平成252013)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

25−共研−2001

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

データ主導モデリングによる脳神経細胞の周期的同期発火現象の解明

フリガナ

代表者氏名

オク ヨシタカ

越久 仁敬

ローマ字

Oku Yoshitaka

所属機関

兵庫医科大学

所属部局

生理学生体機能部門

職  名

教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

81千円

研究参加者数

10 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

本研究ではデータ主導アプローチをとり、重要かつ代表的な脳機能である周期的同期発火現象に着目し、それを生成する神経集団モデルを実データにより推定し予測型モデルを構築する。そして、実データの予測性能を評価することにより、周期的同期発火現象の数理的意味と生理学的機構を明らかにし、脳の動作原理についての理解を深める。
 本年度は、呼吸リズム生成ネットワーク内の細胞間コミュニケーションを明らかにするために、リズミック呼吸スライス標本を用いて、PreBotC領域から二光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージングを行った。二光子顕微鏡イメージングデータは、退色、低信号ノイズ比、スライスの移動などのため、前処理が必要であった。そこで我々は、バンドパスフィルタ、空間フィルタ、細胞認識、灌流液によるモーションアーチファクトの補正アルゴリズムを開発した。また、二光子顕微鏡イメージングでは、イメージはラインスキャン方式で取得されるため、ピクセル間に時間のずれが生じる。シミュレーションによって、遅いサンプリング速度(<10Hz)では、この時間のずれが無視できないほど大きくなり、ネットワーク結合の推定に誤差を生じることがわかった。そこで、我々は、このピクセル毎のタイミングの補正を行うプログラムを開発した(J Neurosci Methodsに論文提出済み)。これらの前処理後にカルシウムイメージングデータを解析したところ、呼吸に関連する細胞(ニューロンおよびグリア)の呼吸に同期したCa2+バーストシークエンスは一呼吸毎に異なっていることが判明した。このことは、呼吸リズム生成機構が単なるペースメーカー機構では説明できないことを示している。現在、活動タイミングの自動検出アルゴリズムを作成し、詳細を検討中である。また、Hulsmann教授から提供されたGFAP-EGFPトランスジェニックマウスの二光子イメージングデータの詳細な解析により、ニポウ板共焦点システムで観測されたアストロサイトの呼吸リズムに同期したCa活動(J Physiol, 2012)が二光子顕微鏡でも確認された。このことは、PreBotC領域ではアストロサイトも呼吸リズムと同期して活動しており、呼吸リズムに影響していることを示している。
 呼吸ニューロンネットワークモデルのシミュレーションによる検討では、カルシウムイメージングによって解析した実際の呼吸ニューロンネットワークの累積相互相関度数分布関数の抑制性シナプス遮断前後の変化が、ランダム結合ネットワークでは説明できないことが明らかになった。そこで、ランダム結合ネットワークから開始して、遺伝子アルゴリズムを用いてネットワーク結合を変化させて、モデルネットワークの挙動を実際のネットワークの挙動(今回は、累積相互相関分布関数の変化)に近づけるプログラムを開発し、検討中である。
 さらに、カルシウムイメージングデータの時系列解析と、ニューロンとアストロサイトの自動検出アルゴリズムの開発を行った。カルシウムイメージングデータは感受性色素(OG)で計測され、ニューロンとアストロサイト両方の継時的活動が記録されている。同じ標本をGFEA色素で計測したイメージデータは時間情報を持たないが、アストロサイトの部位が記録されており、これら2種類のイメージデータを用いて自動検出アルゴリズムの開発を行った。カルシウムイメージングデータの各ピクセルに対応する時系列の分散を計算することによって得られる分散マップにおいて相対的に分散の大きい領域がニューロンとアストロサイトの位置に対応する。GFEAイメージでは相対的に強度の高い領域がアストロサイトの位置に対応する。呼吸活動のオンセット、オフセットはLocal Field Potential (LFP)の時系列情報としてカルシウムイメージングデータと同時記録されており、呼吸関連のニューロン、アストロサイトはカルシウムイメージングデータとLFP時系列との相互相関解析により作成された相関マップにより検出した。分散マップ、GFEAイメージ、相関マップは対応する物理量が異なるので直接比較することはできないので、各々のマップを2値画像に変換した。これらの画像のうち相関マップは対応するp値を用いて統計的に閾値を設定することができるが、分散マップとGFEAイメージについては客観的に閾値を設定することは困難である。そこで、我々は分散マップとGFEAイメージにおいてピクセル値を横軸に設定したヒストグラムをプロットし、その接線の傾きが急峻に変化する点を閾値として用いる方法を提案した。この方法により、全てのイメージを自動的に2値化することが可能となり、2値化した分散マップと相関マップからニューロン、アストロサイトのうち呼吸に関係するものしないものを識別することができる。さらに、2値化した相関マップとGFEAマップから呼吸に関連したニューロンとアストロサイトを自動的に区別することが可能となった。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

論文発表

1. Fujiki Y, Yokota S, Okada Y, Oku Y, Tamura Y, Ishiguro M, Miwakeichi F. Standardization of size, shape and internal structure of spinal cord images: comparison of three transformation methods. PLoS One. 8(11):e76415, 2013.

2. 三分一 史和, 生体イメージングデータ解析のための時空間フィルタリング方法, 認知神経科学, 15-1, pp25-32, 2013.

3. Koshiya N, Oku Y, Yokota S, Oyamada Y, Yasui Y, Okada Y. Anatomical and functional pathways of rhythmogenic inspiratory premotor information flow originating in the pre-Botzinger complex in the rat medulla. Neuroscience. 2014 Mar 18 Epub ahead of print.

学会発表

1. Miwakeichi, F. Evolution of the analysis of brain signal, Research Center for Applied Perceptual Science Kickoff Symposium, Between Perception and Language, Fukuoka, Japan, 2013.04.01

2. Okada Y, Takeda K, Oyamada Y, Oku Y, Miwakeichi F, Someya. H, Ishiguro M, Tamura Y, Mieczyslaw. P. Post-hypoxic potentiation of breathing is mediated by astrocytes, XI European Meeting on Glial Cells in Health and Disease, Berlin, Germany, 2013.06.03

3. 三分一 史和. 脳信号解析における統計学の役割, 統計数理研究所2013年公開講演会, 東京, 2013.11.07

4. Miwakeichi, F. Extraction of Neural Activation from Biological Spatio-temporal Imaging Data using Autoregressive Model-based Filtering Technique, The Second International Conference on Global Health Challenges, Lisbon, Portugal, 2013.11.18

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

1. カルシウムイメージングデータの時空間解析に関する研究集会1. 分散マップによる細胞の抽出とレファレンス波形を用いた短時間相互相関法による活動ニューロンの表示 H25.5.26 統計数理研究所 7名参加

2. カルシウムイメージングデータの時空間解析に関する研究集会2. 二光子イメージングデータ取得の際のタイムラグ補正について方法の論文化について H25.6.26 兵庫医科大学 4名参加

3. カルシウムイメージングデータの時空間解析に関する研究集会3. ニューロン間相互相関累積度数分布関数とラスタープロットについて H25.9.10 兵庫医科大学 4名参加

4. カルシウムイメージングデータの時空間解析に関する研究集会4. GFAP-EGFPトランスジェニックマウスを用いた二光子イメージングデータの解析法 H25.12.17 統計数理研究所 6名参加

5. カルシウムイメージングデータの時空間解析に関する研究集会5. GFAP-EGFPトランスジェニックマウスを用いた二光子イメージングデータの活動相関イメージング H26.1.17 統計数理研究所 6名参加

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

石黒 真木夫

統計数理研究所

岡田 泰昌

独立行政法人国立病院機構村山医療センター

尾家 慶彦

兵庫医科大学

ガルカ アンドレアス

University of Kiel, Germany

染谷 博司

東海大学

田村 義保

統計数理研究所

ボワル ディミトリ

兵庫医科大学

三分一 史和

統計数理研究所

ラル アミット

Peking University