平成172005)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

17−共研−1016

専門分類

7

研究課題名

ProteinDFによるタンパク質全電子計算と統計解析の研究

フリガナ

代表者氏名

サトウ フミトシ

佐藤 文俊

ローマ字

Sato Fumitoshi

所属機関

東京大学

所属部局

生産技術研究所 計算科学技術連携センター

職  名

助教授

所在地

TEL

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E-mail

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研究目的と成果(経過)の概要

 我々は、タンパク質のための密度汎関数(DF)法プログラムProteinDFを基に、タンパク質の統合的な量子化学計算シミュレーションシステムの開発を行っている。本プログラムは、Gauss型基底関数展開に基づいた密度汎関数法による、世界初のタンパク質全電子計算が可能なプログラムである。本研究では、活性中心近傍における生体触媒反応をはじめとする量子論に基づくタンパク質の反応・機能解析を行うことを目的とし、現在以下の研究に注力している。
(i) タンパク質第一原理ダイナミクスとその統計処理の研究
 ProteinDFをベースにした第一原理分子動力学計算を行っている。また、反応に関与するトラジェクトリーを効率よく探索するための統計的手法を検討している。最終的に得られたトラジェクトリーについては統計的な手法に基づいて解析を行い、熱力学的物理量について検討している。
(ii) タンパク質波動関数データベース作成と統計処理の研究
 系統的にタンパク質を選出し、それらの全電子計算または構造最適化計算を行い、新規データベースの構築を行っている。大量の波動関数データの解析には、統計的手法に基づく新規プログラムの開発が必須である。さらには本システムと既存のバイオインフォマティクスシステムとの連携を目指している。
 これまでの成果は以下の通りである。
 タンパク質のシミュレーションを行う上で、計算結果に大きな影響を及ぼす計算構造の決定は非常に重要である。一般にタンパク質のモデル・座標は、PDB(Protein Data Bank)から取得した座標データや、それを元にした通常の古典分子動力学法や構造最適化法のシミュレーションデータを用いる。残念なことに、これらの方法が必ずしも化学的に適切な構造を保障していない。そこで、インスリン6量体に対して、いくつかの方法により得られた構造の比較および調査を行い、タンパク質の全電子状態計算の計算構造に適した手法を探求した。このサイズの分子の最適構造を得る手法としては、水分子を明示的に取り扱った古典分子動力学法が現在主流であるが、実験から得られた構造とかけ離れてしまうことが多い。そのため、溶媒としての水分子を明示的に扱わないGB法による構造最適化が適していると判断した。本方法によってPDB構造とかけ離れることなく、インスリン6量体の化学的に妥当な構造を得ることが出来た。
 また、QCLO法によるダイナミクス計算加速法を検討している。現在の計算機資源ではタンパク質の全電子計算に基づいた動的な量子シミュレーションは困難である。従って、特定のフラグメント上に局在したカノニカル軌道(QCLO)を得るための手法を新たに立式化した。構造や電子状態計算を動的に取り扱う領域とこれらを固定する領域とに分けることができるため、系全体は全電子計算に基づきながら、計算量を大幅に減らした部分動的シミュレーションが可能になると期待される。
 タンパク質波動関数データベース用のデータとして、ProteinDFシステムを使いてタンパク質の全電子計算を行うと共に、計算手法の高性能化を行った。多数のアミノ酸からなるタンパク質は巨大かつ複雑な分子であるため、これらの系におけるSCF計算の正しい収束解を得るには、非常に良い初期値を用いる必要がある。そこで、良い初期値を作成する方法として、タンパク質の一次構造に基づくこれまでの手法を発展させ、二次構造や塩橋に基づく新たな手法を開発した。新たな手法の初期値と収束値の差は十分に小さく、その初期値は従来法に比べ大幅に改善されたものであった。新たな手法は安全に収束解が得られる点だけでなく、二次構造や塩橋は座標データから容易に判断することができるため、簡便に計算シナリオを作成できる点においても有用である。今後自動的に適した計算シナリオを作成・実行するプログラムを開発する予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【学会発表】
・ 恒川 直樹, 稲葉 亨, 平野 敏行, 吉廣 保, 柏木 浩, 佐藤 文俊, 分子構造総合討論会, 3P106 (2005).
・ 平野 敏行, 佐藤 文俊, 分子構造総合討論会, 2P047 (2005).
・ 佐藤文俊, 井原直樹, 恒川直樹, 西野典子, 西村康幸, 平野敏行, 吉廣保, 稲葉亨, 小池聡, 佐藤昌宏, 下堂靖代, 西村民男, 小池秀耀, 柏木浩, 分子構造総合討論会, 3D05 (2005)
・ 小池聡, 佐藤文俊, 井原直樹, 恒川直樹, 西野典子, 西村康幸, 平野敏行, 吉廣保, 稲葉亨, 佐藤昌宏, 西村民男, 小池秀耀, 柏木浩, 第28回情報化学討論会, J05 (2005)
・ 西野典子, 平野敏行, 西村民男, 小池聡, 佐藤文俊, 第28回情報化学討論会, JP17 (2005)
・ 井原直樹, 佐藤文俊, 第28回情報化学討論会, JP18 (2005)

【出版物】
・ 西村民男, 稲葉亨, 小池聡, 平野敏行, 田原才静, 吉廣保, 西村康幸, 西野典子, 佐藤文俊, 柏木浩, ProteinDFによるタンパク質量子化学計算事例集, アドバンスソフト, (2005).

【ホームページ】
・ http://www.rss21.iis.u-tokyo.ac.jp/
・ http://satolab.iis.u-tokyo.ac.jp/

【その他】
・ 佐藤文俊,ISMオープンフォーラム,「統計科学と乱数、シミュレーション」,第7シリーズ,(2006).

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

井原 直樹

東京大学

恒川 直樹

東京大学

平野 敏行

東京大学