目的:
光感受性ベロソフ・ジャボチンスキー反応を記述する数理モデルとして、空間依存性オレゴネータに光刺激が印加されている系の実験が勢力的に行われている。しかし、このモデルは「硬い方程式」と呼ばれる非線形の強い方程式であり、光刺激に対する応答の原因を解明するのが難しいことが知られている。そこで、特異摂動法の一種である多重尺度法を用いることで縮約方程式である複素ギンツブルグ・ランダウ方程式を導出し、この簡略方程式を数値計算することにより光感受性ベロソフ・ジャボチンスキー反応系の非線形素励起の非線形多体相互作用の本質を統計解析により明らかにする。
成果の概要:
ホールとショックが混在し、生成消滅が起こっている領域での数値計算を実行することによって、ホール数の分布、ホール間の距離の分布、ホールの深さの分布を計算した。
得られた結果は以下のとおりである:
(1)ホール数の分布はポアソン分布を期待したが、歪んだ数の多い方に裾の厚い分布となっていることがわかった。この事実は、ホール数のゆらぎが大きいばかりでなく、ホールがクラスター的に発生することを示唆している。
(2)ホール間の距離はガンマ分布に近い分布であてはめられることがわかった。
これから、ホール間距離は平均20くらいのものもあるが、150を越える間隔の長いものも存在し、間欠性の強い生成消滅パタンを形成していることが明らかになった。
(3)さらに、ホールの深さの分布は一見すると指数分布となるが、スケールを対数としてみると、ベキ則となっており、最大値近傍で急速にゼロに収束する分布となっていることがわかった。(4)以上は、定常状態の非線形素励起の統計解析の結果であるが、定常状態への遷移領域での、ホールと波束の衝突実験を実行してみた。衝突の結果、3ソリトン的な準安定な長寿命状態が出現することが明らかになった。運動量空間での構造をウイグナー変換で調べた結果、大きな運動量の部分が現れるだけでなく、回転した構造をしていることが明らかになった。ホールが2次元空間では回転らせん波に対応しており、それと関係した空間・運動量空間の対称性の破れとなっている。
文献:
内山祐介、筑波大学大学院博士過程、システム情報工学研究科修士論文、「反応拡散系における非線形素励起の多体相互作用」2009年3月
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