on achene germination in five Mutisieae
understory herbaceous species(Asteraceae).Journal of Phytogeography and Taxonomy 52:159-166
Kawarasaki,S.and Hori,Y.Seasonal growth of summergreen understorey herbs Pertya robusta,P.
triloba and Ainsliaea acerifolia var.subapoda in a cool-temperate deciduous forest.(投稿中)
Kawarasaki,S.Oikawa,S.,Murase,T.,Kawaguchi,Y.,Fujita,Y.,Ishida,A.,Matsumoto,Y.&Hori,Y.
Plasticity of photosynthetic capacity to light gradient of understory herbs.(投稿中)
【学会発表】
河原崎里子・石田厚。林床低木コウヤボウキの展葉時季の異なる二枝の葉における光合成誘導と光合成
阻害の季節変化。第52回日本生態学会大会
【著書】
河原崎 里子(2005)夏の森に生きる草花たち−コウヤボウキ連植物。In:種生物学会編「草木を見つ
める科学?植物の生活史研究?」文一総合出版。pp.135-161
河原崎 里子(2005)花の中の花を観察。「森の花を楽しむ101のヒント」日本森林技術協会。
pp.72-73

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

相川 真一

茨城大学

河原崎 里子

成蹊大学

堀 良通

茨城大学