平成282016)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

28−共研−23

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

5

研究課題名

メソゲン含有両親媒性ブロックポリマーの階層的自己組織化挙動の解明

フリガナ

代表者氏名

フクシマ カズキ

福島 和樹

ローマ字

Fukushima Kazuki

所属機関

山形大学

所属部局

大学院有機材料システム研究科/工学部機能高分子工学科

職  名

助教

 

 

研究目的と成果の概要

【研究目的】
親水性ブロックと疎水性ブロックからなる両親媒性ポリマーは、水中で会合し、多くの場合は球状のミセルを形成する。このうち、生体適合性や生分解性を有するポリマーを用いたものは、ドラッグデリバリー用の担体としての医療分野への応用が期待されている。申請者はこれまでに、水溶性ブロックと疎水性ブロックの間に水素結合ユニット(アミド基、ウレア基)と芳香環からなるメソゲン様構造を導入した両親媒性ジブロックコポリマーを合成し、水中でナノチューブやナノロッド、ナノシートなどの異方性会合体を形成することを確認している。いずれにせよ、水中で安定化するためには、親水性ブロックが会合体の外側を覆う集合状態となるはずである。そして、非球状形態を形成するためには分子集合に配向性が付与される必要がある。申請者は、そのため、ブロックポリマーの中央に位置するメソゲン様構造が液晶性配向を誘起していると考えた。そして、ナノチューブの形成には、まず脂質二重膜のようなシート構造が形成され、シート平面の歪みにより、チューブ化する二つのプロセスが含まれていると予想した。
一方で、水中での動的な集合プロセスをナノレベルでリアルタイムに観察できる手段は多くなく、実際の形状を決定することも難しい。このため、上記の仮説を証明する手段として、ポリマーを部分的に構造変化させ、その時得られる形状への影響を調べる実験的アプローチが通常採用される。しかし、対象となる構造因子が複数ある場合は、相当数のポリマーを合成し調べる必要があり、効率的な手段とは言えない。
そこで本研究では、この自己組織化挙動を階層的に捉え、メソゲン様構造の一分子系と二分子系での安定構造、それに基づく多数系での集合挙動、を密度汎関数(DFT)計算で予測し、さらにポリマー分子を結合させた場合の水中での集合挙動についてシミュレーションを行う。メソゲン様構造中のベンゼン環に付く置換基の位置(メタ、パラ)、水溶性、疎水性ブロック、分子量がそれぞれどのように会合体の形状に作用するのか、様々なパラメーターを変えて調べる。
【成果の概要】
計算科学、物性物理を専門とする研究者と共同で基礎となる計算を行った。水を計算場とした全原子分子動力学シミュレーションから、メソゲン様構造による異方性誘起、およびメソゲン様構造中のベンゼン環に付く置換基の位置(メタ、パラ)によって会合体の幅が変化する結果が再現された。また、粗視化モデルを用いた計算から、疎水ブロックの結晶性(硬さ)が及ぼす会合体構造や異方性誘起への影響を調べたが、計算パラメータの条件探索に時間を要し、現在までに顕著な結果は得られていない。以上のような状況で、平成28年度は研究所の施設を利用する段階にまで届かなかった。
また、人的資源の問題もあるため、平成29年度も現在の共同研究体制での計算・解析に集中し、研究所施設の利用は改めて検討する。