平成262014)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

26−共研−2028

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

6

研究課題名

第二言語習得における母語のイベント・スキーマの影響の分析:統計分析を用いて

フリガナ

代表者氏名

チョウ カナコ

長 加奈子

ローマ字

Cho Kanako

所属機関

北九州市立大学

所属部局

基盤教育センターひびきの分室

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

151千円

研究参加者数

5 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究課題は、日本人英語学習者の母語のイベント・スキーマが、英語の使用にもたらす影響について数量的に分析を行うことを目的としたもので,平成26年度は平成25年度の研究から得られた英語母語話者のイベント・スキーマに関する知見をもとに、日本人英語学習者のイベント・スキーマとの相違を探るとともに、日本人英語学習者の英語の特徴を計量的な観点から明らかにすることを目的としてスタートした。 今年度は,二重目的語構文に用いられるdeny/refuseの振る舞い,英語の意味変化に関する研究,日本語を母語とする英語学習者,中国語を母語とする英語学習者,英語母語話者の構文使用の比較という3つの観点から研究調査を行った。詳細については,以下のとおりである。

(1)二重目的語構文に用いられるdeny/refuseの振る舞い
二重目的語構文に現れることができる動詞refuse/denyは先行研究によると受動態で用いられることが多いという。この点についてBritish National Corpusを調査し、統計的手法にて検証した結果、denyよりもrefuseの方が受動態で用いられることが有意に多いことが判明した。さらに第二目的語に生じる名詞を精査すると、名詞によって受動態と能動態の親和性に差がある可能性があることを示すデータが得られた。この点については次年度も継続して調査する予定である。

(2)英語の意味変化に関する研究
英語の名詞句が(強意)副詞句へカテゴリーシフトを起こす際の意味変化や文脈などをコーパスからの用例にもとづき分析し、学会発表を行い、論文を執筆した。また,英語の語や構文が譲歩の意味を持つようになる変化のプロセスをコーパスからの用例に基づき分析を行った。また、同様の手法で譲歩の意味を持つ語や構文が新たな意味拡張を起こす場合について、先行研究を調査し、新たな具体例について検討し、学会発表を行い、論文を執筆した。さらに,「自然な英語」としての認知意味論的あるいは語用論的要因、条件について先行文献を調査し、考察を行った。

(3)英語学習者と母語話者に見られる構文使用の比較
英語の構文使用に影響を与える要因を探るために、3つの言語グループのデータを分析した。日本語を母語とする英語学習者、中国語を母語とする英語学習者のデータと英語母語話者のデータを比較した結果、日本語を母語とする学習者の場合、英語母語話者と比較して与格構文を多用している一方、二重目的語構文の使用が少なかった。中国語を母語とする外国語学習者の場合は、与格構文については英語母語話者より有意に多く使用していたが、他の構文については有意差が存在しなかった。2つめの要因であるエッセイトピックについては、英語母語話者の構文使用には影響を及ぼしていないことが分かった一方、日本語を母語とする学習者および中国語を母語とする学習者には統計的に有意な差が観察された。外国語学習者は、構文の選択にエッセイトピックが少なからず影響を及ぼしていると考えられる。外国語学習者は、熟達度が限られている為、自分が知っている語彙や言語形式を過剰に使用することは知られているが、過剰使用や過少使用とトピックとの関連性については、質的な観点からさらに調査する必要がある。最後に学習者の英語が熟達度レベルという要因も、構文使用と有意な関連性が観察された。トピックの違いは、日本語を母語とする英語学習者も中国語を母語とする学習者も同じ傾向を示したのに対し、英語熟達度レベルについては,両言語グループの振る舞いに異なる傾向が観察された。この点についても、使用されている構文とコンテクストの関係などの質的な分析を含めてさらなる調査が必要である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

<著書>
吉田悦子、川瀬義清、大橋浩、村尾治彦. 『コースブック意味論第2版』ひつじ書房. (原著 James R. Hurford, Brendan Heasley and Michael B. Smith. (2007) Semantics: A Coursebook, Second Edition, Cambridge University Press.)


<論文>
植田正暢「二重目的語動詞refuse,denyと受動構文」,『統計数理研究所共同研究リポート339 イベントスキーマと外国語学修』,pp. 1-11

大橋 浩「カテゴリーシフトと頻度?big timeの場合?」,『統計数理研究所共同研究リポート339 イベントスキーマと外国語学修』,pp. 13-23

長 加奈子「構文選択に影響を与える要因に関する一考察」,『統計数理研究所共同研究リポート339 イベントスキーマと外国語学修』,pp. 25-41.

大橋 浩「譲歩への変化と譲歩からの変化」,『日本認知言語学会』第15巻(投稿中)

Ohashi, Hiroshi. On 'Having Said That': A Usage-based Analysis. Selected papers from the 5th UK-CLA Conference. (Under review)

Ohashi, Hiroshi. Category Change and Constructionalization in the Development of an English Intensifier Phrase. In Muriel Norde, Kristel Van Goethem, Evie Cousse, and Gudrun Vanderbauwhede (eds.) Category change from a constructional perspective. (Under review)

<発表>
Ueda, Masanobu. A Corpus-based Analysis of Verbs of Refusal in the English Ditransitive Construction.(The Eighth International Conference on Construction Grammar、University of Osnabruck, Germany)2014年9月.

Ohashi, Hiroshi, On "having said that": A usage-based analysis, the 5th UK Cognitive Linguistics Conference: Empirical Approaches to Language and Cognition, 2014. 07. 30, Lancaster University, United Kingdom

大橋 浩 譲歩への変化と譲歩からの変化(招待発表)、日本認知言語学会第15回全国学会 2014. 09. 20. 慶應義塾大学

Ohashi, Hiroshi, Category change and constructionalization in the development of an English intensifier phrase, The 8th International Conference on Construction Grammar, Workshop: Category change from a constructional perspective. 2014. 09. 03. University of Osnabruck, Germany

大橋 浩「頻度基盤による分析ー英語強意副詞句の変化を例に」,第32回日本英語学会シンポジウム『頻度と言語研究を考える』2014. 11. 09. 学習院大学

Kawase, Yoshikiyo, Japanese Demonstratives from a Cognitive Point of View. Wake Forest University Linguistic Circle. Wake Forest University, NC.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

テーマ:言語研究と統計2015
日時:2015年3月
場所:統計数理研究所
参加者数:60名

統計数理研究所公募型共同利用に採択された他の言語系チームと合同で,研究会を開催した。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

植田 正暢

北九州市立大学

大橋 浩

産業医科大学

川瀬 義清

西南学院大学

前田 忠彦

統計数理研究所