昭和621987)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

62−共研−62

専門分類

7

研究課題名

医学領域の予測に関する大規模反復計算の有効性の研究

フリガナ

代表者氏名

フルカワ トシユキ

古川 俊之

ローマ字

所属機関

東京大学

所属部局

医学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

7 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

医学領域の情報科学に対する期待は精度の良い予測を実現することで,診断を含む意志決定から医療保健政策の立案まで多くの課題がある。しかしこれらの対象はデータとモデルのいずれもが不完全な悪条件を有するので,人間の思考より遥かに大規模な反復計算の結果から条件によって妥当な解を選択する方法論を開発する。


問題解決や意志決定問題は,2種類に分けて考えることができる。1つは“良構造問題(Well−structured problem)”であり,閉世界仮説を前提とし数値的あるいは定型的な問題を対象としている。他は,“悪構造問題(III−structured problem)”で,情報論的に開いた世界を対象とし数値的扱いが困難で,前者と反対の性質である。
医学における意志決定問題は,観察,疾病の概念的分類あるいは生体内部の状態推定など多くの認識過程より構成されている。例えば生体の水分欠乏量は,ヘマトクリットのように血液の濃縮あるいは希釈状態を反映した検査データに基づいて定量的に推定することができる。しかし,血液データは主として血管内の状態の情報であり,必ずしも生体内部状態を正確に反映しているわけではない。したがって,最終的な結論を得るためには,臨床所見のような定性的情報や経験的知識を考慮する必要がある。つまり,診断は良構造問題のみならず悪構造問題をも含んだ総合的認識過程と見なすことができる。
医学におけるこのような認知論的局面を考慮して,我々は医用エキスパートシステムの推論系を構築するための新しい概念を提案し,これを輸液治療コンサルテーションシステム(FLUID therapy EXpert system)に応用した。このシステムの概要は以下のとおりである。
(1)FLUIDEXでは定量的情報に基づく推論結果と定性的情報に基づく推論結果を統合して最適な診断結果を得る必要がある。このためにFLUIDEXでは,1)各々の情報源に基づいて推論仮説を生成するとともに,2)推論の根拠となったデータの質や矛盾の検証,3)推論仮説間の整合性の検証により不適切な仮説を排除して,4)最適な結論に到達するアルゴリズムを採用し,これを実現する処理系として,4つのレベルから構成される階層的推論系を開発した。
(2)FLUIDEXでは生理学的あるいは因果的推論を行うために定量的シミュレーションモデルを備えており,効果の予測や治療計画の作成に利用する。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1)古川俊之也,診断学研究におけるパラダイムの確立,昭和62年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告書,昭和63年3月
2)田中博他,定量的計算と論理的推論を統合した輸液診断−エキスパートシステムFLUID,医療情報学,7(2),1987,155−172


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

モンテカルロ法の手法を発展させた反復計算の有効性を,以下の事象で検証する。
1.生物の形態・機能の適応進化のシミュレーション:骨構造,筋肉,循環系などの形態の最適性を,応力歪みの均等化と最小材料を拘束条件としてモンテカルロ法に準じて反復計算する。2.老化にともなう死亡発生の統一モデル:年齢階層別死亡率は,モンテカルロ法でシミュレートできる他,内因的な生命力と外因的な傷害因子の拮抗モデルやワイブル分布でも説明できるが,これを統一モデルに統合する。3.医療を包含したワールドモデル:高齢化社会の医療資源の配分とそれに伴うキャピタルフローのモデルを作成し,さまざまな政策の効果を予測する。以上の研究に統計数理研究所の人的および計算機能力の協力を要請する。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

青木 隆夫

東京大学

池田 研二

東京大学

Hong You-Xi

東京大学大学院

駒澤 勉

統計数理研究所

竹長 ホルヘ

東京大学大学院

田中 博

東京大学