平成232011)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

23−共研−20

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

4

研究課題名

多変量状態空間モデリングのための数値的方法

フリガナ

代表者氏名

キタガワ ゲンシロウ

北川 源四郎

ローマ字

Kitagawa Genshiro

所属機関

情報・システム研究機構

所属部局

新領域融合研究センター

職  名

研究員(情報・システム研究機構 機構長)

 

 

研究目的と成果の概要

研究の目的

体積ひずみ計の時系列データは,地殻ひずみだけでなく気圧や地球潮汐,降雨などの影響を強く受けて複雑に変動しており,これらの要因の影響を適切に除去することによって初めて地殻変動を明らかにすることができる.また,電力需要のデータは時刻,曜日,季節,各地の気温などの影響を受けて複雑に変動しているため,需要予測においては適切な多変量時系列モデリングが不可欠である.このような現実世界の時系列データに基づいて,情報抽出や予測を行うためには,状態空間モデルの利用が有効であるが,非線形性や非ガウス性を持つ場合にはカルマンフィルタが適用できず,数値的計算が必要になる.本課題では,MCFなどの多変量・非線形・非ガウス型状態空間モデルのフィルタリングのための数値的な方法の研究と実際問題への適用の研究を行った.

成果の概要

従来,統計数理研究所と産業技術総合研究所の共同研究によって開発され,一部実用化されている方法では,降雨成分に対して降雨量を外部入力とするARMAXモデルを用いていた.これによって,数か月にわたる降雨の長期的影響を考慮できるメリットがある反面,応答曲線に不自然な振動現象がみられる場合が多いという問題があった.また,地球潮汐成分の理論値が得られていない地点のデータでも地球潮汐の影響が補正できるようにする必要があった.
そこで.本研究ではこの問題に特化し
(1)ARMAXモデルのARの特性根が実数のみからなるという制約を課した降雨成分モデル
(2)任意に指定できる数の分潮成分まで用いる地球潮汐成分モデル
を新たに導入した.次に,これらの成分モデルを統合して状態空間表現することによって,逐次フィルタリングのアルゴリズムを利用して未知パラメータの推定を行い,さらに平滑化アルゴリズムによって,各成分の推定を行うプログラムを作成した.計算は主に統計科学スーパーコンピュータシステム(FUJITSU SPARC ENTERPROSE M9000)上で行った.

開発した方法およびプログラムは東海地方の地震関連観測データの解析に用いて,その有効性を検証し,一部のデータでは極めて興味深い結果が得られている.ただし,潮汐成分の推定は極めて安定している反面,制約付きの降雨モデルの推定は不安定な場合があり,モデル表現法や最適化法さらには現在利用しているモデル自体の改良を検討している段階である.