昭和621987)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

62−共研−36

専門分類

5

研究課題名

分子動力学法における統計的諸問題の研究

フリガナ

代表者氏名

タネムラ マサハル

種村 正美

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析研究系

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

4 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

計算機シミュレーションの方法の一つに分子動力学法がある。これは多数の粒子から成る系の各時刻における各粒子の座標を運動方程式を解いて決定し,これらを用いて種々の統計量を求めるものである。この方法は原理的には初期条件を与えれば全てが決定論的に計算できるはずであるが,実際にこの方法を適用してみると様々の統計的問題が現れる。この研究の目的は,これらの諸問題を系統的に整理して,研究者に問題の所在と解決策を提示することである。


本研究では分子動力学法による実験の信頼性に関係して現われるいくつかの統計的問題点を整理し,実際に実験をおこなうことによって検討した。その一つは計算精度の問題であるが,計算に用いる精度が1ワード32,36および64ビットの場合について,それぞれ同一の初期条件から出発して,ある時間ステップ進んだ時点で時間の進行方向を反転させて,どれくらい前のミクロな状態が再現されるかを調べた。検討の結果,少なくとも倍精度(64ビット/ワード)での計算が必要なことが明らかになった。
実験をおこなうと各時刻ごとに変動するデータが得られるが,従来,この分野では熱力学量の時系列データを近代的な統計手法で処理することがあまりおこなわれていない。定常時系列の場合は,時間的変動の平均的ふるまいは,時間平均をとることによって求められるが,非定常時系列の場合はそれが使えない。そこでデータをトレンド成分と不規則成分に統計的に分解できれば,非定常の場合の処理も確立される。我々はTIMSAC84にあるソフトウエアによって,いくつかのデータを解析したところ,我々のデータが決定論にえられる変動データであるにもかかわらず,分解が良好におこなわれることが分った。したがって,今後はこのような手法の適用が望ましいと考えられる。
最近,一定の温度や圧力に保つ種々の分子動力学法が開発されているが,それらを適用する現象によっては問題が生じる可能性がある。本研究では,時間的な変化を迫うダイナミカルな現象において,通常の一定エネルギーの分子動力学法と他の分子動力学法を比較して問題点の所在を明らかにした。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

・種村正美/「分子動力学法における統計的諸問題」/1987年度統計数理研究所・研究報告会/1988年3月
・種村正美,上田顯,荻田直史,小川泰/「定温分子動力学法」/日本物理学会第43回年会/1988年4月


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

われわれは従来より,分子動力学法による実験と解析を共同で行ってきた。その経験から,この方法には計算精度・粒子数依存性・境界条件等,様々の問題点が存在することを痛感していた。そして,これをないがしろにすると計算結果に重大な影響が生ずることを見落としてしまう危険性を機会がある度に学会などで指摘してきた。本研究では,主として統計的問題に焦点を当てて,問題点を整理し実際に計算機シミュレーションを行いながら問題解決の方策を探る。具体的にはソフトコア系(逆巾相互作用ポテンシャル系),Lennard−Jonesポテンシャル系その他のポテンシャル系の各々について,(熱力学的)統計量の粒子数依存性,境界条件依存性等を調べ,出現する現象を整理して体系化する。このような研究は統計数理研究所における研究課題としてふさわしいものと考えられる。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

上田 顯

京都大学

小川 泰

筑波大学

荻田 直史

(株)日本電算企画