平成172005)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

17−共研−1026

専門分類

6

研究課題名

断層すべり速度推定のための時間依存インバージョン手法の開発と GPS データへの適用

フリガナ

代表者氏名

ヒグチ トモユキ

樋口 知之

ローマ字

Higuchi Tomoyuki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

モデリング研究系

職  名

教授

所在地

TEL

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E-mail

URL

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

研究目的
 GPS観測から得られる地殻変動データを用いて断層すべり速度の時空間変化を高精度に推定することは、
断層の力学的性質を解明するために極めて重要である。従来、断層すべり速度の推定には、カルマンフィル
タが使われてきたが、この手法では、すべり速度の急激な時間変化が過度に平滑化される(over smoothing)
一方、すべり速度の時間変化が小さい期間では滑らかさ不足して推定値が不安定になる(under smoothing)と
いう問題が生じ、高精度推定は困難だった。より高精度な推定を可能にするために、我々は、すべり速度の
時間的な滑らかさを支配するhyper-parameterを時間変化する確率変数として扱うことのできるフィルタリ
ング技法、モンテカルロ混合カルマンフィルタ(MCMKF)を開発し、比較的小規模な問題に対してその有効性を
確認してきた。本研究では、問題の大規模化によって生じる数値的問題を解決し、MCMKFを現実の複雑な現
象に対して適用可能とすることを目的とした。さらに、大規模なGPSネットワークのデータにこの手法を適
用し、その有効性を示すことを目的として研究を行った。
研究成果
1)これまで、MCMKFを用いた断層すべり速度の推定手法では、すべり速度は空間的に一様であると仮定さ
れてきた。本研究ではすべり速度を空間基底関数と時間変化する係数の線形結合で表現することにより、
上記の仮定を緩和した。これによって,すべり速度の時空間変化の推定が可能になった。
2)MCMKFを用いた断層すべり速度の推定手法では、内部でカルマンフィルタと粒子フィルタのアルゴリズ
ムを用いている。問題が大規模な場合、カルマンフィルタの部分で数値的な不安定が起きることがある
ことがこれまでに分かっている。本研究では特異値分解法に基づくカルマンフィルタのアルゴリズムを
採用することによりこの問題を解決し、MCMKFを大規模問題に適用可能にした。
3)真のすべり速度を仮定することによって模擬データを作成し、MCMKFをそのデータに適用することによ
り、すべり速度の時空間変化の推定を行った。その結果、over smoothingやunder smoothingの影響を受
けずに高い精度ですべり速度が推定可能であることが確かめられた。
4)MCMKFをGPSデータに適用し、2003年十勝沖地震後のプレート境界面におけるすべり速度の時空間変化
を推定した。その結果、地震直後のすべり速度はカルマンフィルタによる推定値に比べて顕著に大きい
ことが分かった。また、この結果はプレート境界面の摩擦パラメータの推定値に大きな影響を与えるこ
とを示した。
5)MCMKFをGPSデータに適用し、2002年に房総半島沖のプレート境界面で発生した非定常なすべり速度変
化の時空間発展の推定を行い、その結果をカルマンフィルタに基づく推定値と比較した。その結果、非
定常なすべり速度変化の開始時刻やすべり速度の最大値に顕著な違いが生じることが明らかになった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表
(1)福田淳一(2006),Geodetic inversion for space-time distribution of fault slip based on a
hierarchical Bayesian time series model,博士論文,東京大学大学院理学系研究科.
(2)福田淳一・宮崎真一・加藤照之・樋口知之(2006),2003年十勝沖地震の余効すべりの時空間発展,
月刊地球,投稿中。
学会発表
(1)Fukuda,J.,T.Higuchi,S.Miyazaki,and T.Kato,Geodetic inversion for space-time
distribution of fault slip rate using a statistical time series model with hierarchical
structure,International Symposium on Predictability of the Evolution and Variation of the
Multi-scale Earth System,S-b02,Tokyo,Japan(September 2005)
(2)福田淳一,樋口知之,宮崎真一,加藤照之,階層構造を持つ統計的時系列モデルを用いた測地イン
バージョン法の開発,日本地震学会2005年秋季大会,P011,札幌,2005年10月
(3)福田淳一,宮崎真一,加藤照之,加藤尚之,樋口知之,測地インバージョンによる2003年十勝沖
地震の余効すべりの時間発展とプレート境界の摩擦特性,日本地震学会2005年秋季大会,A060,札
幌,2005年10月
(4)福田淳一,宮崎真一,樋口知之,加藤照之,階層ベイズモデリングに基づく測地インバージョン法
を用いたスロースリップイベントの時空間発展の推定,日本地球惑星科学連合 2006年大会,
D124-P013,千葉,2006年5月

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

福田 淳一

東京大学