平成クオ1989)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

クオ−共研−39

専門分類

5

研究課題名

分子動力学法における統計的諸問題の研究

フリガナ

代表者氏名

タネムラ マサハル

種村 正美

ローマ字

所属機関

統計数理研究所

所属部局

調査実験解析研究系

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

5 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

多数の粒子から成る系の統計力学的性質を明らかにする計算機実験の方法の一つとして分子動力学法がある。これは各時刻における粒子の位置と速度を運動方程式を解くことによって生成していくものである。この方法は初期条件が与えられれば全てが決定論的に計算できるはずであるが,実際には様々の統計的問題が現れる。しかし通常はこれらの問題が深く検討されずに実験が行なわれることが多い。本研究の目的は,分子動力学法に関係して現われる種々の統計的問題を系的に整理して,関連研究者に問題の所在と解決策を提示することである。


多数の粒子からなる系の統計力学的性質を調べるための一つの手段として,計算機実験による方法が用いられる。これには,通常,モンテカルロ法と分子動力学法の二つの方法がある。前者は乱数を用いてギブス統計集団を実現する方法なので,本質的に統計的かつ確率的要素を含んでいるのに対して,後者はニュートンの運動方程式を逐次,決定論的に解いて行く方法なので,後者には一見統計的問題を含まないように考えられがちである。しかし,実際に分子動力学法による実験を行なって行くと様々な統計上の問題点に出会わす。そのような問題点の所在を明らかにして,解決の糸口の指針となるものを見い出すことが本研究の目的であった。
本年度は,当初の研究計画に基づいて,分子動力学法の一方法である定温分子動力学法における問題点を前年度に引き続いて実証的に考察するため,一次元系の実験を行なって,通常のミクロカノニカル集団の分子動力学法との違いを明確にし,研究会にて口頭発表した。また,高密度液体からの結晶化の実験では,結晶核と液体部分を統計的に分離することが重要であり,われわれはそのためにVoronoi多面体を用いることをすでに提案して,我々の解析法が標準的になりつつあるが,今年度は4000粒子系の二つの実験を新たに行なって,臨界結晶核のサイズやその生成頻度の数値に対する統計的精度を高めた。これに関しては,第7回液体・アモルファス金属国際会議にて口頭発表し,Journal of Non−Crystalline Solidsに印刷公表した。


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

M.Tanemura,H.Matsuda,T.Ogawa,N.Ogita & A.Ueda,“Molecular Dynamics Study of Crystallization of the Soft−Core Model”,第7回液体・アモルファス金属国際会議(京都),平成元年9月5日発表
種村正美,上田顯,小川泰,荻田直史:「定温分子動力学法についてII」
第3回分子シュミレーション討論会,京都大学,平成2年1月25日発表
種村正美,松田博嗣,小野泰,荻田直史,上田顯:「4000粒子ソフトコアモデルの結晶化の計算機実験」,日本物理学会第45年会,大阪大学,平成2年3月31日発表
M.Tanemura,H.Matsuda,T.Ogawa,N.Ogita & A.Ueda,“Molecular Dynamics Study of Crystallization of the Soft−Core Model”,Journal of Non−Crystalline Solids,No.117/118,1990,pp.883−886.


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

1.分子動力学法による計算機実験における統計的な問題点の整理を昨年度に続いて行なう。この問題点は計算機実験のもう一つの方法であるモンテカルロ法とも共通するものもあり,計算機実験全般に亙る立場で考察する。
2.ソフトコア系(逆巾相互作用ポテンシャル系),Lennard−Jonesポテンシャル系などの相互作用ポテンシャルのもとで分子動力学法による計算機実験を実際に行なって,(熱力学的)統計量の粒子数依存性,境界条件依存性などを調べる。
3.通常の分子動力学法は全エネルギー一定のミクロ・カノニカル集団を実現する方法であるが,最近,一定の温度でカノニカル集団を実現する方法,一定の圧力の下でカノニカル集団を実現する方法がよく用いられている。しかし,これには問題があり,それを簡単のために一次元における実験によって明らかにする。
以上の問題を統計的に解明するために,統計数理研究所において開発されたソフトウェア・統計的手法が必要である。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

上田 顯

京都大学

小川 泰

筑波大学

荻田 直史

(株)日本電算企画

松田 博嗣

九州大学