昭和631988)年度 共同研究実施報告書

 

課題番号

63−共研−66

専門分類

7

研究課題名

競合モデルに基づく死因分析

フリガナ

代表者氏名

ノダ カズオ

野田 一雄

ローマ字

所属機関

明星大学

所属部局

理工学部

職  名

教授

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

0千円

旅 費

0千円

研究参加者数

7 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

動物の死亡ないし寿命短縮の原因が複数個ある場合,いわゆる逆問題となるが,これらの原因が単独に働くと想定されるときの結果現象への寄与を解明することが先ず重要である。このもとに,原因相互の関係も量的に位置づけられる。
本研究では,このような原因の競合モデルを設定し,これに基づき上記の構造を解析する。とくに,いわゆる晩発障害の様相の分析をふくめ,implicitな生存曲線の表出,さらに寿命短縮への寄与率の表現などの決定問題を解決する。


本年度は,放射線による発癌データを死因の競合モデルを適用することによって解析することを主に行った。
放射線による発癌実験として寿命を求める終生飼育実験には,早期に現れる死因が遅く現われる死因に影響するという「危険の競合」現象が生じる。この補正として,着目する死因による対象の寿命分布ないし生存曲線を競合する他の死因が存在しないと想定した場合について求めることが考えられる。従来,このような分析には,Kaplan−Meierのノンパラメトリックな方法が採用されていた。しかし,この方法では,生存曲線の途中までしか補正ができず,補正した平均寿命を求めること,またその対照群ないし死因別のそれらの比較が不正確となる。われわれは,寿命分布としてワイブル分布族を設定し,データへの適合をその確率紙によって判定した。このような前提作業のもとで,マウスの発癌データ,すなわち,10週令のddY雌マウスにX線の1回照射を行い,CV条件下で終生飼育したデータを取扱った。線量は,頭部,躯幹部,下肢部の部分照射では800R,全身照射の場合は600Rである。
いま,肺腫瘍に着目すると,全身照射群で70週令以降には,肺腫瘍の発生が殆ど観察されず,この時期で生き残りのマウスが少なかったと考えられる。この主な原因は,全身照射において,胸腺リンパ腫の早期多発である。したがって,このような先行する死亡の影響を補正することとして,上記モデルを適用した。1例として,悪性リンパ腫について平均寿命を求めると,下記の表の通りである。全身照射群では,補正しても早期発生は明らかであるが,躯幹部照射では,補正しないと,間違った判断をすることが考えられる。
このような結果は,他の死因についても同様なことがいえる。
なお,ワイブル確率紙による生存曲線の推定は,Kaplan−Meierの方法とほぼ同様な結果となった。先述のように,後者の方法では折れ線による途中までの曲線しか得られないが,前者によっては,なめらかな終極までの曲線がえがかれることになる。
現在,最尤法によって,上記データの解析を継続している。
悪性リンパ腫を死因とする平均寿命
補正 未補正
非照射 760日 586日
全身照射 542日 304日
頭部照射 811日 574日
躯幹部照射 1121日 365日
下肢部照射 817日 463日


 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

学会発表
1.「生存曲線モデルによる発癌データの解析」,放射線影響学会,広島市,1988年10月。
2.「生存曲線モデルによる発癌データの解析」,日本獣医学会,東京,1989年4月。
論文発表予定


研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

本年度は,実験によって得た放射線を照射されたマウスの死亡等記録データの解析を推進する。昨年度は,死因の競合モデルを規定する分布族をワイブル分布族として,上記implicitな生存曲線の表出を確率紙を用いて行った。この結果をふまえ,次の項目を重点的に研究する。
1.最尤法によってさらにimplicitな生存曲線をグラフ化する。既成の方法として定着しているノンパラメトリックな方法(Kaplan−Meiyer)によるものと,前二者とを比較検討する。
2.死因・被爆部位・放射線量の類別に基づき,死因の結果現象への寄与を比較検討する。とくに早・晩発障害の様相について解析する。
3.上記のモデルを,さらにimplicitな生存時間分布がそれぞれ異種の確率分布をもつモデルへ拡張し,モデルの最適性の決定によって,死亡,ないし寿命短縮の原因の競合作用の構造をより明確にする。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

加藤 寛夫

国立水俣病研究センター

佐藤 文昭

北海道大学

鈴木 和幸

電気通信大学

田ノ岡 宏

国立がんセンター

三野 大来

順天堂大学

村上 征勝

統計数理研究所