平成302018)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

30−共研−2060

分野分類

統計数理研究所内分野分類

f

主要研究分野分類

8

研究課題名

九州の山岳部における大気中水銀の輸送過程と起源解析

フリガナ

代表者氏名

シノヅカ ケンイチ

篠塚 賢一

ローマ字

Shinozuka Kenichi

所属機関

福岡工業大学総合研究機構

所属部局

環境科学研究所

職  名

研究員

配分経費

研究費

40千円

旅 費

79千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

目的:2013年1月に中国で顕在化した大気中PM2.5汚染およびそれらの日本への越境大気汚染はきわめて憂慮すべき環境問題である。実は、この時期大気中水銀も同様に越境輸送されていた。火力発電、家庭の暖房に石炭を用いている中国では、大気への水銀の放出量は世界最大であり、その東側にある日本はその影響を受けやすい。本研究では大気中水銀の長距離輸送の実態解明を行うために、九州の山岳部において大気中水銀の観測を行う。そのデータを基に発生源および輸送過程に関する解析を行う。統計解析に加えて、レセプターモデルなどを用いて、輸送過程や発生源別寄与率の推定、発生源に関する検討を行う。
当研究室では2008年から2015年までの長期にわたり、夏季の富士山頂で水銀の現場観測を行ってきた。そのため、富士山山頂で大気中水銀濃度の連続観測データが長期間で存在する。まず、九州における山岳域での長距離輸送の実態解析を行うに当たり、世界でも珍しい3,700mを超える山岳で大気観測が行われている富士山で、到達大気が排出源から負荷された水銀フラックスの量の推定を行った。到達大気の水銀フラックスと現場観測で得られた大気中の水銀濃度の関係を明らかにした。
方法 :後方流跡線解析はNOAAから公開されている気象データを用い、HYSPLIT-4モデルを用い、Rのオープンソースパッケージであるopenairを用いて解析を行った。後方流跡線解析を行うことで、観測された空気塊がどのような経路で運ばれてきたのかを気象データから推定することが出来る。この解析では、観測された大気塊の1時間ごとの位置情報である緯度、経度、高度を、5日前(121時間)まで遡って計算を行うことで、5日前にあった大気塊が観測地点までに到達するまでの経路地図を作成することが出来る。また、世界の水銀排出量は、Arctic Monitoring and Assessment Programme (AMAP)で公開されている0.5度x0.5度グリッドの水銀排出量の数値データベースを用い、グリッドごとの水銀排出量の地図を作成した。以上の後方流跡線、水銀排出量の2つの地図情報を重ね合わせることにより、大気塊が受けた水銀排出フラックス量を推定することが出来る。この解析によって得られた大気塊の水銀排出フラックス量は、緯度経度から様々なデータ(例えば、国名, 観測地点から汚染源までの距離)に加工することが可能である。後方流跡線解析で得られた大気の位置とGISを用いた解析で得られたこれらの情報を用いて、観測地点に到達した大気の動態解析を行うことができる。
実際の観測現場の山岳域は、谷風や山風といった山岳独特の地形による微気象の影響を受けやすい。そのため、始点となる観測地点の緯度、経度、高度の1地点のみでの解析では、空間的な誤差を生じやすく現場で観測された大気塊の経路を正しく捉えることが出来ないことが課題として考えられる。この問題を解消するため、観測地点を中心とした25地点での後方流跡線解析を行った。具体的には、観測地点を中心とする長さ0.5度の正方形グリッドを作成し、内側の間隔が0.125度ごとの計25地点に到達する大気塊の経路を後方流跡線により算出した。高さ方向の空間的誤差を少なくするため、標高が100mから富士山頂を含む5,000mまでの100mごとで後方流跡線解析を行った。2013年と2014年の2年間でそれぞれ1,250地点の後方流跡線解析を行い、水銀排出フラックス量の算出を行った。
結果:富士山頂で高濃度の水銀が観測された2013年と2014年を対象として解析を行った。2013年と2014年で高濃度の水銀濃度が検出されたときは、大気塊が高濃度の場所を通過してきていることが明らかになった。これらの国別で大気の水銀排出フラックス量の割合を比較すると、2013年では、中国が92%、フィリピンが2.3%、日本が1.9%を占める結果となり、2014年では、中国が84%、フィリピンが4.3%、タイが3.6%を占める結果となった。これらの上位の3か国で観測期間に到達した水銀フラックス量の90%が占めていることが分かった。
得られた上位3か国で、富士山頂で観測された水銀濃度と水銀排出フラックス量の比較を行った。その結果、富士山頂で高濃度の水銀が観測されたときは、中国を起源に持つ高い水銀排出フラックス量が観測された時と一致した。さらに、中国を起源に持つ高い水銀排出フラックスは、富士山の高度100-5,000mの中で、1,000m以上の高度を持つ高さに到達していることが分かった。一方で、2013年の日本国内を起源に持つ水銀排出フラックス量は富士山の、1,000m以下の標高で特に、500m以下のところに到達していることが分かった。これらの結果から、標高が高い山岳域の大気は、国外からの長距離輸送の影響を受けやすいことを示唆しており、国内での排出が山岳域に与える影響は標高が低い限定的な影響しかないことが分かった。山岳域の到達大気塊で国別での水銀排出フラックス量を算出し、観測結果と比較した研究は、既往の研究例がなく新規性がある結果である。
今後の課題:山岳で高濃度の水銀が観測されたときの大気塊は、高い水銀排出フラックスの影響を受けていることが分かった。山岳域での水銀濃度のモデルを作成するうえで、実測された水銀濃度を説明変数とし、大気が汚染域を通過した時間、受けたフラックス量、そして高度を説明変数とすることによりモデル作成を行う。モデル作成に当たり、統計数理研究所の金藤先生に相談をしたところ、地点数を減らしてモデルの説明変数のパラメータの推定および精度を高める助言を得た。今後は、2013年と2014年における連続観測データがある富士山頂でこのモデル作成を行っていく予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

1.永淵修, 中澤暦, 篠塚賢一, 木下弾, 菱田尚子, 西田友規, 加藤俊吾. 夏季富士山頂で観測された大気中高濃度水銀の起源解析. 第12回富士山測候所で行った活動の成果報告会, 2019.3.17, 東京理科大学森戸記念館 (口頭発表)

2.篠塚賢一, 永淵修, 中澤暦, 木下弾, 菱田尚子, 西田友規, 加藤俊吾. 夏季富士山頂で観測された大気中高濃度水銀の起源解析. 第12回富士山測候所で行った活動の成果報告会, 2019.3.17, 東京理科大学森戸記念館 (ポスター発表)

3.中澤暦, 永淵修, 篠塚賢一, 木下弾, 西田友規, 菱田尚子, 三宅隆之. 2012年と2017年秋季の自由対流圏に属する乗鞍観測所で観測した大気中水銀の動態. (査読中)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

・特になし

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

金藤 浩司

統計数理研究所

中澤 暦

福岡工業大学総合研究機構

永淵 修

福岡工業大学