平成252013)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

25−共研−2039

分野分類

統計数理研究所内分野分類

d

主要研究分野分類

7

研究課題名

事業所・企業統計の匿名化ミクロデータの作成実験と社会経済変動過程の解析への応用

フリガナ

代表者氏名

マツダ ヨシロウ

松田 芳郎

ローマ字

Matsuda Yoshiro

所属機関

公益法人統計情報研究開発センター

所属部局

企画本部

職  名

客員上席研究員

配分経費

研究費

40千円

旅 費

433千円

研究参加者数

16 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

周知のように社会経済統計の調査単位は大きく分けて個人・世帯と事業所・企業がある。前者のデータに関しては、新統計法の施行以来、ミクロデータの利用が匿名化標本データの形でその利用が活発化してきている。しかし後者のデータに関しては、その規模分布の特性から言って匿名化標本データが作成しにくいだけでなく、多くの分析で、上位規模の事業所・企業を標本抽出したのでは、経済全体の動向を見誤る可能性があり、匿名化標本データの作成に関しては一般的に調査担当の省庁の統計部局は消極的である。
本研究では、どのようにするならば、ミクロデータの匿名化利用が可能であるかを、事業所・企業の産業格付けから検討してきた。第1に、これまでの我々の実験の積み重ねのもとに産業分類が調査の基本単位である事業所の産業格付けとしてどのように変動してきたかをミクロデータのパネル化により追跡した。第2に主として製造業における部品製造等の海外展開の現状を踏まえて、企業の多国籍化を検討した。
第1の検討については、一定の成果が見られたので、詳細な集計表を添えて公表することにした。ここでの問題は、企業単位で解析するならば、複数事業を営んでいる企業における主業種の転換要因が何かということである。だが、ここからさらに二つの問題が発生する。ひとつはパネルデータ作成に関する問題であり、いまひとつは何によってそのような異業種への転換が可能になったかである。後者の問題は、固定資本設備の転換の前にどのような研究開発投資が行われてきたかと連動しており、通常は異業種転換までの時の遅れ(time-lag)を伴う。これはこれまでの財務諸表を中心にした法人企業統計調査と労働力を中核とした経済センサスデータだけでは解析するのは困難であり、将来課題として残されている。
第2の検討は、まだその端緒についたばかりであり、特定の外資系の企業を例にして一時点での有価証券報告書データとの比較による検討であるが、将来拡張される可能性のあるものであり、試作品ではあるがあえて公表することにした。
これらの検討から浮かび上がったことは、事業所企業系の統計調査で、事業所ないしは企業を匿名化することの難しさである。一つの方法は、in-house useに限定して利用することであり、それにはそれなりの組織と施設が必要とされる。他方、使用箇所を特定化しない、匿名データに即応した利用の場合には、規模分布の上位規模のものを悉皆で利用すると言うのは極めて難しい。生産高・売上高のように特定産業のかなりの部分を占める規模分布上位企業そのものの値を分析するような問題設定であるならば、利用は難しいと言わざるをえない。しかし、そのような網羅性を必要としない、例えば、企業内の従業員数・その構成、賃金水準などのように、当該企業のその産業に占める比重が問題にならないような事項であるならば、標本データで十二分に解析可能である。今後の検討に委ねたい。
今ひとつの問題は、パネルデータ作成に関連する問題である。これまでの、事業所・企業のもっとも網羅的なセンサスデータとしては、事業所・企業統計調査が挙げられるが、当該調査は総務省統計局の伝統的調査方法の調査員調査で行われてきた。経済センサスの創設はそのような手法だけでは、統計調査の客体把握という点だけでも問題があることが明らかになった結果である。今回の平成21年(第1回)経済センサス?基礎調査では、そのことが鮮明に明らかにされた。それとともに、この種のデータをデータベースに取り込んで維持更新することの重要性も示された。今後は事業所・企業母集団名簿として整備・更新されることも決まっており、今後の展開に光明が投げかけられている。同時に、これまで統計局の開発してきた事業所の回顧IDと呼ばれる異時点間の同一事業所を結ぶ事業所固有識別コードが重要であることを再認識させるきっかけになった。この研究の副産物として、この事業所回顧IDの精度分析も行った。その結果からは、伝統的な調査員調査でこれまでかなりの精度が確保されてきたことを示していることが判った。しかし、法人企業統計調査との企業数の乖離の解消のために、より一層の精度の向上を図ろうとするならば、今回の平成24年経済センサス?活動調査の個票情報との組合せによる解析を行うことで、そのための方法を見出すことが可能であると想定される。今後の展開に待つことにして、本研究を収束させることとした。
この研究は随時、統計数理研究所で同研究所の共同研究と松田芳郎の代表を務める日本学術振興会の科学研究費の補助を受けて実施した。統計数理研究所の馬場康維特命教授および研究事務局の指揮をしてくださった土屋隆裕准教授のご厚意に記して謝意に替える。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

統計数理研究所 共同研究リポート325
『匿名化手法と企業分類格付け・産業構造の変容』(2014年3月)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

○第1回研究会
日時 2013年8月30日 10時〜18時
場所 統計数理研究所 八重洲サテライト会議室
参加者 今、古隅、松本、真崎
議事
 個票情報の入手状況について
 金融保険業のウエイト作成方法について
  経済センサス基礎調査により作成する手順とその詳細
 金融保険業の兼業状況について

○第2回研究会
日時 2013年9月29日 
場所 統計数理研究所 八重洲サテライト会議室
参加者
 松田、馬場、椿、今、周防、伊藤、古隅、松本、国方
議事
 1983-2002年の産業構造の変動と企業産業分類に関して
 (古隅弘樹・馬場康維・松田芳郎)
 [招待講演]平成不況期の不良債権について
 (国方明【青森公立大】)
 個票情報利用申請の現状報告
 明年度以降の研究計画に関する検討

○第3回研究会
日時 2014年1月9日 
場所 統計数理研究所(立川)セミナー室3
参加者
 松田、馬場、土屋、古隅
議事
 来年度の共同利用研究の申請について
 共同研究リポートの取りまとめについて

○1月集中作業
日時 2014年1月21日〜26日
場所 統計数理研究所(立川)赤池ゲストハウス
参加者
 松田、松本(21-24日)

○2月集中作業
日時 2014年2月12日〜23日
場所 統計数理研究所(立川)赤池ゲストハウス
参加者
 松田、馬場、古隅(12-20日)、松本(17-23日)

○3月集中作業
日時 2014年3月10日〜20日
場所 統計数理研究所(立川)赤池ゲストハウス
参加者
 松田、馬場、古隅(10-17日)、松本(10-20日)

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

伊藤 伸介

明海大学

大矢 奈美

青森公立大学

河野 秀孝

青森公立大学

栗山 規矩

東北大学

今 喜典

青森公立大学

佐藤 整尚

統計数理研究所

周防 節雄

兵庫県立大学

土屋 隆裕

統計数理研究所

椿 広計

統計数理研究所

馬場 康維

統計数理研究所

舟岡 史雄

信州大学

古隅 弘樹

兵庫県立大学

松本 大吾

青森公立大学大学院

元山 斉

信州大学

山本 俊

ノースアジア大学