平成242012)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

24−共研−2096

分野分類

統計数理研究所内分野分類

j

主要研究分野分類

7

研究課題名

病虫害リスク軽減のための森林管理最適化システムの構築

フリガナ

代表者氏名

コノシマ マサシ

木島 真志

ローマ字

Konoshima Masashi

所属機関

琉球大学

所属部局

農学部

職  名

准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

157千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究では,免疫学における伝染病伝播モデルを応用し,空間的な病虫害被害拡散メカニズムをセルベースモデルにより描写した.免疫学などの分野では,SARS,インフルエンザなど伝染病の感染ダイナミクスを感染症流行の数理モデルにより表現し,伝染病感染の予測やワクチンの接種など対応策の効果を評価する研究が行われている(Marijn van Ballegooijen & Boerlijst 2004; Kato et al. 2011).このような数理モデルは,感染,治癒,免疫獲得,死亡といった状態の時間変化を記述し,個体間における伝染メカニズムをシンプルに表現できる.また,セルベースの伝播モデルを構築することで,空間上の伝播パターンを予測することができる.それゆえ,森林における病虫害の伝播メカニズムを表現する上で上記のような空間的な感染症流行モデルは非常に適していると考えられる.
 本研究では,感染個体が「抗体を獲得する」あるいは,「抗体を失う」,「感染から回復する」といった状態を取る一方,非感染個体は「感染」し,「枯死する」という状態になる可能性があるSIRSモデルをセルベースのモデルとして構築し,様々な管理空間パターンが病害虫の空間的な拡大に及ぼす影響を評価した.
仮想的な2,500セル(50セルX50セル)からなる森林ランドスケープを想定し,60 time stepsのシミュレーションを行い,異なる9パターンの空間管理シナリオ(No Management, SP01, SP02, SP03, SP06, SP09, SP13, SP17)が病害虫被害規模軽減に及ぼす効果を評価した.尚,病害虫は,左下コーナーの1つのセルから侵入してきたと仮定する.また,管理者は,予算制約のため,最大でもランドスケープに存在する全セル数の半分のセル数しか管理できないとする.
 管理を全く施さない場合,30 time steps 後にはほぼすべてのセルが病害虫による被害を受けることが示された.しかし,感染から回復するセルもあり,infection frontの後方に,枯死しないセルが存在し,その結果,感染セルと非感染セルからなるモザイク状のランドスケープになることが示された.
 また,本研究のシミュレーション結果は,病害虫被害規模軽減は,施される管理の空間配置により異なることが示された.管理パターンSP09とSP13は他の管理パターンに比べて,特に被害規模軽減については効果がある可能性が示唆された.この2つの管理パターンは,病害虫の侵略方向に対して,それらを取り囲むような管理の戦略であり,違いは,SP13の方が,SP09と比較して,管理帯の幅がより広いことである.SP13は管理帯の幅が広いため,予算制約により全ランドスケープの一部にしか管理が施されず,感染が管理域を超えると,被害が拡大する可能性が示された.その結果,管理帯の幅は狭いが,より広範囲に管理が施されるSP09よりも枯死セルの数が多くなった.
 SP01, SP02, SP03, SP06, SP17 は,それぞれ全ランドスケープに管理が行きわたるような管理パターンであるが,上記SP09とSP13と異なり,感染セルをを取り囲むように管理セルが連続して何層にもほどこされるようなことがないため,本シミュレーションでは,上記2パターンに比べると被害規模が大きくなっている. 
 このように今回の実験的なシミュレーション結果から管理の空間配置の違いにより被害軽減の効果が異なることが示された.今後は,実際の病害虫拡散の様子と比較することによりシミュレーションの精度を評価するとともに,最適化モデルとの結合による最適管理戦略の探索が課題である.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

木島真志,「Simulation for Forest Resource Management and Economic Analysis」,ワークショップ「生物集団のモニタリングデータ・生態系管理と統計数
理」2012年3月19日 研究事例紹介

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

開催していない.

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加茂 憲一

札幌医科大学

服部 浩之

鹿児島大学大学院 連合農学研究科 生物生産学専攻

吉本 敦

統計数理研究所