昭和631988)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

63−共研−46

専門分類

5

研究課題名

地盤工学における逆解析への情報量統計学の応用

フリガナ

代表者氏名

カシワギ ノブヒサ

柏木 宣久

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析研究系

職  名

助教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

3 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

近年地盤工学の分野においても電気的計測技術の進歩,データハンドリング技術の進歩などの結果大量のデータが経済的に得られるようになり,これを利用した逆解析手法も研究され初めている。本研究は,これら逆解析手法を情報量統計学の立場から見直し,モデルの同定,パラメーターの推定などについて有用な知見を得ることを目的としている。


地盤工学の逆解析の問題では,得られるデータ量に比較して推定しようとするパラメーターの数が多くなりがちで,このため地質学的な知識や技術者の経験に基づいた事前情報を推定に用いる必要のある場合が多い。これは一応ベーズの統計学を用いて定式化されるが,観測値と事前情報の共分散の相対的な大きさを調整する方法について決め手がないことが1つの大きな問題となっている。これは換言すれば,データ解析における最適フィルターの設計の問題である。本研究ではこの問題にABICを適用することを検討した。
本研究で対象とした地盤工学の問題は,地盤調査におけるトモグラフィーの応用と,地下水浸透流解析モデルのパラメーター推定の問題である。逆解析の問題としては,前者は線形問題であり,後者は非線形問題である。
トモグラフィーの地盤調査への応用の問題は,例えば地盤中に削孔された2本のボーリング孔の間で弾性波,あるいは電磁波等を用いてたくさんの測線に沿って波の伝播速度を計測し,これより地盤内の密度分布(地盤の強度に高い相関を持つ)の推定を行う問題が挙げられる。この推定は,対象領域を多数のセルに分割し,計測結果に最も辻妻の合う地盤密度の個々のセルへの割付を求める問題として定式化され,測定波の直進性を仮定できるときは線形重回帰分析の問題に帰着する。医療分野におけるトモグラフィーの問題と異なり,地盤調査においては種々の制約のため透過方向が限定される場合が多く,この結果重回帰分析のいわゆる“共線性”の問題が発生する。これを避けるため,局所平均をとるなど種々の最適化フィルターを用いることが行われるが,本研究ではこの最適フィルターの設計にABICの適用を試みた。種々の地盤内密度分布パターン,透過方向,計測のノイズの強度等を変化させ,計算機内で作り出したデータに対してABICにより最適と判定された推定結果が,打倒であるか否かを検討した。結論としてABICは,最適推定結果の判定において極めて有効であった。この結果は,文献(1)に発表を準備中である。
建設行為などによる地下水環境の変化を予測するため,地下水の挙動を有限要素法などによりモデル化することが広く行われている。このとき解析モデルのパラメーターを推定するため,すでに存在している井戸の水頭観測結果よりこれを同定する,いわゆる逆解析の方法が用いられ始めている。これは非線形回帰分析として定式化されるが,ここにおいても上述の問題と同様事前情報を推定に利用することが行われている。本研究では,推定されたパラメーター値においてテーラー展開により問題を線形化してABICの適用を検討した。問題が非線形であるため,選択されたモデルが最適解と一致しない場合も見られたが,他に代替的な方法もないため一応有効な方法であると考えられる。線形化の方法については今後に問題が残っている。この結果は文献(2)に発表済みである。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

(1)On optimum design of a smoothing filter for Geophysical Tomography,Honjo,Y and N.Kashiwagi,土質工学会論文報告集投稿準備中
(2)地下水浸透流解析モデルのパラメーター推定:最適モデルの選択,本城勇介,1989年土質工学会全国大会梗概集


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

地盤工学の逆解析問題では,得られるデータ量に比して推定しようとするパラメーター数が多くなりがちで,このため地質学的知識や技術者の経験に基づいた事前情報を用いる場合が多い。これは一応ベイズ統計学を用いて定式化されるが,観測値と事前情報の共分散の大きさの調整法について決め手がないことが1つの大きな問題となっている。これは換言すれば,データ解析における最適フィルターの設計の問題である。本研究ではこれにABICを適用することを考えている。ABICは,統数計の研究グループにより研究が進められているものであり,統数研との共同研究が必要不可欠であると考えられる。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

本城 勇介

岐阜大学

室谷 義昭

早稲田大学